嫌悪感マックスな青春~マジでお前ら近づくな~

黒虱十航

入学式~2

無論、何の問題も無く原稿を書き終えた。何かを書くという行動は、俺をとても落ち着かせてくれる。勉強だって何だって俺はずっと書き続けることで覚えた。それしか方法が無かった、というべきだろうか。ただ、どんどん文字を書き真っ白だった紙が鉛筆で塗られていく。この様は、俺でも感じられる心地良い感じである。だからまあ、なんの躊躇いも無くさっさと書き終えて校長先生に提出した。ぱらぱらと音がなりやがて原稿用紙を手渡され俺は、一礼してから校長室を出る。母親は俺についてきて体育館に向かう。ここからの距離をもう一度確認。歩数計算をしてからさっさと体育館に向かう。その道中でもやはり声が聞こえる。式場も既に五月蝿さをかもし出している。分からなくも無い。小学生が中学生に進学、というのは些細な変化に思えて本人からすればとてつもなく大きな変化なんだ。俺だってそう。だが、彼ら彼女らと俺のそれは、明らかに違う。違うというのも意味合い的には同じはずだろう。だが、みている世界が圧倒的に違うのだ。彼ら彼女らの見ている世界は、偽物でしかなくてゲームで言えばバグ、表面といったところだ。ゲームの主は裏面だというし改造データはバッシングを受ける。それと同じだ。そんな偽物の世界には何の意味もない。だが、な。いくら低レベルな表面連中や違法な改造野朗であっても俺は、負けるわけにはいかない。トップにさえ立てればそれだけでどれだけ動きやすくなることか。リア充のみている世界がどんなものか、流石にまだ知りえていないがそれを中学生、高校生でやっと分かるはずだ。だから、その景色をみて、それでこの世界が極める価値さえないクソゲー以下だと、そういえるのならば、もしくはそれを否定できるのならば俺のやってきたことの意味はある。まあ、意味なんか無くても別にいいけどさ。式場で到着を意味する名簿に名前を書きその他書類を提出してから母と分かれる。そこから迷うことなく自分に当てはめられた場所に向かう。ある程度近づくと話していた俺の同級生連中が「君はそこだよ」だの「よろしくね」だのといってくる。欠かさず満面の笑みであいさつをして指定された席に座る。後ろには2年生、3年生の先輩がいること、入学式の流れなども既に予習済みだ。予習さえ出来ていれば完璧。元々、頭がただ、よかったわけじゃない俺は、基礎を固めた。暗記能力、コミュニケーション能力。それらの基礎を固めて笑顔の練習もした。相手が喜ぶであろうトーンで話す練習もしたし相手のトーンを聞くだけでどんな答えを望んでいるかも分かるように沢山沢山パターンを覚えた。今の暗記能力は、その頃から来ている。
「いやぁ、緊張するねぇ。うちの小学校から誰も来て無くてさ。周りの人、結構同じ学校の人もイルっぽいから大変だよ。君は?」
「俺も俺も。でもまあ、大丈夫だって。小学校が同じであろうと無かろうと仲良くなれる人とは仲良くなれる。」
「そうかな?」
「そうだと思うよ。まあ、俺も周りの人が小学校違う人ばっかで緊張してるけど」
「何だよ、結局緊張してるんじゃん」
隣に座っていた男子生徒が話しかけてくる。やばいな、まだ流石に名前は分からない。まあ、入学式で全員の名前を呼ばれるしそれに返事をする。それで声を当てはめれば問題ないはずだ。どうでもいい会話。それをあたかも面白くするコツ。簡単だ。表情とトーン。そして茶目っ気を見せる。例えばほら、今、校長先生が入ってきた。こういう時には・・・
「お、もう始まるんじゃね?」
「いや、まだ後5分あるし来てない人いるし始まらないでしょ?」
「あ、そっか。あせりすぎたか。うーん、やっぱ緊張しすぎて調子悪い。いつもならもっと大きく
間違えるのになぁ」
頬をかきながら恥ずかしがるようにそう言葉を発する。それも全部暗記の賜物。コマンド選択みたいなものだ。これでちょっと間の抜けてる男の子みたいなイメージが定着する。他のやつには他のイメージを定着させる。それによって「俺はこいつのこんな一面を知ってるんだぜ」みたいな話になってくれる。
「なんだよ、結局間違えるんじゃん。ま、いいけどさ。でも皆、頭よさそうだね。マジでインテリ系って言うの?そういう感じの顔の人ばっかりじゃん。俺とか馬鹿っぽくてさ」
「そうか?それいったら俺なんてしょっちゅう言われるぞ?ただギリギリで勉強したらちょうど山張ってたところが入試にでて受かったレベルだしもうちょっと頑張らないとどんどん馬鹿に見えるかもな」
嘘である。勿論、当然に決まってるだろ?すでに中学生の範囲は終えそうだ。軽く流すレベルでいい。問題はここから。俺のエネルギー消費の半分以上が人間関係の構築と維持。その点で、こいつは第1号の友人である。ポイント稼いで手放さないようにしないと。


少しして俺も周りの連中と話し始めた。名前を名乗ったりとかそういうのは後でって感じでお前とか君とかそういう代名詞で呼び合っていた。くだらない話。それでもいい。それだからいい。くだらない話だからこそ誰かとシェアしてその話題の価値を上げようとする。くだらない中でもより良質なものを。そうやって日ごろから話題を探すのだ。そして俺はノートに何十回も書いて覚えたいくつもの会話を頭に浮かべる必要も無く振っていく。といっても5分ほどしかない。そこまで話せることも無く短い話題を振ってきりのいいところで切り上げた。
「じゃ、後はこれ終わったらにしないか?ちょっと時間的にもそろそろだし入学早々起こられるのは俺も嫌だぞ。小学校の入学式で前科あるからな」
「マジかよ。まあそうだな。じゃ、後で一緒に帰ろうぜ」
「おう、」
数人でそんな会話を交わして入学式の始まりを告げる副校長先生のアナウンスが響く。うちの学年は3クラス30人。約100人いるが名前と声を覚えるぐらい容易い。俺はB組なのでB組の連中は、特に覚えなければならない。紹介された1年の学年主任の先生が呼ばれた生徒は返事をしなさい、ということを前置きしてからそれぞれの名前を呼ぶ。それぞれに返事をする。それを全て脳にバックアップ。書き換えて新しいデータにする。それを幾つものファイルに保存して消えても消えないようにする。そこから更に自分の返事にも力を入れる。猫実涼。その名前を呼ばれ、俺は全力で演じて返事をする。
「はいっ」
――――と。そう一言発するのにどれだけの集中力を有したものか。トーンの工夫も笑顔も感情にさえも仮面をつけて息をすって発したその返事は式場である体育館に響き渡った。その後も呼ばれていく奴らの名前を全暗記する。その中には変わったものから平凡なものまであったが流石に中学校ということもあり天才でなければ絶対に受からないというわけじゃないのできゃぴきゃぴとした声の奴らもいた。こいつらをどう、引き込むか、だな。まあ、どちらにせよ俺の策はもう始まっている。この世界を攻略する。

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