不良品な青春ループ

黒虱十航

△魔術師の芽吹き2~月~

「つまらん」
 その一言は、辛辣だった。そのつまらん作品に、こっちは2億年ほど費やしたというのに、その一言が先に来るのは酷いではないか。
 そう思ってしまう俺は傲慢なのだろうか。既に、時間感覚があやふやになってきているしもしかしたらそういう感情の感覚も鈍くなっているのかもしれない。
 いや、そうじゃない。目の前にいるのは文学の神様なのだ。しかも、自分を唸らせる作品を作った暁には付き合ってやるとさえ言っていた神様だ。自分の見る目には相当自信があるに違いない。
「内容もそうだが……それ以前に文章力がなさ過ぎる。そもそも、文章を書くのに必要な力が丸ごと消えてしまっているようなものだ。酷い。酷過ぎる。読むに値しないゴミだ」
 そこまで言われてしまうと流石の俺でも、泣きたくなって来る。そもそも、俺は文章力&学習能力が欠如している人間なのだ。俺に文章力を求められても困る。
「そうやって逃げるのは、愚者のすることだ。捌番くん。君は、私のおもちゃなのだからおもちゃらしく自分の能力をひたむきに上昇させなさい。
 二億年かけて一作やっと作るようなノロマは、私も初めて見たが、それと同時に二億年、ここで体を維持できる人間もまた私は初めて見たのだよ。だから、君には期待している」
 一言、期待していると言ってくれるだけでさっきまでのダメージは嘘のように消え去った。あまりにも心地の良い声と、美しい姿から繰り出される言葉は、少しずつ身を抉っているように感じた。
「それと、参考までに。この作品の主人公はな、読者に一切関心を促さないんだよ。完璧ではあるが、究極孤高でも駄目人間でもない。好感度もヘイトも集めにくい。それでは駄目だ。
 それに、ヒロインの登場も遅い。二億年書き続けてやっと形になったから急いてしまったんだろう。だがそれは、自分の努力を否定することになる。気をつけたまえ」
 文学の神様の言葉を胸に焼き付けて、この人と付き合えるような作品を書くため、俺は頭をフル回転させた。

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