NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

3革改

「どうでしょうね。俺には分かりませんよ」
 と、言ったのは嘘じゃない。俺には分からないのだ、本当に。
 こういうやり方の方が正しいのかもしれない。全員と仲良くして、仲良しグループで上手くやっていく、っていうのももしかしたら上手くいくのかもしれない。集団に迎合する奴を悪だと断じるが、それが間違っていて、悪だから上手くいかないのかとは断言できない。
「そうか? 私の目には、君が不満そうに見えたがね」
「まー、不満ですよ。実行委員なんてものやってる事自体が」
「そうだろうな」
 皮肉を込めて言ったはずなのだが、犬養先生にはどうやら効いてくれなかったらしい。そうだろうって思うなら早くやめさせてほしいんですよね……なんか昼も、俺だけ収集されてなかったらしいですし。
「でも、君にはやってもらう。君には絵に書いた青春を体験することで、更生してもらう必要があるからな」
「あなた……更生更生って言いますけど、なんかそれじゃまるで俺が危険人物みたいじゃないですか」
「違うのか?」
「違いますよ、失礼な」
 俺が言うと、犬養先生は意外そうな顔で聞き返してきた。本当に失礼な人だ。俺は一ミリも危険なんかじゃないのに。
 そもそも先生は何故、俺が危険だと思ったのだろうか……自分の中で考えて、もしかしたら先生と俺の中で大きな齟齬があるのではないか、と思いつく。
「もしかして先生、俺が彼女も友達もいない奴だと思ってません?」
「思っているが。違うのか?」
「はぁぁぁ、そういうことですか」
 生徒に向かって堂々と彼女も友達もいない奴だと思ってるって言ってのける度胸は、賞賛したいところだが、ここはしっかりと間違いを正さなければならない。
 深いため息を吐きながら、俺はこれまでの自分の行動を思い返してみた。
 リア充がうるさかったから一度だけ暴言を吐いたが、後は普通だったはずだ。休み時間はイヤホンをつけて読書してたし。……ああ、それが駄目だったのね。まあ、イヤホンで聞いてたものとかバレれば圧倒的にぼっちじゃないって分かると思うが、流石にそれは恥ずいのでやめておこう。
「言っておきますけど、俺はぼっちじゃないですから」
「君……確かに友達の定義は人それぞれだ。だがな、クラスメイトを友達と呼んだところで話せる相手がいなければそれは――」
「――いや、そんな悲しい奴じゃないですから、俺は。ってか、あんな奴らを友達とかやめてくださいよ」
 ほんと、マジで犬養先生の中での俺ってそんなに悲しい奴だったの? それくらいならぼっちだと思われた方がいいわ。……とはいえ、ぼっちぼっち言ってると怒られちまうからな。ここは、誤解を正そう。
「友達ってのはちょっと曖昧ですけど、俺は彼女いますからね」
日木ひき、画面の先の女の子を彼女とは言わないんだぞ?」
「違いますって。ったく、どうしたら信じてくれるんですか……」
 なんだろう。どうしてもすごく信じてほしい。れっきとした彼女もちなのに、二次元嫁を彼女と言い張っている、と思われていることに腹が立っているのだろう。
 いやだって、俺の彼女は二次元嫁なんか比べ物にならないくらい可愛いからな。
 一考して、俺は写真を見せてしまうのが早いという結論に辿りついた。スマートフォンを取り出し、俺はツーショットの写真を探す。
「そうだな。最近は美少女育成ゲームもあるからなぁ……」
「いや、だから違うんですって。これを見てもらえば分かりますかね」
 俺が見せるのは、一番最近のデートで撮影した自撮りツーショットである。最近、彼女が髪を切ったこともあってとてもお気に入りの写真だ。それを見た先生は、僅かに疑うような視線を向けてきた後に、静かに目を瞑った。
「お分かりいただけましたか?」
「……ああ、そうだな。その子は、別の学校か?」
「いえ、学校には通ってないですね。高校には通ってません」
 俺の発言に、犬養先生は目を見開いた。驚かれるだろう、ということは分かっていた。今日日、高校に行かない奴なんて希少生物と言われてもしょうがないのだ。馬鹿な奴、と思われても仕方が無い。
 が、違う。むしろ彼女は、俺よりすごい。
「彼女は高校なんて行く必要ないんですよ。仕事がありますからね」
 自分のことではないのに、とても自慢げになる。が、流石にそういう詳しい事は犬養先生には話さない。許可もらってないし。
「ま、どっちみち俺の嫁になりますからね」
 と、言うと犬養先生は詮索していこなくなった。嬉しそうな顔で、俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「なら、尚更実行委員、頑張ってくれ。君は面白い。赤木原と、君。そして……彼。君たちはきっと、面白いものを見せてくれる」
 犬養先生はまるで悪戯っ子のような目で俺に訴えかけてくる。騒がしい会議室にいたはずなのに、何故だか騒がしさが消え、無音の世界にいるような錯覚をする。
「翼。これで、上手くいくと思うか?」
「微妙。実行委員。能力。未知数。感情。計算。単体。判断。不可」
 どこからか、そんな声が聞こえた。優しげな囁きと単語の連続。そんな不可解な会話だが、直感した。これは、赤木原先輩と青木先輩の会話だ。
「だよ、なぁ。ま、駄目なら考えるか。誰かに傷を負わせるのなんて嫌だしな」
「同意。皆。関係。良好。最良」
 二人は、完全に通じ合った、何十年も寄り添った夫婦のようにさえ見える。会議室で隣り合って座る二人の姿は、俺と彼女のようにさえ見える。
「日木? どうした」
「え、ああなんでもないです。……面白いってのは酷い気もしますけど、いいですよ。今からやめるのも面倒臭そうですしね」
 犬養先生に答えると、俺は会議室の扉に歩を進めていた。早く家に帰りたい。帰って話してやりたい、と思ったのだ。
「あ、そうだ。犬養先生、さっきの〝彼〟って誰ですか?」
 帰る前に一つだけ気になって、振り返った。すると、犬養先生は俺が興味を抱いたことに嬉しかったのか、にっこりとする。なんだか、鬱陶しい。はめられたような気分になって複雑だ。
 が、だからと言って意地を張って帰るほど、俺も負けず嫌いじゃない。腹は立つが、素直に訊くことにした。
「その内分かると思う。君の先輩だ」
「……そうですか」
 なんだよ、教えてくれないのかよ、とは思わない。教えてくれないだろう、と薄々思っていたからだ。そうじゃなきゃ、彼、なんてぼやかした言い方するはずがない。それでも少しは期待したんだけどな。
 ま、俺が期待していいのは自分だけだ。……いや、彼女になら期待してもいいかもしれないが。
「じゃ、帰ります」
 疲弊しきって、俺はなんとか声を出してから会議室を出た。
 ほんと、疲れる。人と話すとこんなにも疲れるんだっけか。この前、俺がうるさい奴に暴言吐いたときは疲れなかったんだが……と、考えて思い出した。そうだった。あれは俺が一方的に言っただけだった。あんなものは会話じゃない。
 でも、会話なんて別にしたいわけじゃない。伊達に中学校で二年間、人と会話しなかっただけのことはあって、会話はなくてもいいと思う主義なのだ。無論、俺が興味を持つ人は別だが。
「ッ……」
 校門に向かっていると、もう下校時刻なのに校舎の方に走っていく少年とすれ違った。
 一瞬だけしかその顔は見えなかったのに、何故かその目に満ちている闇は、鮮烈に脳裏に焼きついた。
 気になって俺が振り返った時には、もう彼は校舎の中に入って消えてしまっていた。
 一体、こんな時間になにしに行ったんだろう。制服を着ていたので、おそらく運動系の部活というわけでもないだろうし、リア充の青春ごっこにも見えない。では何か、と考えても、俺の知っている世界には答えはなかった。
 なら、考えても意味は無いだろう。人には人の世界がある。俺は別に、俺以外の世界なんて必要ない。
 自分以外の世界を必要とするのは俺ではなく俺の彼女だ。だから、一刻も早く帰って、彼女に話してあげよう。そう思いながら、俺は家に帰った。

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