NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

色2

 放課後になった。さっきから、休み時間はずっと放課後のことばかり考えていた。それほどまでに俺は、訪問が楽しみだったのである。訪問の為に、昼や合間の休み時間に資料は読み込んだ。とりあえず、彼女の事はある程度、理解出来た。
 青木翼。
 中学時代の全国模試では、国語以外で満点を獲得。国語も八十点を獲得している。はっきり言って学力面では化物のような少女である。
 しかも、小学四年生の時点で数学検定、珠算能力検定一級獲得。思考力検定準二級獲得。電卓検定では満点名人位という段位につき、更にTOMACではグレードDでスコア1000を獲得しているという、盛りに盛ったハイスペック度。
 分かるとおり、数学能力に関しちゃ化物だ。これだけの資格を持ってりゃ、そりゃ退学になんてしないわな、社長は。
 また、中学校の内申を見るに、どうやら中学校の頃も今のように、一度も登校せずに済ませていたらしい。それなのに、社長自ら彼女に、この学校にくるよう説得に行き、その結果入学に至ったそうだ。
 本当に、盛りに盛った面白属性である。俺も、読みながらつい、笑ってしまいそうになるレベルだ。が、一応我慢した……つもりである。
 しかし、彼女を学校に来てもらうようにするならば彼女が何故、学校に来ないのか、というところから考え始めなければならなくなる。それにはデータが足りなかった。
 中学校の頃の情報を見ても、どこにも彼女が学校を休むことになったきっかけらしきものは書いてない。病気とかを患っているのであれば、社長がうちの学校に入学するように言う意味も分からなくなる。
 こんな感じで考えていると、本当に楽しい。なんだか、すごく昔に周囲の人とあわせるつもりで始めたのにドはまりしたゲームをやっていたときと同じ感覚だ。はっきり言って、最高の感覚だ。楽しい。
「いいなぁ、いいなぁ。そういう楽しそうな顔は嫌いじゃない」
「そうでしょう? 俺も、今の俺が嫌いじゃないですよ」
 意識せずに、俺はそんなことを言っていた。言い終えてから、俺は声のした方向を見る。そこにいるの省木先生だ。ニヤニヤして、とても目を輝かせている。職員室で見たときよりも更に面白そうだ。
 もしかしたら、今日の仕事はもう終わったから、ストレスもなく、完全に遊びモードになっているせいなのかもしれない。そうだとしたら、一緒に楽しめるというのは最高だし、いいことだ。
 すごくわくわくする。ワーカーズではないにしても、ワーカーズに匹敵するようなぶっ壊れ性能の不登校児に会いに行くというだけで、面白い。でも、それ以上になんだろう。すごい胸騒ぎがするのだ。
 言うなれば〝呼ばれている〟気がする。
「さて、と。おい、逃げるなよ?」
「チッ……こっちは、仕事があるんですけど」
「大丈夫だ。やっておいた」
 教室を出て行こうとする省木に、省木先生は言った。省木は渋い顔をして、拳を握り締めると、今度は省木先生と俺を睨んできた。ん……ややこしいな。省木先生じゃなくて悪魔先生と呼ぶことにしよう。ぴったりだろ。
 それにしても流石である。省木の仕事とやらがなんなのか把握しているわけではないが、おそらく膨大な量があるのだろう。
 あの日、俺がワーカーズ集めを任命された日。俺の横を駆けた省木の顔を思い出せば、分かる。そんな、数分で終わるような仕事じゃないのだろう。あいつが走って、必死になるくらいの仕事量なのだから。
「旗は?」
「下げた」
「来賓用トイレの掃除は?」
「終わった」
「来賓用玄関の掃除は?」
「終わった」
「各教室の戸締りは?」
「侵入禁止教室は終わった。お前がいつもやってるところだな」
 怒涛の勢いだった。それはもう、色んな仕事を省木は列挙し、それを悪魔先生は完遂していることを報告して言った。
 数え切れないほどの仕事量。数にして十は容易く超えているだろうか。各委員会の仕事だろう、と思うものも平気で含まれており、はっきり言うなれば俺はその仕事量に圧倒されてしまった。
 が、それで劣等感を感じることも無かった。何故なら俺が能力のない弱者であることは分かっているから。その上で、俺は人生を楽しむだけだから。
 全部仕事を列挙し終えたのだろう。悪魔先生が黙って、どこか誇らしげな顔をすると省木は逃げる方法を探して宙を見つめた。その姿は少しだけ苛立っているように見えた。流石に反抗期、というやつだろうか。悪魔先生と省木はお互い睨み合うかのように目を合わせ、省木が唇を噛んだ。
「ああ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ」
「ああ、そうだ。分かってるじゃないか」
 その、呆れたような呟きに悪魔先生はほくそ笑み、そして教室を見渡した。おそらく、三九楽を探しているのだろう。あの人は、わざわざ逃げるような人じゃない。
 だが、その割に悪魔先生が三九楽を見つけるのに時間がかかっているのを不思議に思い、俺も彼女のことを探して教室を見渡す。
「いない……?」
「だな」
 俺の呟きに悪魔先生が答える。それで、俺が見つけられていないわけじゃないことを確信する。
 二人で探して見つけられないほど、彼女は影の薄い生徒ではなかったはずだ。むしろリア充に比べれば面白い。……まあ、彼氏もちだから三九楽がリアルが充実していないわけではないが。でもまあリア充とリアルが充実している人は違うと思う。と、いう俺のリア充話は割愛しよう。
 それよりどこに行ったかだが……と思っていると、三九楽が教室に入ってきた。
「あ、すみません。ちょっと行くところがあって遅くなりました。すみません」
 言いながら頭を下げる三九楽の顔は、どこか強い意思をもっているように見えた。まるで戦士のような、顔だ。頭を上げると、彼女は俺をじっと見てくる。
 真っ直ぐな眼差し。決意、と言って差し支えないであろうその確固たるものに、俺は応えたいと思った。おそらく、この眼差しは必ずワーカーズを集めてくれ、という意味なのだろう。だとすれば、分かってくるものがある。
 まあ、それを話すのは野暮だ。今はやめておこう。
 とりあえず今は不登校児を学校に来させる遊びの時間だ。
「じゃあ、行くか」
 そう言って悪魔先生は俺たちを先導した。




 TTTTTTTT




 その姿をなんと言っていいのか俺は分からなかった。
 ただ、その存在の異質さは分かった。どう考えても異質な姿。闇なんてものじゃない。それよりもずっと深く、暗く、怖く、そして美しい。
 そんな姿を見て俺は思ったのだった。
 ――ああ、こいつは、神様からの贈り物……いや、贈り者なんだ、と。

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