NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

N 楽しくない

 少し遡って。
 省木力サイド。


 今日の学校も、退屈なものだ。
 いつも通り登校し、リア充たちがベチャクチャ喋っているのを横目に自分の席に座り、慎ましく読書する、という俺のいつものルーティンワークは守られている。
 日常は変わらない。いつも退屈で、平和で、どこか虚ろだ。
 正直言って面白くもなんともない世界だ。
 こんなにも俺は楽しくないのに、俺の周りの奴といったらいつも楽しそうに笑っている。そのことに腹が立って仕方が無い。そんなものが八つ当たりだとは分かっていても、やっぱりムカつく。
 例えば、金本。あいつは、中学生の前半の頃はワーカーズじゃなかった。ただ、俺の同級生で、ちょっと話していた程度だった。取りに足らない人物だと、ずっと思っていた。
 けれどあいつは、俺を追いかけてきた。俺より勉強が出来るくせに、勉強以外の、仕事や運動でも俺に並ぼうと必死になってきたのだ。俺を追いかけてるときのあいつは、本当に楽しそうだった。
 あるときだ。あいつは、俺に対して堂々と宣戦布告してきた。
「お前を倒す! 余裕があるのも今のうちだ」
 その時にはまだ、その言葉が全く現実的ではなかった。勉強じゃ別だが、それ以外なら仕事も運動も俺には遠く及ばないと思っていた。
 あいつは甘かったのだ。やり方も覚悟も。いつも人に頼って、人に支えられていて。あんな頼りない奴が俺に勝てるはずがないと思った。なにより、俺が色んなものを犠牲にして力を身につけたのに、金本は三九楽さんを彼女にして、イチャイチャしてたのだ。
 だが、きっとあいつにも覚悟があったんだろう。
 いつの間にか、金本はラノベ作家になった。まだ、ヒット作家になってるわけじゃないがそれでも、それなりに稼げている。それに、ラノベ作家になって出版社という大人の世界で学んだことで、ワーカーズに加入できるだけの力を身につけた。
 ずっとずっと、取るに足らないと思っていたのに、いつの間にか少しずつ差が縮まった。まだ、俺の方が上である自信はあるが、俺を超えると言い、必死になっているはずだったあいつが、俺と違って楽しそうに人生を生きているのが腹が立つ。
 ああ、知っている。これは八つ当たりだ。醜い八つ当たりでしかない。
 でも、昔、醜く声を出して助けを求めていただけのあいつが、俺に近づいてきたことが嫌で仕方が無かったのだ。それでも、チームメンバーだからと妬む事はしなかった。チームが解散した今、妬むくらいのことさせてもらわねばやってられない。
 チームを解散してからは、金本と話すことも少なくなった。というか、ほとんど疎遠状態だ。
 あの日の事件以来、あいつとは関わらなくなった。俺が、あいつを他人のように扱ったのを境にあいつも俺を他人のように扱い、俺たちは他人になったのだ。
 それでも、あいつの彼女の三九楽さんと席が近いせいであいつのことを忘れられいわけなのだが。
「そういえば、あいつって今、なにやってんの?」
 ふと思い、ワーカーズを再集結させようとしている赤木原の元から帰ってきた三九楽さんに俺は尋ねた。
 俺は、三九楽さんにはよくしてもらっている。昨晩の勝負では審判もやってもらったし、それ以外でもちょこちょこ話しかけてもらっている。俺がクラスで陰湿ないじめにあっていないのは、もしかしたら彼女のおかげかもしれない。と思うくらいだ。
 何故三九楽さんが俺に構うのかが分からなかった。金本もこの学校なのだから、クラスくらい超えて、会いに行けばいい話なのだ。だから尋ねた。
「れいくんなら、最近は原稿執筆も一段落ついて、今は休憩しているところですよ。毎日のようにだらだらしてます。まあ、学校には来てるみたいですが」
 久々に俺が金本について触れたことに驚いたのだろう。三九楽さんは目を見開き、意外そうにしてからどこか楽しそうに答えた。
 その顔はやっぱり楽しそうで、なんだか、すごく腹が立つ。
 三九楽さんも、ワーカーズの一員だった。金本が加入してすぐ、獣田が面白がって三九楽さんも加入させた結果、意外なほどの家事能力と秘書能力を発揮したのだ。元々、あの人は普通じゃない、程度には思っていたが、彼氏の力になる為なのか知らないが、ワーカーズでもバックアップ能力の高さは一流だった。
「ふぅん。さいですか。さっすが」
「……あんまり言いふらさないんですよ。れいくんが困るんですから」
 付き合って、仕事もそれなりにして、それなのに上手くいっていることへの苛立ちから少し皮肉交じりの笑みがこぼれた。すると、三九楽さんはどこか疲れたような顔をして、言ってきた。
 言いふらす? 一体なんのことなのだろうか?
 なぁんて、ばっかみたいなことを考えるほど俺は間抜けじゃないし初心でもない。恋愛沙汰を面白おかしくしてからかうのは俺の専売特許。いつもならするところである。
 だが、今はそんなことしても楽しくない。だから、楽しくない事はしない。ただ、毎日のように仕事をするだけで精一杯だ。
「たまには、あいつのクラスいけば?」
「それ、したいんですけどね……うちのクラスからだと遠いから、言ってもすぐに戻るって感じになっちゃいますし、昼休みは結構出版社の人に呼び出されること多いので」
「あー、そりゃ大変なことで」
「ほんとですよ」
 俺が言うと、三九楽さんは寂しそうに言ってきた。
 なんか、ほんとムカつく。あ、いやこれは楽しそうだからとかじゃない。純粋に、金本も俺と同じようなことを中学生の頃はしてたはずなのに、なんであいつは、こんな良い彼女を持ってるんだろう? って思った。
 だから言うなれば非リアの僻み?
 俺のイライラを感じ取ったのか、金本の話題は終わりを告げ、今度は昨晩俺が対決した、赤木原の話題になった。
 先ほど話したことを概要だけ説明してくれた。
 端的に言うと彼は、ワーカーズを集めるつもりらしい。こんなことなら昨晩、勝たせてやればよかった、と思うがそんなことしたら三九楽さんは告白されて、結果として金本が困りそうだったのでやめておいたので仕方が無い。
 ……どうして俺は、なんだかんだであいつを困らせようとはしてないんだよな。
 そんなことに不思議を感じながらも、俺は感想を告げる。
「まあ、いいんじゃねぇの? 俺はどうせ、ワーカーズなんて集めない。俺一人でやれるからな」
 この言葉は事実だ。俺はずっと一人でやれると思っている。確かにワーカーズの存在は大きい。でも、俺一人でもやれることだったはずだ。そのはずだ。数が増えるほどに指示に手間を取られるし、効率も悪い。
 だから、俺一人でやれる。そう自信満々に言った。

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