NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

楽しい2

「そうでしたね。それで、誰を実行委員にしようとしてるんですか? 転入生ではない。でもあの中でもないんですよね?」
「ああ、そうだ。あいつらでも別にいいんだがな。でも、多分あいつらじゃ、面白くならない。その点、俺が今からお前に紹介する奴は、お前となら面白くなる可能性がある」
「は?」
 面白い、という単語を聞いてなんだかすごく嫌な予感がした。
 それは即ち、この教師、実は駄目人間なんじゃないのか? というものだ。
 いやいや、この俺がしっかりした先生だろうって思ったばっかりだぞ? この人になら人生相談も出来ちゃうかも、みたいな感じで生徒が教師に心をだんだん許していく名シーンのはずだぜ? なんでそーいう様式美を台無しにしちゃうわけ?
「面白いってのは大切だぞ? 人生は楽しくなきゃな」
「……そりゃ、そうですけど。でもあなた、その子を実行委員にしたい理由がそれってのはどうなんですか」
 せめて、冗談だと言ってくれ。そしたら流れ台無しにしたのはなかったことにしてやるから。そんな風に声で物語るけれど、どうやら担任には効かないらしい。
「どうって言われてもな……別によくね? としか」
「あなた、もう、色々台無しっすよ」
「そうかもな。ま、許せ。この時を、去年から待ってたんだ」
 頭を抱える俺を見て、策士の表情ではなく親しみやすい教師の顔に戻った担任は、笑いながらそう言った。
 〝去年から待っていた〟という事実を、いとも容易く、あっさりと告げられた俺は、ようやく、担任のしたいことを汲み取れた。
 去年から待っていた。即ち、去年から教室にいなかったということだ。彼は去年も俺のクラスの担任だったので、俺のクラスにいなかったという解釈もできるが、それなのに割と忙しいはずの教師が一年前から目をかけているというのは少し小首を傾げたいところである。
 つまり、去年から俺のクラスだったのにも拘らず教室にいなかった奴。そして、俺と運動会実行委員をやらせると面白くなる相手。言い換えるなら、トップカーストと接触させることで面白くなる、去年からずっと教室に登校してきていない奴。
 それなら俺も一人思いつく。というか、そのヒントで思い出した。俺のクラスには、誰もが存在自体を忘れているような(省木あたりは忘れていないかもしれないが)不登校児がいるのだ。
 名前は正直覚えていないが、確か女子だった。推薦入学で入学し、入学式の日を含めてただ一日も来ていないが何故か退学にも留年にもならない少女だ。まあ、不登校児を退学・留学にしないのはおそらく社長の何かしらの企みがあってのことだと思うが。
「おお、やっと分かったか」
「まあ。でも、そいつは来るんですか?」
「さあな。その辺は分からん。でも、お前と関わらせれば面白いことになりそうだろ?」
 まるで悪戯っ子のように屈託なく笑う担任を見て、彼の性格の悪さを俺は悟った。こういう人は本来、教師になるべきではない。それほどに彼は性格が悪い。
 だってそうだろう?
 不登校児とリア充。どう考えても混ぜたら危険。誰も幸せにならないどころか、不幸にならない奴がいないくらいの悲劇が起きるに決まってる。そりゃ、俺なら上手く立ち回れるかもしれないが、そもそもそれをしたら妥協して、テキトーに生きるのと変わらない。
 唯一救いがあるとすれば、担任が不登校児の少女が学校に来るように根回ししていないことだろう。根回ししていないのだから、今から担任に如何に危険であるかを説明すれば、なんとかなるはずだ。
 止めよう。そう思って、発すべき、理論まみれの言葉を発しようとする。
 ――が、それを本能が止めた。
「そう、ですね。最ッ高に面白い気がします」
 そう言ったのは本当に俺か? 俺自身が疑いたくなるほどに、その言葉は俺らしくなかった。けれど、どこかで確信していた。これこそ、俺の本音なのだ、と。
「おお、いいな。よし、気に入った。じゃあ、やろう。今日、ちょうどそいつの家に行くからな。そのときにお前もついて来い。これは、資料だ。彼女に関する、ある程度の教えられるだけのデータだ。興味あるだろ?」
 言われて、躊躇なく
「はい。超絶興味あります」
 と、答えられた俺はおかしいのかもしれない。少なくとも数日前の俺なら異常事態だ。
 でも、省木との勝負での敗北や、この担任が俺を導いてくれたのだ。そんな嘘まみれじゃつまんないってことを。
「よし、面白くなってきた。じゃあ、頼むぞ」
「うっす」
 そんね返事をしてから、俺は万が一の為に省木や三九楽も連れて行った方がいいのではないか、という気になってきた。万が一俺が学校に来るように説得できなかったとき、そういった交渉能力もまた一流であろう省木、同じ女子で不登校児を迫害するようなこともないであろう三九楽は必要な気がしたのである。
 ってのは建前で、正直な事を言うとこんな面白くなりそうなことを省木や三九楽にもやらせてやりたい気がしたのだ。
「あ、すみません。他の俺以外の奴を連れて行っちゃ駄目ですか? そう、二人ほど」
「え? ああ、省木と三九楽か」
 よく分かりましたね、とは聞かない。それは今更過ぎる言葉だ。この人は流石に俺が不登校児を迫害しかねないリア充を連れて行くとは思わないはずだ。そうなれば俺がクラスで話せて、リア充じゃない(というより不登校児を迫害しないと自信を持って言える奴と言った方がいいかもしれないが)のは省木と三九楽しかいない。
 担任は少しだけ難しい顔をして、一瞬考えた後、再び笑って、
「分かった。じゃあ俺から声かけてとく。お前はそれ読んどけ」
 と言った。
 別に俺が声をかけても大した手間ではなかったのだが、まあ声をかけてくれるというのならそれに甘えよう。別に特別、話をしたいわけでもないし。
「じゃあ、お願いします」
 言ってから俺は頭を下げ、職員室を出た。どうやら担任はもう教室に戻らないようで、俺と一緒には来ず、自分の席で茶を淹れなおし、飲みながらパソコンで仕事をし始めていた。
 ちょうどいい、と思って俺は歩きながら渡された資料に目を通すことにした。
 まず始めにあったのは彼女の通知表だった。
 青木翼あおきつばさ。そう書かれているのが生徒名の欄。そしてその下に、校長名と担任名が記されている。
「は? 嘘、だろ?」
 〝それ〟を見た瞬間、俺はつい声を漏らした。その声は、教室から漏れる雑音に混じって消えていく。だが、決して、〝それ〟は消えない。
 そのことが、〝それ〟が目の錯覚ではないことを示していた。
 ――担任名 省木悪魔はぶきあくま

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