NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

欲望2

「……あんまり言いふらさないんですよ。れいくんが困るんですから」
 言いふらす? 一体なんのことなのだろうか?
 なぁんて、ばっかみたいなことを考えるほど俺は間抜けじゃないし初心でもない。そういうのは、飽きるほど見てきたから分かる。
 三九楽と金本の関係はどうでもいい。どうでもよくはないが、どうでもいい。
 それよりも気になるのは、金本の所在だ。彼は、文章作成のエキスパート。運動会となれば、放送の原稿に委員長の原稿、しおりの作成にパンフレットの作成など、文章作成が必要になってくる状況が大量に出てくる。そういった状況で、彼が素晴らしい働きを見せたことは、活動日誌にも記してあった。
 ぜひ、ワーカーズに戻ってもらいたいところである。
「たまには、あいつのクラスいけば?」
「それ、したいんですけどね……うちのクラスからだと遠いから、言ってもすぐに戻るって感じになっちゃいますし、昼休みは結構出版社の人に呼び出されること多いので」
「あー、そりゃ大変なことで」
「ほんとですよ」
 話を聞く限り、このクラスからは遠いクラスに所属していて、昼休みは校内にいないらしい。そもそも、うちの学校の生徒であること自体驚きだ。うちは、学力が高いのでそんな出版社に呼び出されて、とかそういう忙しい感じでやっていけるレベルではないはずなのだが。
 が、ワーカーズは学力もすごい人達がいて然るべきだと思うので、なんだかそういう一般論を論じるのは馬鹿馬鹿しく感じる。
 それで思った。
 そういえば、省木は勉強が苦手だ、と言われていた。獣田という人もそうだ。それ以外でならば優れている、とも。
 勉強とは所詮、暗記力と思考力の集合体だ。そして、暗記力も思考力も省木に欠如しているとは思えない。あの、鬼ごっこでの動きを見れば分かる。あれは、慣れや運動能力によってどうにか出来るものではない。もちろん、そういった要素もあるだろうが、それ以上に作戦を考える思考能力がある。
 あいつは、俺の動きをほぼ確実に読んでいた。その上で、俺の動きを封じ、戦意を喪失させていた。
 それに、あいつは木や障害物の場所を完全に覚えていた。どこを蹴ればどう動くのか、ということも在る程度分かっていたはずだ。あれほどの記憶力で勉強ができない? そんなこと、あるはずが……
 ああ、そうか。省木は勉強などしている暇がないのだ。そして、する必要がないのだ。
「まあ、いいんじゃねぇの? 俺はどうせ、ワーカーズなんて集めない。俺一人でやれるからな」
「そうかもしれないですけど……それは、あなたが犠牲になるだけですよ。なんで、一度は信じたのに、信じようとしないんですか?」
 省木と三九楽の会話は続く。
 けれど、今度は日常会話をするようなトーンではなく、酷く重々しいトーンだった。三九楽が、省木の腹の内を探るような、そんな感じだ。心を見透かそうと、じっと省木を見る三九楽を見て、なんとなく、彼女の意思が分かった気がした。
 分かった気になるなんて、傲慢だ。でも、数々の判断材料から考えても、この仮定が間違っているとは思えない。
 三九楽の問いに対し、省木はおどけて笑って見せた。その瞳に宿る闇に似合わない作られた笑顔。だが、それは偽物と言い切ることの出来ない――否、言い切ってしまっては、悪魔に触れてしまうという恐ろしさを感じさせる。
「さて、と。なぁんのことかな。ほら、時間」
 まるで全てを騙す狐のように不気味な笑顔を見せて
「……逃げるんですね。ま、いいですけど」
 いい、と言いながらも明らかによくない顔を三九楽がすると、チャイムが鳴り、それにあわせるように担任教師が来た。
 そういえば、今日は初っ端からLHRだった。そう思い出させたのは、その担任教師が入って早々、黒板に文字を書いたからである。
 ――運動会実行委員、と。
 そう。今日のLHRでは、運動会実行委員を決定することになっている。
「えー、まあ、今年は創立十周年だからある程度規模はでかくなるんだが。まあ、それで仕事が増える事はないだろう、と理事長も仰ってる。だから負担もそこまでないはずだ。誰かやる奴はいないか?」
 そう言った担任の言葉に、俺は内心、毒づく。
 仕事が増えない、だなんてことあるはずない。いや、実行委員がどうかは知らない。でも、全体的な仕事は確実に増えるはずだ。その根拠は単純。社長はイベントを派手に出来るなら徹底的に派手にやるタイプだからだ。
 事務所でも言っていた。おそらく、増える仕事は……いや、もしかしたらそれ以外の仕事でさえ、社長はワーカーズにやらせようとしているのかもしれない。
 そう思った刹那、俺は迷いも無く手を挙げていた。
「俺、やりますよ」
 と、手を挙げた後に明快に俺は言った。
 元々、実行委員にはなるつもりだった。だが、ワーカーズ集めに協力することになった以上そちらに専念してもよい。だから、誰かが希望するのであれば、譲るつもりではあったのだ。
 でも、社長の魂胆を知って、俺が必ず実行委員に、いや実行委員長にならなければならないと心底思った。そのためなら、リア充という武器を捨てたっていい。全ての仕事を省木だけにやらせるなんて、俺のプライドが許せなかった。
 トップカーストの俺が挙手すれば、他の者は挙手さえ出来ない。だから当初は様子を窺うつもりだった。でも、もう手を挙げた。ゆえに、その場の空気は凍りつき、死んだ。手を挙げようとしていた者もいたのだろう。そういった者に対する同情の視線が僅かではあるものの教室内を飛び交う。
 だが、関係ない。社長はおそらく、ワーカーズが膨大な仕事を受け持つことを実行委員に告げない。そうなれば、〝知らない〟生徒は、どんなに責任感が強かろうと、ワーカーズの庇護下にいることに気付きさえしない。
 そんなこと、俺が許せるはずがない。誰かが犠牲になる世界なら、いっそ滅んだ方がいいと、俺は思うのだ。

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