NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

孤独と光2

 翌日。
 朝から俺は社長に電話をすることにした。勝負の後に電話、というのは何となく気力がもたなかったが、流石に学校が終わってからとなると報告が遅すぎるだろうという判断である。
 もちろん、毎日のルーティンは欠かさない。澄んだ春の空の下で、今日も今日とて俺はランニングをしている。昨日より温度が高いため、とても温かく、そのくせ風は強いのでかなり心地よかった。
 走りながら、ぷるるる、ぷるるるという呼び出し音を聞き流す。昨日、徹夜をしてしまったこともあって、その呼び出し音と走ることによって身体中に当たる風が目を覚ましてくれないと、すぐに寝てしまいそうなほどに眠かった。
「ふわぁぁ」
 と欠伸をすると、自然に涙が滲んできた。何故、欠伸をすると涙が滲むのかはいつも気になるけれど調べるのを後回しにしてきて、今も理由は知らない。だから、いつも欠伸をすると涙が滲んで、視界が少し潤う。その現象に疑問を抱くだけで終わる。
 当たり前の現象に抱いた疑問を解決しよう、という気概が俺にはない。手を少しでも伸ばさないと届かないものよりも、手を一切伸ばさなくても届くものを手にしてしまった方が楽だし、効率がいいと思っていたからだ。
 けれど、今は少し変わっている。、
 例えば、今日俺が徹夜をしたのは疑問を解決する為に手を伸ばした結果だ。
 ワーカーズについて、どうしても気になった俺は、ワーカーズ活動日誌を五冊とも、読むことにしたのだ。熟読したかったため、まだ最後の二冊は読めていないが、三冊を読んだだけでもワーカーズについてはある程度分かった。




 TTTTTTTT




 そもそも、ワーカーズとは省木が結成したグループらしい。
 初期メンバーは省木、三九楽、獣田、不織布の四名と、小さなグループだった。が、彼らの能力がズバ抜けているのは、結成当時から判明していた。
 省木は、勉強以外ならずば抜けていた。仕事をなすとき、的確な指示を出すことから指揮官としての役割が任され、指揮系統の中心にいた。
 三九楽は、家事能力やコミュニケーション能力の高さから秘書のような役割をした。もちろん、運動、勉強や雑務に於いても同世代の奴らに負けることはなかった。
 獣田という人は、運動能力がメンバーの中でも突出していたことから、肉体労働をメインに担当した。ものを運ぶ時は戦力として一番重く考えられて、こきつかわれていたらしい。
 不織布という人は、人心掌握術が優れていたらしい。人手が必要になる場合、甘い言葉を囁いて多くの人に協力させたそうだ。
 初期のワーカーズは、たまに学校の行事があれば成功のために動いたり、クラスで問題があったときに解決したりする程度だったそうだ。
 ワーカーズ達はその中で、能力のある者を仲間に引き入れていった。
 少しずつ仲間が増え、伝手が増えるとワーカーズに与えられる仕事もまた増えた。省木が所属していない学校のことや、町内会のことも入ってきたのだ。
 規模が拡大する仕事。それに比例するように、体制も整っていた。役割分担がなされ、各自が各自の役割に徹することでワーカーズは、様々なイベントを成功させてきた。
 ただ、学校行事に於いてワーカーズは前に出ない。ただ、目立たないように陰で完璧にこなすことしかしない。その分、学校外のイベントでは前に出て目立っていたらしいが。
 そこまでが、三冊目のノートに書いてあった情報である。




 TTTTTTTT




 そんなことを考えていたら、呼び出し音が途切れた。と、思えば電話の向こうから社長の声が聞こえた。
「やあ、なんだい、こんな早くに」
 少し不機嫌そうな声だった。それで思い出したが、社長は寝起き、非常に機嫌が悪いのだ。前に昼寝してたのを起こしてしまったときに、酷い目に遭ったので覚えている。
「それはすみません。でも、報告は早いうちにした方がいい気がしましたので。勝負の件です」
 素直に謝罪をしながらも、自分の意思は伝える。これは、しばらく社長の下でアイドルとして働いてきたことで得た技だ。ただ謝罪では相手が調子に乗ってしまうし、意思を伝えるだけでは反感を買うため、こういう形が一番いい。
「ああ、そうか。負けたんだな」
「……ま、まあそうですけど」
 想定内だったのだろう。電話の向こうからは嘲笑う声も、驚く声も一切しなかった。むしろ感情の一片も感じないことに不気味ささえ感じる。そんな不気味さを振り払うために走るペースを上げた。
「じゃあ、君は今日からLRと共にワーカーズを集めたまえ」
「はい……でも、その前に二つ質問があります」
 電話を切ろうとする社長を引き止めるように俺は言った。少し、怪訝そうな声が聞こえるものの、通話状態のままなので俺は話を続ける。
「まず一つ。あなたの目的はどこにありますか? イベントの成功? ワーカーズの再集結?」
 これは、省木との会話で在る程度分かることではあったが、最終確認をしておきたいところだった。
 目標の設定は、基本だ。それができなきゃ、ただ闇雲に歩くだけになってしまう。
「イベントの成功だ。それができるなら、他の事はどうでもいい」
 社長は迷いもなく、そう言ってのけた。
 それはまるで、イベントさえ成功すれば他がどうなろうと構わないと言っているようだった。なんて目的中心の結果重視の考え方なんだろう。正直、そういう考え方は好みじゃない。
 強い者は結果も結果までの過程も重視すべきだ。何故ならそれらはすべて、その瞬間の結果であるから。俺は強者ではないかもしれないけれど、過程でさえ結果であるということは分かっている。だから、過程も重視する。まあ、そんなことを言ったところで変わらないだろう。俺は俺の考えに従うだけだ。
「あともう一つ、確認したいんですけどアイドル稼業の方は、しばらく休止ってことでいいんですよね?」
 これは、あやふやになっていたことだった。どうせ勝負に勝つだろうと思っていたから確認したが、負けた以上、イベント成功に向けて尽力しなければならない。アイドル稼業なんてやってられない。
「ああ、しばらくはな。技術向上、を目的に休むことになっている」
「そうですか。ありがとうございます」
 社長の言葉を聞いて安心した。
 アイドルとして、いつでも戻れることへの安堵だった。そんなものを抱いていた自分に少なからず驚いてしまう。
 が、何故その安堵を抱いたのかはなんとなく分かった。
 アイドルであることは一種、俺の武器だったのだ。だから、それを手放さなければ省木にいつか少しでも追いつけるでは、と思ったのだ。
 電話がぷつり、と切れてから俺は走る速度を上げた。
 今日からは強者としての俺ではない。弱者として俺だ。省木を倒し、ワーカーズを超えることこそ、今の俺の目標だ。
 そのための武器を得るためにも、もっともっと走ろう。そう、考えた。

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