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黒虱十航

勝負2

 ペースなど考えずに全力疾走する。なんだか、あのガキに負けるのは癪だ。走るのには自信があるので、俺のプライドが許さないのだ。
「くはぁ、くはぁ」
 息が切れる。こんなに疲れているの、久しぶりだ。事務所に走る道よりずっと疲れている。が、足に力をこめてコンクリートを蹴る。
 でも、少年との距離は狭まらない。
「チッ」
 かなりの距離を走ったが、全然距離は縮まらなかった。それどころか、距離は広まっていくばかりだ。
 やがて、俺の体力も限界に達する。俺もかなり体力にも自信はあったはずなのに、少年よりも早く息を切らしてしまった。
 足がもつれる。一歩進もう、という気力が薄まってくる。
「嘘、だろ」
 無意識のうちに呟いた。誰かに向けた言葉ではない。むしろ、こんな弱い姿、誰にも見せたくはない。
 運動会のときは、俺が他のところで勝っていたからたった一つの敗北なんてすぐに忘れられた。けれど、今はそうではない。全て、今につぎ込んで、それでも負けたのだ。そんなの誰かに見られたら強者としての俺は否定されてしまう。
 それだけは嫌だった。
「くっそ」
 でも、抑えきれなかった。
 他の誰かに見られてしまうことなんて嫌だったのに。
 それなのに誰かに聞こえてしまうような大声で、俺は叫んだ。
「違う。違うッ」
 俺は、あんなガキに負けるような奴じゃない。ワーカーズなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないが、どっちにしたってあんな奴が俺より身体能力で優れてるなんてことありえないんだ。
 調子が悪いだけだ。昨日、ワーカーズの話されて自分で気付かないうちに混乱してるんだ。そうに違いない。だから、大丈夫だ。俺は負けているわけじゃない。
 自分にそう言い聞かせて、今日のランニングを俺は終えた。


 家に帰り、俺はシャワーを浴びる。
 いつもなら、十五km走り終えて清々しい気持ちで浴びるシャワーなのに、今日は、そうではなかった。
 胸糞悪い。昨日、あんだけ馬鹿にされて、今日、ガキにランニングで負けて。あ、いや負けてないけど。そんな最悪なことばっかり起こる朝はこれまで、なかった。
 人生はヌルゲーで、無双ゲー。そのはずなのだ。訂正は認めない。
 だから、証明してみせる。俺がチートキャラで、俺が強者であることを。




 TTTTTTTT




 俺は、いつも休み時間、決まった奴らと話すことはない。色んな奴が話しかけてくるので、毎日とっかえひっかえ、二~三人の奴らと会話するのだ。基本的にはどっかのグループのゲストみたいに俺が入るので、二~三人という少ない人数になっている。
 当然、話なんて合わない。俺は、好きなものがあるわけじゃないのだ。だから、話してて楽しい、と思ったことはない。ただ、話を合わせる事は可能だ。それは、一種才能のようなものだ。
 知らない話であっても、先読みして相手の求めている言葉を判断する。その能力が備わっていたおかげで、大抵の話には合わせられるし、相手を満足させられる。行事ごとの時には基本的にその話になるので楽だ。
 例えば、今年の運動会は、もうすぐである。今は四月の中旬で、運動会が五月の上旬なので、今は何だかんだで競技に関することが決まってきて、当日の係なんかも立候補者が出てくるのでその話が多くなってくる。
「運動会実行委員長って二年生がなるんだってぇ。勇人君、なったら?」
「いや、忙しいし無理だよ」
「そうだよ。赤木原君は、アイドルなんだから。あんたみたいな暇人とは違うの」
 と言った風に、俺のことを勝手に知ったかぶってあれやこれやと言ってくるのだ。俺はアイドル稼業は昨日、話した感じだとしばらくセーブすることになるから、実行委員長になろうかと思っていたところなので割とタイムリーな会話ではあるのだが、正直、こんな下等な弱キャラとの会話にはあまり意味が無い。
 まあ、弱キャラだとしてもこうして俺の周りにいてくれるだけで俺の飾りとなり、俺の力を大きく見せるのでいいのだが。
 現に、教室内での俺のカーストは最上位だ。どこのグループよりも大声で話せるし、笑えるし、優先される。アイドルであることや、普通にイケメンであること、成績優秀であることを理由に教室内だけでなく、学校全体のカーストとしても最上位だ。
 王子、とさえ言われるほどで学内でも有数のイケメンでもある。
 俺に惚れない女子も少ない。
 その、少ない女子の一人の方に俺は目を向けた。
 隣には省木がいて、どこか楽しそうに会話している。さっき調べたが彼女は三九楽心さくらこころというそうだ。昨日、俺が助けた園芸部の少女である。目立たない子だったので名前なんて知らなかった。
 が、さっきからそっちの方ばかり見ていて案外可愛いなぁとか思い始めている。いや、マジで割と凄く可愛い。俺史における、最大級の可愛さだ。見れば見るほど、可愛い。何が可愛いって、笑ったときに眩しすぎない、温かい光のようなものを感じるのだ。天使の笑みだ、と言っても過言ではない。
 肩までしかない髪は、俺の好みをばっちり射ていて、正直、見惚れてしまう。
 また、首を傾げるのが癖のようで、省木と話しているときに時折首を傾げるのがものすごくキュートだ。『ん?』と可愛い声を出しながら首を傾げるのを見ている間は、まともに話も聞けてない。
「あ、ちょっと飲み物かってくるわ」
「りょーかい。そだ、私のも買ってきてよ。イチゴミルク」
「はいはい、勇人君は?」
「…………」
「そんなの聞かなくても分かるでしょ。ほら、あれだよあれ」
「ああ、そーだった。じゃあ、いってくるわ」
 なんか、今日話している二人の内、片方がいなくなったが別に気にしない。あいつは正直うるさいくらいだし、いない方がいい・
 俺としては三九楽……ではなく省木を今は見ていたいのだ。いや、ほんとだよ? 俺はいつ話しかけようかとタイミングを見計らっているのだ。別に三九楽が可愛いからずっと見ていたいとかじゃない。
 省木のようなタイプの奴はタイミング悪く話しかけると、絶対に話を聞かなくなる。今みたいに、三九楽と楽しそうに話しているときに邪魔したら絶対、機嫌悪くなる。っていうか俺ならそうなる。
 いや、それにしてもなんであんなに三九楽は可愛いわけ? 今朝の出来事とかどうでもよくなってきたんですけど。
 ちょっと冷静じゃなくなってきたので、今俺が話している奴らと会話しなおそう。
「ねぇ、赤木原君。昨日の手紙、読んでくれた?」
「え、ああ、あー」
 昨日の手紙、と言われて俺は一瞬何のことか分からなかったがすぐに内ポケットに入れっぱなしの手紙のことだと分かった。
 そう、内ポケットに入れっぱなしである。昨日、帰ってから出して確認しておけばよかったのだが、手紙の存在を忘れていたのだ。
 だがまあ、この子だったのか、あれを出したのは。どうせラブレターだろうし、適当に『忙しいから』とか言って振ってしまおう。そう思って口を開く。
「あー、あれなんだけどさ。俺――」
「うん」
「――好きな人がいるんだ」

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