NO LOVECOMEDY NO YOUTH

黒虱十航

強者

 人生なんてヌルゲーだ。
 俺にとって、人生は最高のヌルゲーで、最悪のクソゲーだ。つまらない。攻略が簡単すぎて面白味が無い。なにより、チートコードやPK、裏切りなんかが多すぎて純粋にゲームをやっていることを楽しめない。いやPKだけならいいんだ。PKはよくある。それを売りにしてるゲームだってある。
 でも、PKというよりプレイヤーへの暴力なんじゃないの? というような白けるものがこの世にはある。それこそ一緒にゲームやってて、相手がこっちの集中力を割く為に嫌がらせしてくるなんて最悪だ。楽しいゲームでもつまらなくなる。まあ、そうじゃなくてもヌルゲーな時点でつまらないから意味が無いんだけど。
 簡単に攻略できてしまう俺は紛れも無い〝強者〟なのだと分かっている。いや、だって生まれもって手にしているものが既ににチートだし。それに俺は目の前で何度も〝弱者〟が敗北し、苦しむのを見てきている。そんな奴らからすれば人生は難しすぎる難ゲーで、クソゲーなはずだ。
 つまり、人生とはゲームバランス最悪のクソゲー。
 でも、その中のキャラクターになってしまった以上、俺は無双しまくってチートキャラになってでも生き抜くしかない。それが定めだ。
 俺、赤木原勇人あかきばらゆうとにとって生きるのを放棄して負けを認めるなどありえない。プライドが許せないのだ。
 だから、何があろうと俺は生き抜く。そして、チートキャラとして誰よりも優れた存在でい続ける。
 それが俺のプライドだ。




TTTTTTTT




 それは日常の出来事だった。
 下駄箱に入っていた、どこかで見た女児向けキャラクターの絵が描かれている封筒。ハート型のシールが貼られており、更に、見覚えのある丸文字で『赤木原 勇人君へ』と書かれている。
 久しぶりに見たというわけではない。俺にとってこういうことはすごく当たり前のことなのだ。だから、動揺はしなかった。
 ただ、少しだけムカついた。
 こういうことやりたいんだったら、せめて口頭で言えよ。そう思った。そんなことも出来ないような弱者には、恋なんてする資格もない。恋みたいなやらなくてもいいことは、強者にのみ許される遊戯なのだ。
 調子乗んじゃねぇよ。そう思いながらも、あくまで俺は強者の態度をとる。おそらく、これを書いた子は勇気を絞って書いたんだ。だから哂わずに、真っ直ぐその思いを受け止めてあげよう。そんな風に思っているようなフリをする。
 ……まあ、フリだから本当はそんなこと思ってないんだけど。
 でも、これが強者のやり方だ。
 平然とその封筒を胸ポケットにしまって、俺は帰ることにした。既に時刻は四時を過ぎている。いや、高校生にしてはきっとこんな時間に帰れるのは早いんだろうけど。でも俺としては、少し急がなければいけない時間なので、『はぁ』とため息が漏れてしまった。
 四時半に事務所にいかなければならない。ここから、事務所までは歩いて四十五分。正直、急がなければ約束の時間には到底間に合わない。
「また長距離走かよ」
 しょうがない。そう分かってはいても、やはり走るのは嫌だ。何せ、バッグに色々ものが入っていて重い。普通に走るのとはわけが違うのだ。しかし。そんな弱音は俺らしくない。俺はあくまで強者。何一つ辛いなどと思っていないかのように振舞う。それは誰も周りにいないときであっても同じだ。
 靴を履き終え、俺は砂で汚れた大理石を蹴った。
 すぐに校庭に出ると、サッカー部と野球部の叫び声が聞こえてきた。
「ほら、走れ一年ッ」
「決めろ。いけ、いけっ」
「くっそ」
 雄叫びとも言っていいような、野性的な声だ。本当にうるさい。あんだけ努力したって結局俺のようなチーターには敵わないのに、夢を追いかけているのを見ると虫唾が走る。
 俺は一年生の頃、球技大会や運動会に運動部の奴らを基本的に全員圧倒した。運動部の奴以外でも、基本的には俺に負けていた。当然だ。運動部の奴らが負けてるのに他の奴らが勝てるはずがない。
 でも、そういえば俺に唯一、一競技だけ勝った奴がいたな。まあ、あいつの動きは俺から見ても圧倒的だったし、他の奴とは次元が違ったから納得するんだけど。
 あいつは運動部ではないようだ。顔を覚えているわけではないが、多分、見つければすぐにピンと来るので分かる。まあ、別の場所で活動してるだけって可能性もあるが。
 なんてことを考えて、俺はなんとなく少し遠くの花壇を見た。割と綺麗に整えられた花壇は、サッカー部や野球部の魔の手に襲われてもいつも美しさを保っている。どうやら、その美しさは、園芸部の生徒が手入れをしているから保たれているもののようだ。
 これまで見かけなかったから気付かなかった。気になるのは、園芸部らしき人が五、六人いるのに手入れをしているのは一人で後は、サッカー部や野球部の応援をしているということだ。うちの校庭はかなり広いので、多分ここから応援してもあちらには声を届かないだろうから、応援というより見物と言った方がいいかもしれない。
 いやそーでなくて。問題なのは園芸部の唯一真面目な部員が、真面目じゃない部員に文句一つ言わず一人で仕事をしているということだ。正直、ああいう不条理な現状を我慢し続ける弱者のやり方は見ていて腹が立つ。サボっている奴は悪なんだから言えばいいだろうに。立ち向かわず、許しちまうのはどんな事情であっても悪を見過ごしていることに他ならない。
 強者としてそれは許せない。
 強者たる者、ただリア充になるのではなく正義を貫くこともしなければならない。本当なら注意したいところだが、ここから花壇まで行くのは帰路とは少しずれてしまう。注意するとなると時間もかかるだろうし、絶対時間に間に合わない。
 まあ、別の機会でも――
「――なんでこうなんだよっ」
 諦めようと思っていた刹那、狙ったかのようにすごい勢いの弾丸が一人で仕事をする園芸部の彼女の元に向かって放たれた。

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