会社員(26歳)の俺にJKのストーカーがいるんだが。

伏見キョウ

3.俺とJKが出会い2週間ほどたちました。-3



 まずはインターホンを10回ほど押してから自分で作ったらしい合鍵を使い、俺の部屋に侵入。


 「おはようございます!悠志さん!!今日はどこのお部屋にいますか?!」


 3LDKの広い部屋に一人暮らし。ちゃんと寝室はつくってあるものの、リビングだったり漫画や薄い本を大量に収納してる部屋など他の部屋で寝落ちしてることもある。
 そのため、"ストーカー"は靴を丁寧に揃えて部屋に上がるとすぐに近くの扉を開ける。
 そこは洗面室で奥には風呂がある。
 「悠志さんいますかー?」


  何も反応がない。
  忍び足で風呂の扉を開ける。


 「悠志さん……もしやお取り込み中ですか?」


  もちろん誰もいない。


 「ここでもないというと……!」


 目を鋭くし、洗面室を出て隣のトイレをノックする。


 「悠志さん、悠志さん!!ここですか?!」


 ドアノブに手をかけると、鍵がしまっていないことに気づく。
 この部屋の住み主は一人暮らしだからわざわざ鍵を……ということで基本トイレは鍵をかけずに入る。
 もしかして、もしかして……。
 よからぬ妄想を"ストーカー"は、しはじめた。


 「うふふふふふ……。ついに裸ではないけど用をたしてるところを……!」


 もう病院に連れていかれそうなレベルの変態っぶりを出す"ストーカー"。
 しかし、案の定トイレの中は無人。
  

 すぐさま"ストーカー"は足取りを変える。
 トイレを出て、直進に少し進むと洋室がある。
 この洋室にはウォークインクローゼットがあり、住み主は寝室として使っている。
 一昨日と昨日の朝は寝室で寝てた……!
 つまり、今日も寝室に……!
 確信を持ち部屋にそっと入る。
 時刻は朝の7時。
 住み主はそろそろ起きる時間だ。
 ベッドは部屋の中央部にある。
 そこに向かって歩くが、"ストーカー"は気づく。


 布団の中に人がいる様子がない。
 布団が盛り上がっていないのだ。
 "ストーカー"は布団を勢いよくめくる。
 案の定、そこにはいない。


 「悠志さん!!どこにいるんですか!!」
 

 誰に対した訳でもない叫びをあげ、部屋を出る。
 

 次に侵入したのは住み主が趣味部屋として使っている部屋だ。
 この部屋の住み主は相当のオタクのため、廊下や寝室、トイレなどにもあちこちにポスターやタペストリーを飾っている。
  寝室だけでも十分、オタク要素があるが趣味部屋はそれ以上だ。
  天井も床も、カーテンも壁一面も……とにかく二次元イラストの美少女、美少女、美少女だ。
  天井にはたくさんのポスター、床とカーテンは美少女の特注品のカーペット。
  壁は大量の漫画や同人誌がジャンル別に細かく分類分けされている。他にも棚に大量のフィギュアや特典であろう色紙やコースターがディスプレイされている。
  部屋の中央には座椅子があり、その近くにはたくさんの美少女だき枕が置いてある。
  寝室にも数体あったが、こっちは寝室のよりも美少女の肌色具合が多い。
  CDを流せる機械も置いてあり、住み主いわくもうこの部屋でなら死んでもいいめっちゃ天国だよ、らしい。


  住み主お気に入りの部屋。ここなら必ず……!
  "ストーカー"は「おはようございます!」と元気に声を出しながら部屋を除いたが誰もいなかったようで"ストーカー"の声がよく響いた。
  

  もう、こうなったら!!絶対にあそこだ!!
  趣味部屋を出た"ストーカー"はだだっ広いリビングダイニングに侵入。


 「おっはようございます、悠志さん!!」


  「ん……おはよう。」


  自分の近くにあるソファから声がして"ストーカー"は近寄る。


  「今日もここで寝落ちですか?」


  「おう、昨日の夜はアニメがめっちゃいいやつばっかりだったからリアタイ視聴してた……。」


  まだ眠そうにあくびをしながら答える住み主。


  「昨日?あぁ、男主人公が異世界に転生してキノコになるやつと殺しあいゲームする中学生、安定の魔法少女にちょっとエッチな学園バトルものと……」


  "ストーカー"はすらすらと昨日の深夜アニメの種類について述べる。
  

  「「まぁ、昨日の中でもやっぱり一番なのはベジタブルガールズ」」 


  住み主と"ストーカー"は同時に言う。
  お互い軽く笑ったあと、"ストーカー"は住み主に問う。


  「悠志さん、今日の朝は何がいいですか??」


  「うーん、……米がいいな。」


  悠志さん、と呼ばれた住み主は答える。


  「わっかりました、おまかせください!30分程度で用意しますのでその間に支度してくださいね!」


  "ストーカー"は軽い足取りでキッチンに向かった。


****


  くそ眠い……。
  まだ寝ぼけた頭で廊下を歩き寝室に向かう。
  寝室には着替えをするために来た。
  いつもならちゃんと寝室で寝るのだが、昨日は夜遅くまでアニメを見ていたのでリビングで寝落ちした。
  まだ寒さのきつい1月半ば。
  着替える手つきもやや遅い。
  とはいえ、この部屋は既に暖かい。
  なぜなら7時頃に部屋にあがってきた俺の知り合い、または"ストーカー"こと花園鈴鹿が気を聞かせて暖房をつけておいてくれたのだ。
  

  鈴鹿は去年の大晦日にストーキングされ、元旦に知り合いとなった。
  交際を迫られたが、出合ってすぐに付き合うのは……と俺が躊躇して、『交際を前提としたお知り合い』と言う関係になる。
  元旦に連絡先を渡した以降、毎日のように朝起こしに来る。そして朝食を作ってくれる。
  鍵は一切渡していないが、彼女の独自の技術で合鍵を作成したようだ。
  JKに起こしてもらって、朝食を作ってくれて一緒に食べてくれる。やや変態ぎみでストーカー要素有なのを除けば、天使のような存在だ。
  さらにはお昼の弁当まで作ってくれる。
  弁当までは申し訳ないと、先週出社するときに言ったら大泣きされて下着を何枚か彼女に盗まれた。
  彼女の気にさわることを言う度に下着や衣類を盗まれたら困るのでなるべく言わないようにしてる。


  「悠志さーん、できましたよー!!」


  廊下の奥から呼ぶ声が聞こえたので、急いで着替えて向かう。


  「じゃじゃーん、今日は思いっきり和食ですよ!」


  一応、ダイニングテーブルはあるがそこからだとテレビが見にくい場所なのを知っている鈴鹿はあえてテレビの近くのローテーブルに食事を置いてある。
  ベランダ側に鈴鹿が座り、俺は鈴鹿の机を挟んで真正面に座る。


  「座布団使うか?」


  「あ、すいませんお願いします。」


  ソファの近くにおいてあった赤い座布団に手を伸ばして取り、鈴鹿に渡す。


  まじまじと食事を見ると一人暮らしの男なら絶対に食べれないような豪華な食事。
  二人揃って「いただきます。」といって箸を持つ。
  艶のある米は茶碗一杯に、味噌汁は豆腐とワカメとかいわれ大根入り。ほっこりとしたかぼちゃとさつま揚げの煮物に卵焼き。卵焼きにも手が込んであり、ひじきなど五目入り。   
 その他にも小鉢にほうれん草のおひたしだったり、たった30分で作れる量ではない。


  「鈴鹿、お前ほんとすごいよな。」


  「ふえっ?」


  不意をつかれたのか卵焼きを落としそうになる鈴鹿。


  「いや、よく30分でこんなに作れるよなーって。」


  「うふふ、私がたった30分で作ったと思います?仕込みは毎回夜のうちにしてますよ。だいたい悠志さんが朝食べたいのは和食ですよね。スーパーで買うもの見てれば分かりますよ。」


  鈴鹿はどや顔で答えた。
  毎日学校が終わっても俺の家に来て近くのスーパーで一緒に買い物して夕食を作ってくれている。
  毎回見てるとバレるなら、明日はあえてパンがいいっていおうかな。


  

  朝食を済ませたあとは、軽く身だしなみを整え仕事に向かう用意をする。
  コートやマフラーはリビングの壁にかけてあるので取りに行く。


  「悠志さん、今日のです!」


  鈴鹿はすごくにこにこした顔で弁当を渡してくれる。


  「おう、ありがと」
 

  ちなみにこの時点で鈴鹿は洗濯もして干してくれている。なんてやつだ。
  突然の雨の場合、取り込めないので部屋の中干しだが。
  これも本当なら自分でやるといったが案の定、次の日洗濯したはずのYシャツが1枚鈴鹿にパクられた。


  コートやマフラーを着けて、テレビや証明を消す。


  「悠志さん、行きましょー。」


 鈴鹿もコートとマフラーなど防寒具を身に付けていた。
  
 「んー。」


  玄関を出て、二人でマンションの通路を歩く。
  鈴鹿はここから自転車で20分程度の場所に住んでいるが、ここから駅は徒歩で俺と歩いていく。


  「なぁ、毎回思うんだけどさ。」


  「なんでしょう?」


  「お前さ、おっさんと朝に話ながら通学してるの友達にバレないの?」


  「いやー、それが私の学校 生徒数が多いのはご存知ですよね?」


  「あぁ。生徒数はここら辺じゃ一番多い名門女子高と聞くぞ。」


  「そうなんです、それが答えです。」


  「生徒数が多い分、知らない方の方が多いです。ましてや、この時間帯に電車乗るうちの生徒は少ないですよ?」


  「……始業時間は?」


  「8時30分です。電車通の人には厳しいですよね。」


  「え、お前学校間に合う?遅刻魔??」


  「あら、失礼な。」 


  「は?」


  「私の学校、駅から徒歩で5分ですよ。悠志さんと駅で別れてからは走ります。走れば3分です。なんと20分には着くのですよ!!」


  すんごい自信満々に答える鈴鹿。
  

  だらだらと話しているうちに駅に着き、改札を通りホームに向かう。
 電車に乗っても鈴鹿との会話は続く。


  「そういえば今日ですね。」


  「なに?新作のゲームの発売日?聞いてないんだけど。」


  「いえいえ、悠志さんの職場に新しいお方が来ることですよ!」 


  「あー、そんな事 前に言ったな……。」


  「1月に転職とは、あれですかね。年も開けたことで、心機一転みたいな。」


  「さぁな、でもうちの会社に転職できたんじゃそこそこ頭のキレるやつだろうな。」


  「楽しみですね~。」


  「なんでお前が楽しみなんだよ。」


  「うふふ。」


  

  会社の最寄り駅についてからも会話は続いた。
 「悠志さん」


  「ん?」


  「新人さんが美人でも目移りしないでくださいね。」


  「まず付き合ってないからな、ストーカーめ。」


  軽く鈴鹿のおでこにでこぴんして駅で別れた。
   俺は東口、鈴鹿は西口。
  ちらっと西口を見るともう走ってる鈴鹿の姿。
  毎朝、助かるんだよなあ。あとで礼でもしないとな。
  あ、ベジタブルガールズの同人誌セットでいいか。
  さすがオタクの発想と我ながら感心。




  ******


  大学を出て、すぐに勤めたのは中小企業の事務。
  本当なら別の会社希望だったが、内定がもらえず 三、四流大の人が行くような会社に。
  さらには、ろくにお茶だしも出来ずミスも連発。
  男性社員からは、飲み会でセクハラ同然の被害多数。書類をコピーしているときに自分の後ろにたち下半身を触ってきた者もいる。
  女性社員は、自分が一流女子大出身と聞くや否や離れ、ほとんど親しいものはいなかった。
  やっぱりもっと良いところで働きたいと思い、転職することに決めた。
  転職する先はとてもホワイトな会社で、ネットでも悪い噂が一切ない。
  北海道に住む両親に転職先のことを話したらすごく喜んでくれたのを覚えている。
 大川千尋おおかわちひろ、23歳。新しい職場で頑張ります!
  そう思ってたのもつかの間、宇都宮行きの電車に目の前で乗り過ごしてしまった。
  まぁ、すぐに来るから遅刻はしないよね……。
  大川千尋はワクワクしていた。新しい職場での仕事、出会いに。
  大学時代に1度だけ彼氏が出来たことがあるが 彼氏はチャラ男で留年しまくりの25歳なのにまだ大学2年生だった。
  彼氏の学年と年齢を知った千尋はすぐさま別れた。
  一流女子大出身の自分に合うのは同じような一流大出身の殿方……。
  職場になれてきたらオフィスラブとかしてみたいな。
  まだ寒い1月の朝の電車のホーム。
  大川千尋だけは寒さを感じさせないぐらい熱いオーラを出していた。


 *****
  

  「はよーざいまーすー。」


  気の抜けた挨拶をしながら自分のデスクに座る悠志。
  既に出勤していた先輩、新渡百合恵にとゆりえが悠志に声をかける。
  「永江、お前今日楽しみ?」


  「は?なんですか?」


  「とぼけんなよ、童貞。今日から事務に新人来るのよ。うちの部署とも何かと関わると思うから顔と名前覚えておきなさいよ。」


  「は、はぁ……。」


  新渡百合恵は悠志よりも3つ年上。ちなみに彼氏は一応いるらしい。茶色の長い髪を巻いて、整っている顔にセクシーなメイクをしてくる新渡。
  新卒ではじめて見たときは色気でドキドキが止まらなかったが今は慣れた。


  「ちなみになんて名前すか?」
  

  「うーん、とね……あ、そうそう。」
   



  「大川千尋ちゃんよ!」
                                


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