親父様とまじかる☆すとーん

秋原かざや

外伝 王妃様を救え!

 平和なマジカルストレシア大陸。しかし、その平和も『魔王』の手によって失われつつあった。
 この国、グランジェスタ王国でも『魔王』の力が及び始めていた。
「残念ながら、このオババには王妃様を助けることは出来ん……」
 グランジェスタ王国一、物知りであり、大魔法使いのオババはそう重く口を開いた。
「オババ様、どうしてもダメなの? お母様はこのまま……眠ったままなの?」
 この国の王女、オルフィーナはオババに詰め寄った。肩まで届くほど艶やかな金髪。そして、悩ましげなたれ目の蒼い瞳。どれをとってもこの国一番の美しい女性。しかし申し分ない女性であるにもかかわらず恋の話がないのは……彼女は180センチという巨体であること。そして、男に負けぬほどの剣術を持っていたことによるだろう。
 このグランジェスタ王国は他の国と異なることがいくつかある。一つは女性がこの国の王となること。この国の王となる女性の相手は必ず他国から選ぶこと。などなど。
 とにかく、数日前に突然倒れた王妃を起こすことが先決である。類い希なる知性を受け継いだ王妃は全てを一人で進める傾向にあった。しかし、ここに来てそれが仇となる。倒れたことにより国の業務全てが止まってしまったのだ。オルフィーナのためにこれから業務を細分化しようとしていたところだったのでなおさらである。
「でも、このままでは……この国は大変なことになってしまうわ」
 悲しそうに俯くオルフィーナ。
 と、そこへ一人の女性が現れた。
「オルフィーナ様~オババ様~! あの、お目通りを願う者がいるの……あ、ダメですよぅ~」
 いや、女性ではない。女性の格好をしている歴とした男性である。名はリア・エルル・アスティア。オルフィーナの幼なじみであり、有能な吟遊詩人でもある。何故女性の格好をしているかって? それは言わない約束だ。とにかくそういうことなのだ。気にしてはダメだ。
「何だよ。つべこべ言わずにさっさと通せよな。よ、オババ、元気にしていたか?」
 あわてふためくリアの後ろからポニーテールでやや日焼けした肌を持つ女性が現れた。彼女の名は黒田せな。そのしなやかに伸びる足で各地を回る運び屋である。
「おお、せなか。待っておったぞ」
 オババはせなを招き、せなの持っていた手紙を受け取った。
「オババ様の~お知り合い……ですかぁ?」
 じーっと不思議そうにせなを見るリア。
「おお、よく魔法通販のものを持ってきてもらっておるのじゃ。それはさておき……どうやらあの子達がこちらへと向かっているようじゃな。よし、オルフィーナ、迎えに行ってくれんかの?」
「お、オババ様? 話が……見えないんですけど……」
「これで王妃が救われるぞ」
「???」
「あたしの連れがもうすぐ魔の森を越えて、この城下町に向かっておるのじゃ。連れには王妃の目覚めさせるマジックアイテムを持たせてある。さあ、何ぼーっとしておるのじゃ、さっさと迎えにいかんか! 魔の森は強い魔物の巣窟。オルフィーナの力が必要じゃと思うがの?」
「……それって、か弱い女性に向かって言う言葉じゃないわよ……」
 それはともかく。こうして、オルフィーナとお供のリア、せなを連れて、魔の森へと向かったのであった。




「あらーん? やっぱりあのオババちゃんに見つかっちゃったみたい☆」
 黒い羽をはためかせたナイスボディの姉さんが黒い水晶を見つめながら妖しげに笑った。
「魔王様……お呼びですかぁ~?」
 なんともやる気ない声で現れたのは忍びの青年、皇琥玖。通称オウコ。
「魔王だなんて恐い呼び名で言わないで☆ 私にはレ・イ・ルー・ラっていう可愛らしい名前があるんだから☆」
「はいはい、レイルーラ様。で、何をすればいいんです?」
「彼らの邪魔をして欲しいの。モーレツに熱く情熱的にね♪」
「……モーレツかどうかはおいといて、とにかく邪魔すればいいんですね。了解」
「それと……彼も連れていって。何かと役に立つと思うから」
 そう魔王ことレイルーラの指さす先には顔に傷を持った少年が立っていた。
「彼はヴォルール・ヴァレ・ティラォン。又の名を『クトー』というんですって☆」
「『クトー』? もしかして、あの金さえあれば殺しもするという?」
「……そういうことだ」
 ぽつりと少年は呟く。
「ま、そーゆー訳であなた達には期待しているからね☆ 吉報を待っているわん♪」
 レイルーラに見送られ、二人の邪魔者も魔の森へと向かっていたのだった。




 一方そのころ。
 もう一つのグループ……いや、オババの連れはというと。
「……どうして私がこんなことを……」
 ぶつぶつと眉を潜めながら不服を連ねているのはリバー王国の第2王子、ユレイア・リバー。痩せているように見えるが、鍛え抜かれた技は国一番とも言われるほどである。
「もう諦めたかと思っていたが……まだ諦めていなかったのか?」
 そうユレイアに訊ねるのは異国から来た剣士、孤我蒼雲だ。とは言っても、その雰囲気はユレイアの国で得た軽鎧によって消されつつある。
「ぷりん、おなかすいたにゅ」
 オババの孫娘。プリムだ。生まれ持った魔力のせいで左右の瞳の色が違う、幼い少女である。それと大きな眼鏡を付けている辺り、どうやら視力はあまり良くないようだ。
「私も空きました~」
 こちらもオババの孫娘、ライアだ。彼女もプリムと同じく左右の瞳の色が違う。ちなみにライアの方がお姉さんで、プリムとライアは双子であった。なぜか口調が違うのは……お姉さんだから……らしい?
「……仕方ないですね。近くの食堂で食事にしましょう」
 ユレイアがそう二人に提案する。
「わーい☆ ごっはーんにゃ♪ ごっはーんにゃ♪」
「わーいわーい☆」
 二人は嬉しそうに歌っている。
「ふう……」
 その様子に思わずユレイアがため息をついた。
「ため息つきたい気も分かる……こう見えてもオババよりも優秀な魔法使い……だなんて、冗談みたいな話だからな……」
 蒼雲も一つため息をついて、食堂の中へと入っていこうとした一行だが……。
「お待ちなさい……」
 呼び止める者が一人。どうやら占い師のようだ。口元をヴェールで隠している麗しの占い師、メム・ソルティアだ。
「あなた方、魔の森に行くのですか?」
「あ、ああそうだが?」
 メムの声に蒼雲が頷いた。
「止めておきなさい……今すぐ引き返すのです。出なければ恐ろしい災いが……ってあああ! む、無視しないでぇ~」
 メムの言葉をそのままに一行はさっさと食堂へ入っていった。
「もう、どうなっても知りませんよ? ねえ、ごんざれす?」
 メムの肩に乗っかっていた巨大なヘビがこくりと頷いた。




 気味の悪い禿鷹が灰色に染まる空をゆっくりと飛んで行く。
「ひええええ……オルフィーナ様ぁ~、や、やっぱり帰りましょうぅ~」
「何気弱なことをいってるんだい! オメエ、男なんだろ? ちったあシャキっとしたらどうだい?」
「戦いは嫌いですぅ~」
「あのなぁ~」
「ねえ? 一つ聞いてもいいかしら?」
「あん?」
「はい、なんでしょう? オルフィーナ様」
「アナタは戦いが嫌いだと言っていたけど……向こうから敵意むき出しにやってきたら、アナタはどうする?」
 そのオルフィーナの言葉にリアはそっと振り向いた。
「あ、あああ……!」
 ばたばたとオルフィーナの後ろに回るリア。
「後ろで援護お願いね」
 オルフィーナは腰から細身の剣を、すらりと引き抜いた。
「おっと、オイラもいること忘れるなよ」
 そういいながら手にしていた棒を構えるせな。それにオルフィーナは薄く、笑みを浮かべる。
「じゃあ、行くわよ!」
 戦いの火蓋は切って落とされた。


 彼らから少し離れた丘に一人の女性が立っていた。その後ろに少年が一人。
「あらあら、随分と奮闘しているみたいね、お姫様♪」
「おい……」
「何?」
「何で……女になっているんだ? 確か、お前は男……だよな?」
「あら、ヴォルちゃん、そんなに恐い顔しないでよ。ほら、私、忍びでしょ? 命を狙われているのよ、いろんなところから。だからこうしてカモフラージュしないとダメなのよ? お分かり?」
「……で、オウコ。次はどうするんだ?」
「今は累って呼んで欲しいわね。……そうね、次へ行く前に……向こうから助っ人登場って感じね」
「………」
 彼らの視線の先にユレイア王子一行の姿が見えていた。


「ちょ、ちょっと……切っても切っても出て来るんだけど……」
 ふうふう息を切らせてオルフィーナは狼のような獣を相手に奮闘していた。
「だああ! 限度という言葉を知らないのかい? こいつらはっ!?」
 せなは手にしていた棒で獣達を叩き倒しているが、まだ数は減らない。
「あううう、な、何とかして下さい~」
 リアは木の上に登り、避難中である。
「り、リアっ! 確か呪歌、歌えたわよね? その中に体力を回復させるもの、なかったかしら?」
「ああ、そういえば……じゃあ、歌いますっ! 聞いて下さい! 道化師達のパレード!」
 リアは手にしていたハープを奏で始めた。戦いの場にはあまり向いていない、陽気で明るい曲がこの場を包む。
「よっしゃあ! 何だかやる気が出てきたぜ」
「これを維持しながら、さっさと蹴散らして移動しましょう!」
 オルフィーナが明るくそう言ったときだった。オルフィーナの視角から外れたところから、獣が一匹襲いかかったのだ!
「し、しま……」
 思わず瞳を閉じるオルフィーナ。
「危ないっ!」
 ガキン!
 来るはずの衝撃はなく。
 代わりに聞こえたのは何かかぶつかり合う音。
 そっとオルフィーナが瞳を開くと、そこには一人の青年が立っていた。青年は柄に豪華な細工を施された立派な剣でオルフィーナを襲った獣を倒していた。
「お怪我はありませんか?」
 その声にオルフィーナはどきどきと高鳴る鼓動を感じていた。
「い、いえ……アナタのお陰で命拾いしたわ」
 その声に青年はふわりと笑みを浮かべる。
「よかった。……蒼雲っ! こっちに来てくれ! ここなら呪歌の影響もある分、戦いやすい!」
「了解した、ユレイア!」
 蒼雲とユレイア、そしてオルフィーナの剣技とせなの棒技が炸裂する。そのお陰で、獣を撃退することにやっと成功を収めたのであった。
「一時はどうなるかと思いました。ありがとうございます、ユレイア王子」
 そういってオルフィーナは自分の剣を鞘に納めながら手を差しのべた。
「私の名を知っているのですか?」
「先ほどそこにいる剣士様がそう、呼んでいましたから。もしや……あなた方があのオババ様の使いの方、ですか?」
「ばあちゃんはぷりんのばあちゃんにゃ!」
 蒼雲の後ろでちょこまかと獣の攻撃を避けまくっていたプリムがにこにことそう言う。
「はい、大魔法使いのオババ様は私達のおばあさまです。頼まれたものを持ってきましたよ」
 もう一人の少女、ライアもにこやかに笑みを浮かべた。
「ワタシは皆さんをお迎えするようここまで来ました、オルフィーナと申します。こちらは連れのリアとせなです」
「も、もしかして、貴女様はグランジェスタ国の王女、オルフィーナ・グランジェスタ様?」
 驚きながらそう訊ねるユレイア。
「あ……わかりました?」
 こうしてお互いの自己紹介を済ませた一行はグランジェスタ国へと向かうこととなったのだった。


「あらら、あの獣さん達、弱いのね?」
「弱くはない。これ以上、怪我をさせたくなかったから引き返させた」
 ヴォルの隣には一回りも大きい狼が控えている。
「そろそろ私達の出番、みたいね?」
 ヴォルはその累の言葉に黙って頷いた。


「ワタシ、乗馬が好きなんですの。ユレイア様は?」
「ええ、私もよく森を愛馬と共に散策します」
 ちょっと困り顔でユレイアはオルフィーナの話の相手をしていた。しかし、オルフィーナはそんなこと気にしていないらしい。いや、気づいていないのかも知れない。
「蒼雲様、ユレイア様っていつもああなのですか?」
 そっとリアが側にいた蒼雲に訊ねた。
「いや……さ、先ほどの戦闘で、疲れたのではないのか?」
 実は今回の依頼が気が進まぬもので、ユレイアはずっとストレスを抱えてここまで来た……ということは流石に言えない蒼雲だった。
「そうなんですか? かなり不機嫌な様子、ですが?」
「きっと、かるしうむが、ふそくしているんだにゃ☆」
「だ、だといいんですが……」
 と、他愛のない話をしているときだった。
「はあい、そこの皆さん。ちょっとここからストップね」
 オルフィーナ達の知らぬ女性が前に立ちふさがる。
「これ以上先に進むのなら、俺達を倒してから行くんだな」
 女性の後ろから磨かれたナイフを構える少年も現れた。
「な、何なの? アンタ達っ! ワタシとユレイア様の仲を壊すつもりっ?」
 それは違うと思うぞ。その場にいた者全てがそう思ったのは言うまでもなく。
『残念~、ちょっと間違いよ~ん』
 何と、空にレイルーラの姿が映し出されたのだ。
「あ、あれは……魔王っ?」
 皆はその姿に驚く。
『ノンノン☆ レイルーラっていう可愛らしい名前があるんだから、そう呼んでよ☆ そうそう、多勢に無勢だから、累ちゃん、ヴォルちゃん、助っ人送るわね~☆ バトル頑張って~☆ じゃ、ばいばいきーん♪』
 そういってしゅぼっと良い音を残し、レイルーラの姿は消え失せた。
「助っ人だと? そんなものいらんのに」
「まあまあ、いいんじゃない? あっちの方が数は多いんだし」
 ヴォルと累は顔を見合わせていた。
『グオオオオオオオーン!』
「……はい?」
 思わずヴォルと累は声のした方向を見た。そこにいるのは……5メートルもあろうかという巨大な獣。先ほどの狼が巨大になって、さらに炎を身に纏っていた。
『ごっめーん。ちょっとしくったみたい。なんとか退治してね。見境なく攻撃してくるから、じゃあ、今度こそばいばいきーん☆』
「なんじゃそりゃー!!」
 また出てきたレイルーラの映像。それもまた、すぐに消えるとそこに炎の獣が一行達に向かって駆けてきた!
『グオオオオ!』
 炎の獣に向かって武器を構えるオルフィーナ達。リアとプリム、ライアは急いで木の上に避難した。
「ちょっと休戦ね……」
「だな……」
 累とヴォルも一行に加わってバトルが始まる。
「どりゃああああ!」


「あああ、何だか押されているみたいですぅ~」
 リアは木の上から先ほどの曲を奏でながら、一行を見守る。
「このままではやられてしまうわ……」
 ライアも心配そうに彼らを見ている。
 と、ずっと黙ってみていたプリムが口を開いた。
「ライア姉さん。彼らを助けたいですか?」
 突然、人格が変わったかの口調にリアは目を丸くさせた。
「ええ、何とか出来る? ナノア?」
「な、ナノアぁ~?」
 急な展開に追いつけないリア。
「姉さんの力も借りることになりますが……構わないですか?」
「ええ、いいわ。使って」
「では……ヴィエラ・ジル・シーアス・ド・ブラストアっ!」
 ライアの手を取り、ナノアと呼ばれた変化したプリムが何かをしゃべり出す。と、二人の体が光に包まれ……。
 二人は一人へと変化した。麗しの美姫と呼んでも相応しいほど。その美しい女性は獣を一瞥し、そして、その手のひらから氷の槍を作り、獣に向かって放った!
 グシャアアアア!
 あっという間に獣は消滅してしまった。
 その後ろで……。
「な、なんて美しい女性なんだ……」
 ヴォルがぽつりと呟いていた。




「あらいいの? 私達敵よ?」
「昨日の敵は今日の友といいますでしょ? それに、これから何処へ泊まろうと思っていました?」
 そのオルフィーナの言葉にヴォルと累は無言になる。所詮雇われの身。しかもまだ給料も貰っていない貧乏生活をしている二人には王宮のもてなしは非常に嬉しい言葉だった。
「無事に王妃様も目覚めましたし、一件落着、ですねぇ~」
 嬉しそうにリアはそう瞳を細めた。
「ま、まさか……あんなことをして起こすとは……魔王に眠らされたくないな……」
 ぶるぶると先ほどの王妃起こしの手伝いをしていた蒼雲が震えながらそう告げる。
「そんなことよりさ、オイラ、腹減ったんだけど、今日は何だい?」
 元気良くオルフィーナに訊ねるせな。
「今日は皆さんの歓迎会ですから……ご馳走になりますよ」
「ラッキー!」
「ぷりん、ぷりんがたべたい~!」
 せなが喜ぶ横でプリムが元気良く手を挙げる。
「プリンあるといいわね☆」
 ライアも楽しみのようだ。
「………早く帰りたい………」
 ユレイアだけ、疲れた顔でため息をついていた。今までの旅でかなりお疲れの様子。
「ユレイア様、どうかされました?」
「い、いえ、なにも……ああ、テディを殴りたい……」
 ユレイアの最後の言葉はオルフィーナには届かなかったようだ。
 どうやら、今夜はグランジェスタ城で賑やかな宴を開くようだ。




「あら~寝返っちゃったかしら? まあいいわ。次は何して遊ぼうかしら?」
 魔王レイルーラ。まだ何かを企んでいるようだった。だが、それは別のお話。またの機会で……。







「親父様とまじかる☆すとーん」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く