親父様とまじかる☆すとーん

秋原かざや

暗躍 第2回 混戦乱戦? 困った戦い結末は?



 昔々。
 まだストレシア大陸が出来て間もない頃。
 一人の女神様が天から降りてきました。
 女神様は何もないこの大陸を見て、とても悲しみました。
 本来ならば、もう草花やさまざまな生き物が住んでいる大陸になる予定だったのです。
 女神様はすぐに暖かく澄んだ風を送りました。冷たく涼しげな水を流しました。光あふれる太陽の光を注ぎました。こうした女神様の力であっという間に何もないストレシア大陸にさまざまな草花や動物たちがもたらされたのです。そして最後に、女神様は自分に似せて『人』を作りました。女神様と同じ力を授けることは出来ませんでしたが、その代わり、生きるための知恵を授けました。
 女神様は最後に作られた『人』たちを集め、こういいました。
「私はもう天へ戻らなくてはなりません。ですが私の力のかけらをこの大地に授けましょう。力のかけらは四つあります。それを全て集めたとき、あなた方の前に現れ、願いを一つだけ叶えてあげましょう」
 女神様は手のひらから赤、青、緑、黄の四つの光を大陸に飛ばし、天へと戻っていきました。
 たくさんの人がその力のかけらを求めて探しに行きました。ですが、未だそれを得たものはいないのです。


「ねえ、母上。女神様の力のかけらって、なあに?」
 おとぎ話が終わったとき、幼い子供がそう、母親に尋ねた。
「今は、そう。『まじかるすとーん』と呼ばれている四つの石よ」
「ぼくにも探せるかな?」
「さあ? 一生懸命、勉強したら探せるかもしれないわ」
 母親はほほえみ、子供を寝かした。
 そう、これがおとぎ話の全貌。
 誰もが恋いこがれる伝説の女神の石。
 『まじかるすとーん』であった。




 薄暗い洞窟……いや、山賊達のアジトである。そこに背の高く太い2本の蝋燭がほのかな明かりを灯していた。
「それではよろしいでしょうか?」
 少し冷ややかな洞窟にりんとした響きのメム・ソルティアの声が流れる。
「ええ、いいわ」
 ごくりと流石のオルフィスも緊張しているようだ。
「私の占いはいくつか選択肢がなければ出来ません。例えば『勝ち』『負け』、『好き』『嫌い』などのように、です。何について占えばよいでしょうか?」
「……オルフィス様、何を占ってもらうのですか?」
 オルフィスの隣にちょこんと座るユレイアーナ・リバーが声をかけた。
「そうね……やはりワタシとダズとの戦いの行方かしら? まずは明日行われる決闘について、ね。勝つか負けるか教えてちょうだい」
「うわ~☆ 楽しみですね~。こういう占いって初めてだよ~」
 オルフィスの後ろに陣取っているリア・エルル・アスティアがわくわくとそれを見守っていた。
「分かりました。では、始めますよ……」
 メムは二枚の札を取り出した。赤と青の札である。裏は二枚とも白い。
「赤が勝ちということで、よろしいですね?」
 オルフィスが頷くのを確認し、メムは二枚のカードを伏せ、鮮やかにシャッフルした。
「ごんざりお、出番ですよ」
 そしてメムは何かを唱え始める。何の言葉かはわからなかったが、占いのための呪文だろう。そのメムの呪文と共にごんざりおは、二枚の札の周りを円を描くように踊りながら回っていた。
 ぱん。
 突然メムの手拍子が響いた。と共にごんざりおの口にはいつの間にか一枚のカードがくわえられていた。
「占いの結果は……」
 ごんざりおの口から出た札は。
「青……どうやら負けてしまうようです……」
 その言葉にオルフィスは苦笑した。
「あら残念ね……」
「ですが、私は未来は変えられると思っています。悪い結果となりましたが、努力すれば道は開けるでしょう」
「オルフィス様……」
 心配そうに声をかけるユレイアーナ。
「大丈夫よ」
 その言葉にユレイアーナとリア、そしてメムは静かにオルフィスを見つめていたのだった。




「ぷりん、おおきなとりさんとあそぶにゃ♪」
 ぴょこっと小さな腕を振り上げるのはプリムヴェール・ティラォン。銀髪混じりの瑠璃色の腰まである長い髪が、腕を振る度ふわりふわりと舞う。その両目には布で目隠しをしていた。肩からは小さなポーチも下がっている。
「え? プリム、今何て?」
 側にいたプリムの保護者、ヴォルール・ヴァレ・ティラォンが思わず声を上げた。右目の額から頬にかけてある傷跡が彼のトレードマークだ。全身をマントで覆っている。
 ちなみに二人とも褐色の肌を持つ、アラビス人だ。
「ぷりん、とりさんとあそぶにゃ~♪ とりさんにのるのにゃ♪」
 もう一度、うきうきとした口調でプリムヴェールはそう答えた。
「なんだってえええええっ!?」
 ヴォルールの声が山賊アジトの洞窟内に響き渡る。それを聞きつけたのはリアと皇琥玖の二人。いや、今は琥玖ではない。累だ。
「そんなこと、ぜっっっっっっったい! 駄目だっ!」
 ヴォルールがそう言う。
「なんでにょ?」
「畑の作物を取ってしまうヤツなんだぞ!? 山賊を襲うヤツなんだぞ!? 危ないに決まっているだろ!!」
「にょ? そんなの、ぷりんしらないにょ? とにかくとりさんとあそぶにゃ、あそぶにゃ♪」
 ばたばたと駄々をこねるプリムヴェール。
「だから、駄目だっ!」
「……にゅ~、あそぶにゅ~」
「あらあら、ケンカしているようね」
 累がそれを楽しそうに見ていた。
「ああ、なんとかしないと~、なんだかいやな予感がします~」
 リアがあたふたと何か良い案がないか思案しているとき。
「やっぱりあそぶにゅ~」
「絶対に駄目っ!」
 ヴォルールはすぐさまどこかへ行ってしまいそうな勢いのプリムヴェールの腕を強く握りしめた。
「やだやだやだにゅ~」
「駄目駄目駄目駄目だ!」
 むっとプリムヴェールは頬を膨らませた。
「あ~!」
「あらあらどうなるの?」
 リアと累が見ている前で。
「にーちゃの、ばかぁ!!」
 プリムヴェールの手がばしんと払われ。
「な、ぷ、プリムっ!?」
「うああああああん!!」
 プリムヴェールはそのままアジトを出ていってしまった。
「あららら」
「あららら~じゃないです~! ボク、追いかけます~!」
 急いでリアがプリムヴェールの後を追いかける。
 残されたのは累とあ然としているヴォルールの二人。
「ちょっと、お姫様、行っちゃったみたいよ?」
「…………」
「もしもーし?」
「うっ……オレ……嫌われちゃったかなぁ」
 目の端に涙をにじませながら累の腕をしっかとつかむ。
「え、ええ。……じゃなくて、いいの? これで?」
「ど、どうしよう……」
 もう、涙と鼻水がじょるじょると流れている。はっきり言って彼の今の姿は盗賊らしからぬ外見だ。
「と、とにかく……探しに行ったら?」
「お、おうっ!」
 ずびびびっっと自分のマントで涙やら拭い、颯爽とアジトを後にする。
「何だか……とっても疲れた気分……」
 累はがっくりと肩を落とした。




 一方、シルム町では。
「困ったわ……王女を捜すよう頼まれたけど……一度しか会ったことがないのよね。しかも赤ちゃんの頃の……」
 ユレイアーナは王から直々に頼まれた王女探しを始めていた。そのときの僅かな記憶を絞り出す……。
「確か、蜂蜜色の髪に青い瞳……だったわ」
 しかし、それだけではかなーり不足している。明らかに。
「だからといって人に尋ねる……ことは出来ないのよね。オルフィス様、知っているのかしら?」
 一応、ああ見えてもユレイアーナの上司。何度かお会いしたことがあるのかもしれない。
「一度……聞いた方がいいのかしら」
 でも、今は一人で町に来ている。オルフィスはいない。
「とにかく、それっぽい人を探してみましょう」
 うんと頷きユレイアーナは目の前に現れた宿屋に入った。一階は食堂になっている。
「こ、こんにちは~」
 ちょっと引きつった顔になったが、慣れていないので仕方ないだろう。まずは好印象を持ってもらい、聞き出すのだ。
「あの、すみません。ここで蜂蜜色した髪と青い瞳の少女、……いえ、高貴な方は見かけませんでしたか?」
「セミロングの女の子なら見たことあるわ。薬屋さんに入っていったけど」
「薬屋さん?」
 食堂のウェートレスがそう教えてくれた。
「そうそう、それよりも聞いた? ジャパネに、あのまじかるすとーんがあるんですって!」
 と、ユレイアーナのいるカウンターの隣から声がかかる。
「お、俺はアラビスに不老不死の薬があるって聞いたぜ?」
 食事をしている若者がそう話し出す。
「あの、二人とも、その話、もう少し詳しくお聞かせ願いませんか?」
 ユレイアーナは何かを感じ、確かめるようにもう一度尋ねた。


「プリム……」
 こちらもシルムの町である。そこを生きる気力もなくふらふらと歩く者が一人。
 そう、あのヴォルールだ。
 何だか少し頬がやつれているようにも見えるのは気のせいだろうか?
「オレが間違っていたんだろうか……いや、違う……いや、やっぱり間違っていたんだ」
 そうぶつぶつとプリムヴェールの姿を探していた。後を追ったリアの姿も見えない。
「プリムー。おまえはいったい何処へ行ったんだ……」
 と、目の前に通り過ぎる少女が。
 それは紛れもなく?
「プーーーリーーームーーーーッ!」
 その少女にヴォルールは勢い良く抱きついた。
「きゃあ、な、な、何ですか?」
 あたふたと少女から声がかけられる。
「ん?」
 よっく見てみるとかなり違う。瑠璃色の髪の毛は緑色であるし、目隠しもされていない。何より、その髪の毛の長さはショートカットだ。そう、それは別人。しかし、その少女の体格、雰囲気はどことなくプリムヴェールにも似ていないとも言い切れない。緑の髪の少女は、大きな緑色の瞳でヴォルールを見上げた。
「あ、あの……?」
「こらー! お前、不埒な変質者だな!」
 と、遠くからアラビスの女性の声が響いた。その隣には蜂蜜色をした髪をした少女もいた。
「え、あ、その……」
「問答無用っ!」
 哀れ、ヴォルールはその女性の踵落としを見事に喰らい地に伏したのであった。その後、やっと誤解が解けたのはいうまでもなく。
 その日、結局プリムヴェールは見つからずに終わったのである。




 ここは山賊のアジトから少し離れた森の中。
「まーったく。この疾風のクロさんが人肌脱いでやるって言っているのに、洞窟を貸さないって事はどういうことなんだ? ほら、そこ! 手を抜かないっ!」
 黒田せなはぶつくさと、とある罠を作っていた。
「あ、あの……こんな感じでどうでしょうか?」
 成り行きで手伝わされているのはメムと。
「はあ、何で俺も手伝わなきゃ駄目なのさ。でも、鳥を捕まえた暁には……俺がその鳥をもらって調教してもいいんだよね」
 琥玖である。今は男になっている。
「誰がオメエにやるって言ったんだ。あの鳥は捕まえて焼き鳥にするんだよ!」
「……ひ、ひどい……」
 メムはこの世の恐ろしいものを見たような形相でせなを見つめながら震えていた。
「何だよ、なにもオメエを食べるとは言っていないだろ?」
「で、でも……そこまでしなくても……あ、私のごんざりおを投げて捕まえるというのはいかがですか?」
「そっちの方が痛々しい感じがする……」
 琥玖は聞こえないように突っ込みを入れた。
 しばらくしてやっと罠が完成する。
「いいか! 今回の作戦の筋書きはこうだ! オイラがこの美味そうな野菜の入った飛脚箱を担いで歩き回る。それを鳥が狙ってきたところをこの罠の穴にオイラが誘い込むって寸法よ」
 そういってせなは人一人通れるような穴の開いた板を木々の間に頑丈に差し込み、その板を枝や草で覆い、罠でないようにカモフラージュしている。が、賢い鳥には分かってしまいそうな気も否めない。
「とにかく、作戦は一度きり。やるぞ、皆っ!」
『おー!』
 せなのかけ声と共にメムと琥玖、そして山賊数人が作戦実行を始めた。
 まずは鳥を見つけること。
 それがなければ始まらない。
「まーったく疲れちゃうわねぇ?」
 慣れた手つきで琥玖、いや、いつの間にか累になっている。とにかく、累は木の上に上り、鳥の姿を探す。
「あら、あんなところに発見よ~」
 楽しそうに下にいるせな達に鳥の発見を報告した。累の指さす方向には悠々と飛ぶ、鳥さんの姿が。
「よっしゃーっ!」
 せなは待ってましたと言わんばかりに鳥が見える場所へ駆け出す。しかし、鳥は罠を知っているのか、せなには気が付かないようだ。
「あの野菜、腐っているのかしら?」
「そ、それよりも、やはりごんざりおを……」
 メムがごんざりおを使って鳥を捕まえようとするが。
「私に任せなさい」
 累がしゅたたたーと木の上に登り。
「とうっ!」
 鳥の翼の付け根を狙って、クナイを打ち込んだ。が。
 ばしん。
 翼で弾かれた。流石は賢い鳥。どうやら、累の殺気に満ちた気配にもうはや気づいたようだ。が、相変わらず無視しつつ、空を飛んでいる。
「さ、流石は賢いと言われる鳥ね、ますます欲しくなっちゃったわ……」
 にやりと笑みを浮かべると、累は手で印を結び始める。そして。
「雷迅の術っ!」
 それは見事にジャストミート!
 鳥は焦げて黒ずんでしまったが、相手の怒りゲージを増やすことには成功したようだ。
「おおっ!」
 思わずその場にいたメムや山賊達が感嘆の声を上げた。
「ざっとこんなものよ」
 どうやらこれでせなの方に向かって鳥は動き始めた。その目はやや血走っているように見える。
「よーし、こっちだこっち!」
 手筈通りせなは罠のある場所へと駆け出す。そして。
「クエエエエエエ!!」
 それは上手い具合に罠にかかった。
「おっと、これも忘れずに」
 そこらへんに落ちていた太い木の枝を、盛んに鳴く鳥の口に入れてやった。これで身動きが本当にとれなくなってしまった。
「成功だっ! どんなもんだいっ!」
「クエエエエエエエエエエ」
 辛そうに盛んに鳴く鳥。
「もう、止めませんか?」
 メムはぽつりと呟いた。
「な、何だか可哀想です。それにこれに懲りてもう悪さはしないと思いますよ」
 黒こげになった鳥はなおも切なげに鳴く。
「だけどよー、弱肉強食って言葉があるじゃないか」
「それに、私、この子欲しいわ☆」
 せなと累はメムの言葉に渋っていた。折角捕まえたのだ。仕方ないのかもしれない。
「だめだにゅーーーーーっ!」
「駄目駄目です~!」
 そこへ現れたのはしばし行方不明になっていたプリムヴェールとリアだった。プリムヴェールは巨大な豹……いや正確にはこれでも白猫なのだ。
「も、もしやプリム様の乗っているのは……豹?」
 そう呟くメムの言葉に白猫は。
「にゃーん」
 愛らしい声で答えた。
 それはさておき。
「プリムにリアじゃないか? どこへ行っていたんだよ。ま、とにかく見てくれ。あの鳥を捕まえた……」
「とりさんをはなしてあげるにゅー! とっても、いたいいたいってないているにゅー!」
 勝ち誇ったせなの言葉をプリムヴェールは止めた。
「鳥さんには~理由があったんです~。怪我した上に~子供さんがいたんです~。そのために~近くにあった山賊さんの畑から~野菜を持って行っちゃったんです~」
 涙ながらにリアも訴える。
 どうやら鳥には鳥の事情があったらしい。
「うーん、仕方ねぇか。よし、外してやろう。その代わり、たーんと美味いもん食わせろよな」
 せなは頷き、口にはまっていた枝を外してやった。鳥はぱくんと口を閉じ、するりと穴を抜けた。
「よかったにゃ☆ とりさん、へいきにょ?」
 なでなでしながら、鳥さんに近づくプリムヴェール。
「お、おい! 大丈夫なのか!?」
「大丈夫です~。あの鳥さんとプリム様は~とっても仲良しさんになりましたから~」
 にこにことリアはプリムヴェールの様子を見守っていた。
 リアの言う通り、プリムヴェールと鳥は仲良くすり寄っている。鳥が攻撃するようなこともないようだ。その様子にやっとせなはほっとため息を零したのであった。




 一方、その頃。
「先日の一件、オルフィス殿のなした所業、誠に見事であった」
 孤我蒼雲が瞳を輝かせながら、オルフィスの後を付いてくる。
「先日の一件? なんかしたかしら?」
 はてと首を傾げるオルフィスになおも感激した様子で蒼雲は続ける。
「先日、襲ってきた熊を殺さず、鞘の付いた剣で追い払ったではないか! いや、そのような素晴らしいことを誇らずにいるのも、また流派の教えなのかもしれぬ……なんと奥深い……」
「……だから、なんなの?」
 オルフィスはその蒼雲の態度に驚きつつ、尋ねた。
「人を斬るものではなく、このように何かに活かすものこそ我が求めていた剣の道! 何という素晴らしい流派なのだ、グランジェスタ流は……」
「あの……ね?」
「俺はそのようなことなど、つゆ知らず、オルフィス殿には数々の無礼をしてしまった。これからはこの剣、オルフィス殿と共に精進しよう。……手始めにオルフィス殿の手合わせするダズという武人。その者との一対一の神聖な決闘をお守り通す次第! 心おきなく戦っていただきたい!」
「……何となく、分かったわ。まあ、ダズとの戦いを邪魔しないようにしてくれるのなら嬉しいわ。本当は横やりなんかあったら、どうしようかと思っていたところだったの。助かるわ」
 その言葉に蒼雲は感動しまくっていた。
「そのようなお言葉をかけて下さるなんて、勿体ない……」
 ほろりと涙を浮かべてさえ、いる。
「ちょ、ちょっと、泣くことないでしょ? もう……」
 そういう蒼雲の様子を苦笑しながらもオルフィスは嬉しく感じていたのだった。
「あら、噂をすればなんとやら。どうやらダズが来たようね」
 遠くからダズがアジトへ歩いてくるのが見えた。
「行くわよ、蒼雲」
「承知した!」
 二人はこうしてアジトの外へ出たのであった。




 オルフィスが来たときにはもう、山賊達が倒れていた。山賊達は赤い液体や不思議な粉にまみれ、泣いている者もいれば、せき込んでいる者もいる。なんと恐ろしき兵器なのかとオルフィスは少し驚いているようだった。
「全くもう、役に立たないんだから……」
 小さく呟くオルフィス。
「まあ、オルフィス殿のように手練れな武人ではないからな……」
 オルフィスの隣で眉を潜めるのは蒼雲。
「なんじゃい、もう終わったのか?」
  倒れている山賊達を見て、ダズはそう告げる。
「いえ、まだよ。ダズ」
 待っていましたとばかりにオルフィスが前に出る。
「ほう、一人では無理だと思ったのか?」
 どうやらダズはオルフィスの隣にいる蒼雲の姿を見て、そう思ったらしい。
「馬鹿を言わないで。蒼雲はアンタとの戦いに邪魔が入らないよう見届けてもらう為に呼んだだけよ。勘違いしないで欲しいわね」
 さっそくばちばちと火花を散らすオルフィスとダズ。
「ワシは素手で戦う。お主はどうするのじゃ?」
「そうね……アンタが素手ならワタシも素手で戦うわ。蒼雲、剣をお願いするわ」
 そういってオルフィスは背中の剣を蒼雲に投げ渡した。
「承知した」
 しっかりとそれを受け取る蒼雲。その剣は思ったよりも重く、大きかった。
「あら、いけない。アンタは軽装なのに、ワタシが鎧着ているなんて、フェアじゃないわね。これも脱ぐわ」
 がちゃがちゃと付けていた鎧をオルフィスは躊躇いもせずに地面に落としてゆく。
「これで、やっと互角の戦いが出来るわね?」
「上等。手加減はせぬぞ」
「そんなもの、いらないわっ!」
 二人の拳が交差する!
 飛ばされたのは……オルフィス!
「ぐあっ!」
「オルフィス殿っ!?」
 思わず蒼雲も叫ぶ。
 オルフィスはダズの一撃をもろに喰らい、強く地面に叩きつけられた。
「まだまだじゃのう?」
「ま、まだよ……まだ……終わっていない」
 そういって立ち上がるオルフィス。その唇の端からつうっと赤い血が伝った。




 オルフィスとダズが決闘している頃。鳥さん捕縛隊はというと……。
「にょ? これ何にょ?」
 鳥の翼に何かが付いていた。取ってみるとそれは先ほどのクナイ。
「ごっめーん、それ私の」
 代わりに薬を塗ってやる累。
「あら、ここにも傷があるわ。こっちも塗ってあげるわね」
 すると。
「クエエエエエ!」
 鳥は叫びと共に。
 ことん。
 口から何かを吐き出した。
「にょ? にょ?」
 それをすかさず拾うプリムヴェール。
 それだけでは終わらなかった。
「クエエエエエエエ!」
 突然鳥がプリムヴェールをひょいと背中に乗せて飛び出したのだ!


 ばりばりばりっ!
 ばさばさばさばさっ!


 森を切り裂くように鳥は山賊のアジトへと向かう!
「こらあっ! 待てっ! せっかく助けてやったのにそんなことすんなよっ!」
 せながすぐさま追いかける。
 と、視界が急に広がる。
 どうやらアジトの前の畑に出たようだ。オルフィスとダズの姿もある。オルフィスは口から血を流しながら、なんとか立ち上がろうとしていた。その真ん中でやっとプリムヴェールを背に乗せた鳥が降り立った。
「な、何ヤツっ!?」
 蒼雲が刀の柄に手を置きながら身構える。しかしその答えはなにもなかった。睨みつつもそれ以上のことが出来ずに困っていたところへせなが前に出てくる。
「もう逃げられねぇぜ!」
 ばしっと指を鳥に突き立て、せなはそう言い放った。
「……しゅくふく……」
 鳥の背を降りたプリムヴェールが呟くようにそう口にした。何だか別人のように落ち着き払った物腰で、だ。その手には先ほど鳥の口から出てきたもの……いや、青色をした短剣が握られていた。
「はあ? と、とにかく、プリム、こっちに来るんだ」
 せなはプリムヴェールを捕まえようとしたのだが……。


 ぱあああああああああああ!


 青い閃光が辺りを突き刺すように照らす。
「女神から祝福されし力のかけら、『女神の短剣』。これが、マジカルストーン」
 いつもと明らかに違う口調ではっきりとそう告げた。
「プリムーーーー!」
 遠くから力の限り声を張り上げて、プリムヴェールに近づいてくるのはヴォルール。
「力は呼び合い、一つになる」
 ヴォルールの手がプリムヴェールに触れようとする瞬間、鳥はプリムヴェールを銜え、空へと飛び出していった。
「ぷ、プリムーーー」
 ほろほろと涙を流しながら、ヴォルールは、手を宙に仰ぎつつそのプリムヴェールを見送るしかなかった。


「こりゃいかん! 今すぐ助けねばっ!」
「ちょっと待ちなさいよっ!!」
 鳥の後を追おうとするダズを止めたのはオルフィス。
「あの子はワタシ達の仲間よ。アンタは関係ないわ!」
「じゃが、ここで見捨てることなどワシには出来ん!」
「そんな大きなお世話が、気に入らないのよ……」
 ぽつりと呟くようにオルフィスは言う。
「アンタ、そんなことだと命がいくつあっても足りないわよ? それに……アンタはやるべきことがあるんじゃなくて? あの子は……プリムはワタシが責任もって救うわ。だから、アンタはアンタのしなきゃいけないことをしなさい、いいわね!?」
 オルフィスはそういいながら、投げ捨てた鎧を身に纏った。
「それじゃあ、ワタシ、急ぐから! 行くわよ皆!」
 後ろで惚けているメンバーに声をかけた。
「お、おう」
「わかったぜ」
「プリムーーーー」
「仕方ないわよね」
「頑張るです~」
「あの……占いしましょうか?」
「それは後でもいいわ。とにかく、あの方向はアラビス。まずはアラビスへ向かう馬車を探すわよ!」
 その言葉に皆は頷いたのであった。




「それで……アラビスに向かっているということなんですね」
 ここはアラビス行きの馬車の中。もう辺りは暗く、寝ている者がほとんどだった。その中でも起きているのは。
「そういうこと。でもよかったわ。ユレイアと合流出来なかったらどうしようかと思っていたのよ」
 苦笑するオルフィスと。
「それにしても……オルフィス殿。どこを探すつもりか?」
 蒼雲の三人のみ。
「そうね、町の人に聞いてみようと思うの。結構大きな鳥だし、ほら、あの子って何故か目立つでしょ? 町の人がどこかで見かけていると思うの」
「なるほど」
 オルフィスの言葉に関心する蒼雲。
「それにしても……大変なことになりましたね……」
「そうでもないわ。それに、あなたにはまだ言っていなかったけど、あの子、まじかるすとーんの一つを持っているのよ」
「えええええええっ!?」
 突然ユレイアーナの大きな声が響き渡る。
 どうやら乗客全て熟睡しているらしく、起きる気配はない。三人はほっとため息を付いてからもう一度口を開いた。
「それにね、アラビスには有名な道場や、温泉もあるのよ。早くプリムヴェールを見つけて楽しみましょう。ね?」
「本当はそこにあるんですね……」
 ユレイアーナは側に人がいなければ、ストレス発散したいと思ったのは言うまでもなく。


 こうしてオルフィス一行は一路、アラビスへと向かったのであった。




■次回予告
リア「大変大変っ~! プリム様がいなくなっちゃったんです~!」
琥玖「大丈夫だよ。きっと、アラビスで『にゃ~』なんて言いながら元気にしていると思うよ」
リア「でもでも~心配です~」
累「まあとにかく、じっくりゆっくり捜索しましょう。それに……温泉、楽しみ☆」
リア「ああ、累様~? じ、次回『迷子の子猫ちゃんはどこにいる?』ああ、とっても心配です~」
琥玖「だから、心配性だよね、リアは……」
リア「プリム様~」
累「しつこいわよ……」







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