dis 3011

秋原かざや

◆小雪と仮面の男

◆小雪と仮面の男
 

 -------もしかして、敵!?
 

 小雪は正直、困惑していた。
  仮面をつけているというだけで、かなり怪しいというのに。
 「君を迎えに来たよ」
  差し伸べた手。
 「さあ、僕と共に行こう。姫達が待つ、『楽園』へ」
  わからない。
  『姫』が誰なのか?
  『楽園』が何処なのか?
  そして、目の前にいる『仮面の男』が誰なのか?
 

「ですが、旬さんは……渡しません」
  分からない今、自分がやれることは、旬が安全な場所まで移動するまでの時間を稼ぐこと。それくらいなら、自分にできるから。
 「乱暴なお嬢さんだね……」
  そんな仮面の男の言葉を無視して、小雪は警棒を振りまわす。
  男はそれを避けながら、時折、小雪にエアバイクごと体当たりして、ダメージを与えていく。痛くて苦しいときもあるけれど、これくらいの痛みなら堪えられないこともない。そう小雪は判断して、懸命に攻撃を仕掛けていく。
  いつの間にか、口の中に鉄の味が広がっていた。
  恐らく、口を切ったのだろう。
  それでも、小雪の攻撃がとまることは無かった。
  だが、一つ問題があった。
  反重力システムの欠点は、長く空中にはいられないこと。
  だから、落ちそうになるところを、途中、壁や屋上に降り立ち、もう一度、ジャンプする必要があった。
  しかし、相手はまだ空中にいる。
  このままでは、ジャンプして体力を消耗する小雪の方が不利だった。
  ただ、小雪にも分があることもある。
 「今っ!!」
  片手でエアバイクを操作しつつ、小雪の攻撃を避けること。
  それは仮面の男にとっても、かなりの負担を強いていたようだ。
 「しまっ……」
  ロケットランチャーを持っていた手に警棒が強く当たり。
  それはまるで、スローモーションのようだった。
  彼の手から離れたランチャーは、ゆっくりと下の。
  ガシャアアアン!!
  アスファルトに穴を開けるくらいの激しい音が、響き渡る。
  ランチャーは落下の衝撃で、大破してした。中に入っていた弾が爆発しなかったところを見ると、どうやら、先ほど建物を壊した際の弾で打ち止めだったようだ。
  どちらにせよ、これは小雪にとって嬉しい情報だろう。
  相手の攻撃が無くなったのだから。
 「まずは、一つ……」
  息を切らせながら、小雪は男に向かって、警棒を振る。
 「あなたは……誰、なんですか!?」
  小雪にとって、それは大事なことだった。
  もし、相手がアイツなら、生かしてはおけない。
 「それは言えないね」
  タダでは言わない。
  すぐに教えてくれるとは、小雪も思ってはいない。
 「なら、私が勝ったら……教えなさい!!」
  男を狙えないのなら、エアバイクを狙うまで。
  小雪は警棒の的を変えた。
  瞬間。
 「あーあ、見失っちゃったな」
  男はぐんとエアバイクの高度を上げた。
 「ちょっ……!!」
 「まさか、バイクで逃げられるなんて思ってなかったからな……今度、会った時は、発信機用意しとかないと」
 「そんなこと、させませんっ!!」
  ゆっくり落下する小雪をあざ笑うかのように、男は続ける。
 「それまで、飛べるようになっておくといいかもね? お嬢さん」
 「待ってっ!! 待ちな、さいっ!!」
  警棒の持っていない手を、相手のエアバイクに手を、必死に伸ばそうとしても、それは届くことは無く。
  落下しながら、男のエアバイクを見送るだけだった。
 

 小雪はゆっくりと、誰もいない路地に、華麗に着地したとたん。
  膝に力が入らなかった。
 

 --------まだ、やることが……ある、のに……。
 

 がくりと、倒れこんでしまう。
  瞼がゆっくりと閉じていく……。
 

 --------もし、彼がアイツなら、今度は。
 

 真っ暗になった。
  まだ使命が残っているというのに、倒れてしまう自分を、小雪は責めていた。
  意識が遠く遠く、消えていく中で。
 

 --------この手で……殺す。
 

 心の中でもう一度誓い、そして、吸い込まれるように小雪は、誰もいない路地で倒れた。
 


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