dis 3011

秋原かざや


 

   -------もし、願いが叶うなら。
     私はあのヒトに会いたい。
      もう一度だけ、あのヒトに会いたい。
        大切な、あのヒトに………。
 



「いいわ、叶えてあげる」
  凛とした声が、暗がりのラボに響いた。
  くるくる回るのは、日傘。
  とんと、厚底の靴の音が聞こえた。
 「でも、すぐには無理よ」
  揺れるのは、黒いリボンで留められた、巻きくせのついたツインテール。
 「少し時間が必要だわ」
  右手の人差し指を頬につけて、首を傾けながら、彼女は口を開く。
 「それでもかまわないというのなら、叶えてあげる」
  強い意志を感じる、凛とした声。
 「この『女王の眼』の、私が……ねっ♪」
  そして、また周囲を見渡して言う。
 「ところで、ここの暗さはどうにかならないのかしら? ホント、辛気臭くてたまんないわ」
  ぶるっと震えて、そして、彼女は部屋を後にした。
 

 部屋の奥で小さな、声にならない声が言葉を紡ぐ。
 

   -------ありがとう。



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