dis 3011

秋原かざや

◆ヒールの靴音

◆ヒールの靴音


「ねえ、あの子……ウチの学園の子じゃないみたい」
「転入生かな?」
 制服を着る学生達がざわめき始める。


 そんな声なんて気にせず、手元を見る。
「どうして、あの人が知っているのかは知らないけれど……」
 あの人から渡されたメモには、このアカデミー東京校の場所が記されていた。
 ご丁寧にアカデミーの入り方もレクチャーしてくれている。
 だからこそ、こんなにもすんなりと、校内を歩いていられる。


 ここは、アカデミーの校内。
 昼下がりの廊下を黒いワンピースの少女は、ずんずんと歩いていく。
 長い黒髪が歩くたびに、ゆらゆらと揺れる。
 大きな淡い桃色の瞳。それが何かを逃さぬよう、鋭い視線で先を見据えていた。
「私の目的は、果たさないと……」


 彼女もまだ、知らない。
 これから過酷な運命が、彼女を支配することを。


 彼女は進む。
 ヒールの音を鳴らして。
 その手のメモには、旬という名が丸で囲まれていた。





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