アール・ブレイド ~メルビアンの老騎士と姫君~
エピローグ ◆辺境のバーの片隅で
からんと氷が解け、崩れた音が響いた。
ここは辺境のとあるバー。
眼鏡を掛けた青年と、いかつい体つきの青年が飲み明かしていた。
「その男、いいやつじゃないですか。先生」
「ちっとも良くないですよ、ザムダ」
そういって先生は、酒の入ったグラスを手に取る。
「憎しみの連鎖は、そう断ち切れるものではありません。それに」
ごくりと酒を飲み干し、先生はグラスをテーブルに置いた。
「人を殺すことは良いことではありませんよ。たとえ悪人でも、です」
だがザムダはそのことに不服そうな表情を浮かべる。
「けどさ、それだけぶっ殺したら、逆に誰が殺したかわかんねえんじゃないのか? まあ、あの事件があの『アール』が絡んでるって聞けば、まあ納得できるしな。アイツは色んな意味で規格外みてえなもんだしな」
「そうですね、私もそう思います。まあ……昔の話ですよ」
先生は思わず、胸のロケットに手を伸ばした。蓋をあけて中を見る。
そこには、先生と若い金髪の女性、それに愛らしい赤ちゃんの写真が収まっていた。
ぱちんと閉めて、先生は顔を上げる。
「はあ……でも、ザムダに話したら、少し楽になったような気がします」
「だろうな、すっげー長い話につき合わされた俺の気持ちも分かって欲しいけどな」
「すみません、ちょっと飲みすぎました」
くすくすと笑いあう二人の耳に、ある声が届く。
『臨時ニュースをお伝えします』
傍にあったテレビから、突然ニュースが映し出されたのだ。
『ミラノセイア地区にて、新たな指導者が誕生しました』
興奮するアナウンサーの声と共に現れたのは。
「えっ!?」
「おいおい、まさか」
先生とザムダが声を失う。
赤毛の青年が、片腕を力強く掲げて声援に応えている。その横には『ジョイ・イノセンテ』というテロップが流れていた。
『正直、どこまで出来るかわかりません。だけど、やれるところまでやりたい。俺に道を教えてくれた人や、俺に希望を託してくれた人達の為に』
そういう彼の笑顔が、先生の瞳に眩しく映った。
「ザムダ」
「ん、何だ、先生」
「もうちょっと付き合ってもらえませんか? 先日、出稼ぎしたんで、懐は暖かいですし」
先生の顔に、先程までの暗い表情はなかった。先生はにこりと笑って、酒を誘う。
「おっ、もう少しやるか!! 俺ももうちょっとだけ、飲みてえと思ったんだ……あっと、その前に」
ザムダは急に立ち上がったかと思うと、床に両手をつけて、土下座し始める。ぺこぺこと何度も頭を下げて。
「先生、この通りだっ!! 俺の家内のオルゴール、直してくれねぇかっ!!」
「はあ? オルゴール?」
突然の申し出に、先生も驚きを通り越して、呆れている。
「家内の大事なもんらしいんだ。それを知らずにこう、ばきんとやっちまってさ、動かなくなってしまってだな、その……ちょっと、な……」
その困り果てた姿のザムダに、先生は答えた。
「いいですよ」
「マジかっ!!」
「漢に二言はありません」
「ありがたいっ!! 感謝するぜ、先生!! じゃあ、今日は祝いだ祝い酒だ!!」
とたんに機嫌を良くするザムダに、先生は優しく瞳を細めた。
「後でうちのガレージに持ってきてくださいね。ちゃんと直してあげますから」
「ああ、ああ、頼むぜ先生!! ついでに酒も!!」
「調子良すぎます」
ぺちりと軽くザムダの頭を叩くと、先生は楽しげに口元を緩める。
「けれど……こういうのも、悪くはありませんね」
と、二人の前に新たな酒が置かれた。二人はそれを受け取り、笑い合い、そして、グラスがぶつかる音を響かせる。
「今日という日に」
「「乾杯っ!!」」
ここは辺境のとあるバー。
眼鏡を掛けた青年と、いかつい体つきの青年が飲み明かしていた。
「その男、いいやつじゃないですか。先生」
「ちっとも良くないですよ、ザムダ」
そういって先生は、酒の入ったグラスを手に取る。
「憎しみの連鎖は、そう断ち切れるものではありません。それに」
ごくりと酒を飲み干し、先生はグラスをテーブルに置いた。
「人を殺すことは良いことではありませんよ。たとえ悪人でも、です」
だがザムダはそのことに不服そうな表情を浮かべる。
「けどさ、それだけぶっ殺したら、逆に誰が殺したかわかんねえんじゃないのか? まあ、あの事件があの『アール』が絡んでるって聞けば、まあ納得できるしな。アイツは色んな意味で規格外みてえなもんだしな」
「そうですね、私もそう思います。まあ……昔の話ですよ」
先生は思わず、胸のロケットに手を伸ばした。蓋をあけて中を見る。
そこには、先生と若い金髪の女性、それに愛らしい赤ちゃんの写真が収まっていた。
ぱちんと閉めて、先生は顔を上げる。
「はあ……でも、ザムダに話したら、少し楽になったような気がします」
「だろうな、すっげー長い話につき合わされた俺の気持ちも分かって欲しいけどな」
「すみません、ちょっと飲みすぎました」
くすくすと笑いあう二人の耳に、ある声が届く。
『臨時ニュースをお伝えします』
傍にあったテレビから、突然ニュースが映し出されたのだ。
『ミラノセイア地区にて、新たな指導者が誕生しました』
興奮するアナウンサーの声と共に現れたのは。
「えっ!?」
「おいおい、まさか」
先生とザムダが声を失う。
赤毛の青年が、片腕を力強く掲げて声援に応えている。その横には『ジョイ・イノセンテ』というテロップが流れていた。
『正直、どこまで出来るかわかりません。だけど、やれるところまでやりたい。俺に道を教えてくれた人や、俺に希望を託してくれた人達の為に』
そういう彼の笑顔が、先生の瞳に眩しく映った。
「ザムダ」
「ん、何だ、先生」
「もうちょっと付き合ってもらえませんか? 先日、出稼ぎしたんで、懐は暖かいですし」
先生の顔に、先程までの暗い表情はなかった。先生はにこりと笑って、酒を誘う。
「おっ、もう少しやるか!! 俺ももうちょっとだけ、飲みてえと思ったんだ……あっと、その前に」
ザムダは急に立ち上がったかと思うと、床に両手をつけて、土下座し始める。ぺこぺこと何度も頭を下げて。
「先生、この通りだっ!! 俺の家内のオルゴール、直してくれねぇかっ!!」
「はあ? オルゴール?」
突然の申し出に、先生も驚きを通り越して、呆れている。
「家内の大事なもんらしいんだ。それを知らずにこう、ばきんとやっちまってさ、動かなくなってしまってだな、その……ちょっと、な……」
その困り果てた姿のザムダに、先生は答えた。
「いいですよ」
「マジかっ!!」
「漢に二言はありません」
「ありがたいっ!! 感謝するぜ、先生!! じゃあ、今日は祝いだ祝い酒だ!!」
とたんに機嫌を良くするザムダに、先生は優しく瞳を細めた。
「後でうちのガレージに持ってきてくださいね。ちゃんと直してあげますから」
「ああ、ああ、頼むぜ先生!! ついでに酒も!!」
「調子良すぎます」
ぺちりと軽くザムダの頭を叩くと、先生は楽しげに口元を緩める。
「けれど……こういうのも、悪くはありませんね」
と、二人の前に新たな酒が置かれた。二人はそれを受け取り、笑い合い、そして、グラスがぶつかる音を響かせる。
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