アール・ブレイド ~メルビアンの老騎士と姫君~
第14話 ◆二人が目指す道と未来
アレグレが示した作戦は、非常にシンプルなものだった。
先行して仲間が潜んでいる帝国の基地がある。そこを攻め込むというのだ。
「大丈夫なんですか?」
思わずアールが眉を顰める。
「ああ、心配ない。俺の一番信頼できる仲間が行ってるからな」
「それならいいんですが……」
と、そこにリンレイが声をかけた。
「私は何をすればいい?」
その言葉に驚いたのは、アレグレやアールだけでなかった。
「リンレイは姫だろ!? 姫ってのは、後方で待ってればいいんだよ!」
ジョイが代わりに、全て答えてくれた。
「なんだ、つまらんな」
「つまらんで結構。リンレイ姫に万が一のことがあれば、それこそ大事だ」
アレグレは、そういって、詳細な作戦を仲間達に説明していく。
その間にリンレイは、つまらなさそうにその部屋を出て行った。
「ふん、大事な戦いに向かわないヤツなんか、臆病者のやることだ」
そういって、リンレイは思い立った場所に目星をつけると、必要な物を掴んで、そこに隠れることにしたのだった。
数時間後、アレグレとアール達は、強襲先である帝国の基地の傍まで来ていた。
砂煙の中、物々しい警備を続ける帝国軍の基地。
ここでの基地の役目は、軍事開発するわけではなく、補給を目的とした場所であった。そこを抑えたとしても、戦力を奪う効果は低いが、補給を断つ意味合いであれば、攻めるのに有効な場所であろう。
そして、テネシティらがいる目の前で、また、新たな機材が運び込まれてきていた。
基地の様子を窺いながら、後は、仲間の合図が来るのを待つばかり。
その静かな時間に、先に口を開いたのは、アレグレ。
「なあ、アール。なぜ俺が戦っているか、わかるか?」
テネシティの皆にも聞こえる回線で語りかけてくる、他のメンバーはそのことを知っているのだろう。アールはやや思案してから。
「いいえ。よければ聞かせてくれませんか」
そうアールは促した。恐らく聞かせたいことなのだろうと、感じながら。
「俺はお前のように強くはない。でも、俺は幸いにも皆を纏めることができた」
アレグレは近くに見える基地を見ているはずなのに、その視線はどこか遠い場所に向けられていた。
「俺は長閑なエレンティアが好きだった。エレンティア王達が理想としている小さいけれど優しく、どこか懐かしい街造りが好きだった」
その口元には、微笑が。
「けれど、帝国がそれを踏み躙った。俺達の希望を壊してしまった。だから、かつてのエレンティアに戻ればと思って、俺はここまで来たんだ。そしたら……」
「リンレイ、ですか」
アールの言葉に、アレグレは歓喜する。
「ああそうだ! エレンティアはこれで、名実共に復活することができるんだ! 失くしかけてた希望が、目の前に現れたんだ!」
アールはどこか冷めた瞳でアレグレを見つめている。どこか何かを探るかのように。
「だから、ここを手に入れなくてはいけないんだ。帝国を追い詰めるためにも」
「でも……」
アールが何かを言いかけたとき、基地から光が見えた。
恐らく、鏡の反射光。それが一回でなく数回、こちらを意識して、いやこちらに向けて光が送られていた。
「合図だ、いくぞっ!!」
「「おうっ!!」」
テネシティの面々が勢い良く声を上げている横で、アールは一人、呟いた。
「あの子は……あの子は本当に、それを望んでいるのでしょうか……?」
迷いながらもアールは、操縦桿を動かした。
「A班は、右の倉庫へ! C班は敵を残らず殲滅させろ! B班は俺と一緒に中心部へ向かう!」
「OK」「了解」
基地の門を突破したテネシティは、その勢いのまま、内部に潜入していった。
つぎつぎと要所を制圧していく。
アールはといえば、簡単な露払いをするだけ。
味方が撃ちもらした敵を、ピンポイントに狙えばよかった。
―――上手く行き過ぎる。
アールはそれが気に入らなかった。
補給基地だというのに、武装兵士が少ないのも理由の一つ。
そして、詳細な地図にタイミングのいい合図。
もうすぐ作戦が成功に終わるというのに、どうしても不安ばかりが募っていく。
そんなアールを心配してか、少女の姿をした『ルヴィ』が心配そうな顔を見せていた。
「大丈夫ですよ。そんなことがあっても、僕が何とかしますから」
今は作戦に集中することが先だ。そう気持ちを切り替えて、アールはアレグレと共に敵を殲滅しつつ、更に奥へと進んでいく。
「アール、ここからはギアから降りるぞ!」
「了解」
ここからはアレグレの言う通り、ギアから降りなければ奥へは行けない。
アールは『ルヴィ』から降りて、アレグレと合流。アールはホルスターから銃を引き抜き、周りを警戒する。
一方その頃。
リンレイは、こっそりとテネシティの作戦車両に潜り込んでいた。
「そろそろいいか?」
怖くないといえば、嘘になる。
マシンガンと弾丸をしっかりと持って、リンレイは立ち上がる。
少し震えていた、手と足。
『姫様、敵は思いがけぬところから出てくるものでございます。戦うときが来たら、それを絶対に忘れてはなりませんぞ』
そんなかつて教えられた言葉を思い出し、何度も呪文のように反復していた。
車両の荷物から外の様子を窺う。
どうやら、ここら辺はテネシティが制圧済みのようだ。敵の姿ではなく、味方の姿の方が多かった。だが、彼らは後処理に忙しく、リンレイに気づく余裕がなかった。
リンレイは頃合といわんばかりに、颯爽と飛び出すと、そのまま奥へと向かった。
誰からも教えられていない。それはある意味、リンレイの勘が働いたというべきだろうか。リンレイの向かった場所は、アレグレ達が向かった、その場所だった。
アール達の進攻は順調そのものだった。途中、敵の基地に潜入し合図を送っていた者達とも合流し、更に中枢、司令室兼通信室へと向かっていた。
そこさえ抑えれば、こちらは更に有利に制圧できる。
作戦の終わりが近づいてくる頃、彼らにそれは訪れる。
油断という名の気の緩みが。
「油断したな、侵入者達めっ!!」
影から飛び出してきた敵兵士達。
「しまっ……」
とっさにアールが銃を構える前に。
弾幕が張られる。狙いが定まっていないが、相手を怯ませるには、十分だった。
マシンガンから打ち出された銃弾は、敵をかすめはしたが、敵を撃つには至らなかった。後でそれがよかったとアールは感じる。
なぜなら、それを撃ったのが。
「大丈夫か、みんなっ!!」
気勢を張って、けれど、その手と足は震えていた。
リンレイだ。マシンガンを両手で構えて、必死に戦うリンレイの姿が、アレグレ達の瞳に嫌というほど焼きついた。
「今だっ!! 撃てっ!!」
誰が言ったのか、わからない。
けれど、撃たなければアレグレ達がやられていた。
「リンレイっ!!」
撃ちながら、アールはリンレイの傍に行き、抱きしめる。
守る側面もあったが、それよりもその光景を見せたくなかった。
人が死んでいくその光景を。
「大丈夫だったか?」
「ええ、助かりました」
なるべく倒れた兵士を見せないように、アールはリンレイを誘導する。
その後ろで、声が聞こえた。
「リンレイ姫が、我々を救ってくれた!!」
「リンレイ姫が、我々と共に戦ってくれた!!」
「俺達は、今、何をすべきか?」
「リンレイ姫と共に」
「我らの勝利をリンレイ姫に!!」
その声をアールは、眉を顰めながら聞いていた。
「私達の軍は、勝ってるのか?」
「ええ、もうすぐ……それは確実なものになりますよ」
震えるリンレイの手をアールは握る。
「ここからは私も共に行きましょう」
そのアールの言葉が、リンレイにとって、とても心強いものだった。
にこりとやっと笑みを浮かべて。
「ああ」
と、思い出したようにリンレイは尋ねた。
「私は……役に立てたの……かな?」
その言葉に苦笑を浮かべながら、アールは答える。
「やり方は良くなかったと思いますが」
そう前置きして。
「助かりましたよ」
肯定とも否定とも取れない言葉をアールは選んだ。
彼女を戦いの道に行かせたくなかったから。
でも、ここまで一人で来てしまったのなら、遅かれ早かれ、きっとテネシティと共に戦いに行くのだろう。それがアールの胸に深い影を落としていた。
そして、無事、司令室を確保したテネシティは、帝国補給基地襲撃作戦を成功に収めたのであった。
先行して仲間が潜んでいる帝国の基地がある。そこを攻め込むというのだ。
「大丈夫なんですか?」
思わずアールが眉を顰める。
「ああ、心配ない。俺の一番信頼できる仲間が行ってるからな」
「それならいいんですが……」
と、そこにリンレイが声をかけた。
「私は何をすればいい?」
その言葉に驚いたのは、アレグレやアールだけでなかった。
「リンレイは姫だろ!? 姫ってのは、後方で待ってればいいんだよ!」
ジョイが代わりに、全て答えてくれた。
「なんだ、つまらんな」
「つまらんで結構。リンレイ姫に万が一のことがあれば、それこそ大事だ」
アレグレは、そういって、詳細な作戦を仲間達に説明していく。
その間にリンレイは、つまらなさそうにその部屋を出て行った。
「ふん、大事な戦いに向かわないヤツなんか、臆病者のやることだ」
そういって、リンレイは思い立った場所に目星をつけると、必要な物を掴んで、そこに隠れることにしたのだった。
数時間後、アレグレとアール達は、強襲先である帝国の基地の傍まで来ていた。
砂煙の中、物々しい警備を続ける帝国軍の基地。
ここでの基地の役目は、軍事開発するわけではなく、補給を目的とした場所であった。そこを抑えたとしても、戦力を奪う効果は低いが、補給を断つ意味合いであれば、攻めるのに有効な場所であろう。
そして、テネシティらがいる目の前で、また、新たな機材が運び込まれてきていた。
基地の様子を窺いながら、後は、仲間の合図が来るのを待つばかり。
その静かな時間に、先に口を開いたのは、アレグレ。
「なあ、アール。なぜ俺が戦っているか、わかるか?」
テネシティの皆にも聞こえる回線で語りかけてくる、他のメンバーはそのことを知っているのだろう。アールはやや思案してから。
「いいえ。よければ聞かせてくれませんか」
そうアールは促した。恐らく聞かせたいことなのだろうと、感じながら。
「俺はお前のように強くはない。でも、俺は幸いにも皆を纏めることができた」
アレグレは近くに見える基地を見ているはずなのに、その視線はどこか遠い場所に向けられていた。
「俺は長閑なエレンティアが好きだった。エレンティア王達が理想としている小さいけれど優しく、どこか懐かしい街造りが好きだった」
その口元には、微笑が。
「けれど、帝国がそれを踏み躙った。俺達の希望を壊してしまった。だから、かつてのエレンティアに戻ればと思って、俺はここまで来たんだ。そしたら……」
「リンレイ、ですか」
アールの言葉に、アレグレは歓喜する。
「ああそうだ! エレンティアはこれで、名実共に復活することができるんだ! 失くしかけてた希望が、目の前に現れたんだ!」
アールはどこか冷めた瞳でアレグレを見つめている。どこか何かを探るかのように。
「だから、ここを手に入れなくてはいけないんだ。帝国を追い詰めるためにも」
「でも……」
アールが何かを言いかけたとき、基地から光が見えた。
恐らく、鏡の反射光。それが一回でなく数回、こちらを意識して、いやこちらに向けて光が送られていた。
「合図だ、いくぞっ!!」
「「おうっ!!」」
テネシティの面々が勢い良く声を上げている横で、アールは一人、呟いた。
「あの子は……あの子は本当に、それを望んでいるのでしょうか……?」
迷いながらもアールは、操縦桿を動かした。
「A班は、右の倉庫へ! C班は敵を残らず殲滅させろ! B班は俺と一緒に中心部へ向かう!」
「OK」「了解」
基地の門を突破したテネシティは、その勢いのまま、内部に潜入していった。
つぎつぎと要所を制圧していく。
アールはといえば、簡単な露払いをするだけ。
味方が撃ちもらした敵を、ピンポイントに狙えばよかった。
―――上手く行き過ぎる。
アールはそれが気に入らなかった。
補給基地だというのに、武装兵士が少ないのも理由の一つ。
そして、詳細な地図にタイミングのいい合図。
もうすぐ作戦が成功に終わるというのに、どうしても不安ばかりが募っていく。
そんなアールを心配してか、少女の姿をした『ルヴィ』が心配そうな顔を見せていた。
「大丈夫ですよ。そんなことがあっても、僕が何とかしますから」
今は作戦に集中することが先だ。そう気持ちを切り替えて、アールはアレグレと共に敵を殲滅しつつ、更に奥へと進んでいく。
「アール、ここからはギアから降りるぞ!」
「了解」
ここからはアレグレの言う通り、ギアから降りなければ奥へは行けない。
アールは『ルヴィ』から降りて、アレグレと合流。アールはホルスターから銃を引き抜き、周りを警戒する。
一方その頃。
リンレイは、こっそりとテネシティの作戦車両に潜り込んでいた。
「そろそろいいか?」
怖くないといえば、嘘になる。
マシンガンと弾丸をしっかりと持って、リンレイは立ち上がる。
少し震えていた、手と足。
『姫様、敵は思いがけぬところから出てくるものでございます。戦うときが来たら、それを絶対に忘れてはなりませんぞ』
そんなかつて教えられた言葉を思い出し、何度も呪文のように反復していた。
車両の荷物から外の様子を窺う。
どうやら、ここら辺はテネシティが制圧済みのようだ。敵の姿ではなく、味方の姿の方が多かった。だが、彼らは後処理に忙しく、リンレイに気づく余裕がなかった。
リンレイは頃合といわんばかりに、颯爽と飛び出すと、そのまま奥へと向かった。
誰からも教えられていない。それはある意味、リンレイの勘が働いたというべきだろうか。リンレイの向かった場所は、アレグレ達が向かった、その場所だった。
アール達の進攻は順調そのものだった。途中、敵の基地に潜入し合図を送っていた者達とも合流し、更に中枢、司令室兼通信室へと向かっていた。
そこさえ抑えれば、こちらは更に有利に制圧できる。
作戦の終わりが近づいてくる頃、彼らにそれは訪れる。
油断という名の気の緩みが。
「油断したな、侵入者達めっ!!」
影から飛び出してきた敵兵士達。
「しまっ……」
とっさにアールが銃を構える前に。
弾幕が張られる。狙いが定まっていないが、相手を怯ませるには、十分だった。
マシンガンから打ち出された銃弾は、敵をかすめはしたが、敵を撃つには至らなかった。後でそれがよかったとアールは感じる。
なぜなら、それを撃ったのが。
「大丈夫か、みんなっ!!」
気勢を張って、けれど、その手と足は震えていた。
リンレイだ。マシンガンを両手で構えて、必死に戦うリンレイの姿が、アレグレ達の瞳に嫌というほど焼きついた。
「今だっ!! 撃てっ!!」
誰が言ったのか、わからない。
けれど、撃たなければアレグレ達がやられていた。
「リンレイっ!!」
撃ちながら、アールはリンレイの傍に行き、抱きしめる。
守る側面もあったが、それよりもその光景を見せたくなかった。
人が死んでいくその光景を。
「大丈夫だったか?」
「ええ、助かりました」
なるべく倒れた兵士を見せないように、アールはリンレイを誘導する。
その後ろで、声が聞こえた。
「リンレイ姫が、我々を救ってくれた!!」
「リンレイ姫が、我々と共に戦ってくれた!!」
「俺達は、今、何をすべきか?」
「リンレイ姫と共に」
「我らの勝利をリンレイ姫に!!」
その声をアールは、眉を顰めながら聞いていた。
「私達の軍は、勝ってるのか?」
「ええ、もうすぐ……それは確実なものになりますよ」
震えるリンレイの手をアールは握る。
「ここからは私も共に行きましょう」
そのアールの言葉が、リンレイにとって、とても心強いものだった。
にこりとやっと笑みを浮かべて。
「ああ」
と、思い出したようにリンレイは尋ねた。
「私は……役に立てたの……かな?」
その言葉に苦笑を浮かべながら、アールは答える。
「やり方は良くなかったと思いますが」
そう前置きして。
「助かりましたよ」
肯定とも否定とも取れない言葉をアールは選んだ。
彼女を戦いの道に行かせたくなかったから。
でも、ここまで一人で来てしまったのなら、遅かれ早かれ、きっとテネシティと共に戦いに行くのだろう。それがアールの胸に深い影を落としていた。
そして、無事、司令室を確保したテネシティは、帝国補給基地襲撃作戦を成功に収めたのであった。
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