廃屋に潜む、闇の中

秋原かざや

巡り逢えた彼女と共に

 大切な彼女を助けるために、僕は走った。
 走ると同時に、彼女の位置を探る。
 まださほど時間がかかっていないから、廃屋の奥へは行ってない……はず。


 いたっ!!


 力で僕はサナを見つけた。
 って、何でもう3階まで来てるのっ!?
 しかも3階って確か、『奈落』の悪霊がいたはず。
 永遠とも言える暗闇の穴に、ずっと落とし込んで、弱っている所を取り込む、かなり厄介な相手だ。
 そんな悪霊相手に、彼女はまんまと罠にハマって……。
「だ、誰か、助けてぇえええええ!!」
 彼女の助けを求める声が、僕の胸を苦しくさせる。
 このまま転移しても、『奈落』の中には入れない。
 ならばと、僕は『次元を切り裂いた』。
 落ちてゆく彼女を見つけて、僕はゆっくりと抱き止める。


 ……なんて軽いんだ。


 いや、今はそれを考えてる所じゃなかった。
 奈落が手を伸ばす前に、僕らはその場から失礼することにする。
 入ってきたときと同じく、『次元を越えて』。


 とんという音と共に、『安全な』3階に降り立つ。
「大丈夫?」
 そう声をかけると、彼女は恐る恐る、僕の顔を見上げて。
「ふ、ふええ?」
 ヤバイ、萌え殺されそうだ。
 鼻血が出そうのなるのを、笑顔でカバーする。
「怪我はない?」
 そういうと、サナは可愛く首を横に振り、怪我ないことを教えてくれた。
 ああ、このまま掻っ攫って、彼女の喜ぶ場所に飛んで行きたい。
 そう思っていたら、サナが下ろしてくれと懇願されてしまった。
「あ、ごめん。つい」
 言った後でしまったと思ったけど、丁寧に彼女を立たせてあげると、それで満足げな笑みを浮かべていた。
 ヤバイ、僕、このまま(以下略)。
 いやいや、今はそう言っている時じゃない。
「どうして、君はここにいるの?」
 煩悩を頭の片隅に追いやって、なんとか言葉にすることができた。
「え、えっと、友達と肝試しに来てて」
「関心しないな。こういう場所に興味本位で来るなんて、それこそ呪ってくださいって言ってるようなもんだよ?」
 聞けば、多数決で負けてしまったそうだ。
 なんてことだ。けれど、その多数決がなければ、僕と彼女が出会えなかったんだ。一応、彼女と共に来た友人とやらにグッジョブと言わせて貰おう。
 ところで……。
「他の皆は?」
「その、途中ではぐれちゃって……」
 なんてお決まりな展開なんだ。
 でも、そのお陰で(以下略)。
 とにかく、彼女の願いを叶えるとしよう。
「じゃあ、一緒に探してあげる」
 とびきりの笑顔でそういうと。
「ほ、ホントっ!?」


 …………あの、マジ、お持ち帰りしたいんですけど、いいですか?
 ダメだって、分かってます、はい。


 営業スマイルで即座に返答。
「うん、君と一緒に居たいし」
 と言ったら、彼女の心の声が聞こえた。
 誤解してください、俺はそれで構わないから。
 だんだん、素が出そうになるのを、何とか堪えつつ、彼女の話に耳を傾ける。
「た、助かります、はい……あ、名前! その前に、あなたは幽霊じゃないですよねっ!?」
 彼女の確認するような言葉に思わず、笑みが零れた。
「幽霊じゃないよ。僕は浅樹ラナ。列記とした青陵大学の学生です」
「青陵……大学?」
 あ、驚いてる。まあ、あの大学、並みの偏差値じゃ入れない所だからね。ただ、学びたい学科がソコだっただけなんだけど。
「君は?」
 君のことが知りたい。どんな些細なことでも、何でも。
「あ、私は柊サナって言います。葉月短大のデザイン学科に所属してます」
「葉月短大? 僕の大学の近くだったよね?」
 心の中でガッツポーズをした。
 近所のマップは、すぐにでも頭に浮かべられる。
 しかも、デザイン学校に入ってるなんて、サナらしい。
「じゃあ、遊びに行こうとしたら、すぐにでも行けるってことか」
 思わず、心に思っていたことを口にしてしまった。
 まあ、掻っ攫って云々なんてことは、彼女には言えるはずもないけどね。
「あ、あの……」
 そうこうしてたら、僕の服の裾をちょっと引っ張りながら、おずおずと彼女が申し出る。
「あ、タメ口で構わないよ。で、どうぞ?」
 先に言っておかなきゃダメだよね、こういうのは。
「い、一緒にトイレ、行きませんかっ!!」
 やべ、マジ可愛くって仕方ないんだけどっ!!
 ああ、もう、すっげー楽しくてたまんない。
 ずっとこうして居たい。
 そう思いながらも、僕の頭の中に廃屋のマップを展開する。
「いいよ。確かこの先にあったはずだから」
「あ、ありがとうございますっ!!」
「だから、タメ口でいいよ?」
 彼女はまだ、丁寧な口調を崩さない。
 僕としては、他人行儀であまり好きじゃないんだけど……まあ、こればっかりは仕方ないか。
「あ、ありがと……」
 ぽっと頬を火照らせ、そういう彼女に……俺はまたぐっと堪えつつ、手を差し出した。
 彼女の願う場所へとエスコートする為に。

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