廃屋に潜む、闇の中

秋原かざや

ことの真相と終わりの始まり

 奥へ向かうと、そこは広い場所だった。
 しかも地下湖も、あったり。
「トールっ!!」
 ハルカが声をかける。トールは、必死な形相で土を掘っていた。
 無心に手で。
「トールっ!!」
 もう一度、声をかけると。
「来るなっ!! どうして、来たんだっ!! お前ら……」
 トールは泥で汚れた手で指差して、こう言った。


『全員、全て殺したのにっ!!』


 それはトールの声じゃなかった。
 別人の男性の声。
「と、トール?」
 ハルカが戸惑うのも無理もない。だって、好きな人が別人の声で話しかけてきたかと思ったら、あの台詞なんだもの。


『何で、何で来たんだっ!! 全員殺したのに、まだ足りなかったのか? なら、殺してやる。もう一度、全員、殺してやるっ!!』


 いつの間にかトールの手には、割れた瓶があって。それを私達に向けてっ!!


 かしゃんと、瓶が割れた。
「殺させはしない。僕がいるかぎりは、ね」
 ラナ君が気づいたら、トールの横に居て、その瓶の持つ手首を強く打ちつけたのだ。そのお陰で、瓶が落ちて割れた。
「それに、君が掘り出したもの、良く見た方がいいんじゃない?」
『なん、だと?』
 ラナ君に言われて、トールは急いで掘り出したものを見た。
 トールが掘り出したもの。それは汚い鞄だった。
 そのジッパーを引いて、中を見る。


 なにもない。


 そこには、何もなかった。
 何も入っていない。
『ど、何処に持っていったっ!? 俺の金、どこに持っていったっ!?』
「決まってるでしょ? 警察」
『な、何だとっ!?』
「しかもさ、どれも判別できないほどボロボロだったから、一文にもならなかったよ。うーん、残念」
『嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だぁあああああああ!!!!』
「それにもう一つ言わせて貰うと、君、もう死んでる」
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!! こうして、体があるじゃないかっ!!』


「それ、君のじゃないし」
 そういって、ラナ君はそのまま、彼の側に近づいていく。
「そろそろ気づいたらどう? 他の人を巻き込んで、ここまで連れ込んで、道連れにしようなんて、悪趣味にもほどがある」
『五月蝿い、黙れ、黙れっ!!』
 ラナ君は落ち着き払った素振りで、それを見つめていた。
 トールがラナ君に殴りかかる。
 それをラナ君は、さっと紙一重で避けた。
「そんなんじゃ、僕は殺せないよ?」
『なら、呪ってやる、呪ってやるっ!!』
 トールの体から、なにやら黒い影のようなものが出てきて。
「やっと本性を見せたか」
『お前から、殺してやるっ!!』
 酷い顔のやせ細った男。それが、トールの体を乗っ取った幽霊の正体だった。
『アアアアアアアっ!!』
 男から発せられたどす黒いオーラがラナ君に迫るっ!!
「ラナ君っ!!」
 思わず声をかけると、ラナ君は嬉しそうに私に微笑んで。


 薙いだ。
 その腕を剣のように横に真っ二つに。
 すると、黒いオーラが真っ二つに割れてかき消された。
『なん、だとっ!?』
「もう終わり?」
『なら、お前を取り込んでやるっ!!』
 今度はラナ君に乗り移ろうとして……。
 ばちっ!!
 火花が散った。
「残念だったね。無理みたいだよ?」
『どうして、どうして、どうしてだっ!! お前が無理なら、そこにいる女からっ!!』
 え? 私の方を見てる?
『第一、お前が良い匂いを発しているから、連れてきたんだ。お前を取り込んで力を得てやるっ!!』
 って、えええええっ!? わ、私、そんなに美味しくないですっ!!
「サナを取り込むだって?」
 ラナ君の横をすり抜けて、私の目の前まで、男は迫ってきてっ!!
「きゃあああああ!!」
 ぴたっと、私のちょっと前で男は止まった。
『な、なん……だとっ!?』
「俺より先にサナを手に入れるだって? 百万光年早い、下種が」
 す、凄い形相で、男を凝視したかと思うと。
「穏便に済ませようと思ったのに、失せろ。お前にもう用はない」
 そういったとたん。


 ぱんと、消えた。
 閃光と共にあっという間に消え去った。
 ついでに、私達も気を失った。


「だ、大丈夫?」
 介抱してくれたのは、ラナ君でした。
 気が付けば、あたりは明るくなっていて、私達は車の中に居て。
「山にドライブしに来たら、車がここで止まってて、しかも5人とも倒れてて、びっくりしたんだよ?」
「え、えっと……あれ?」
「もしかして、あれって、夢?」
 と思ったが、私の手にはあの懐中電灯があって。
 車の目の前には、白みがかったあの廃屋があった。
 真夜中に見たときよりも、穏やかに見えるのは、気のせいだろうか?
「でもよかった、みんな無事で。もう少し声をかけて、起きなかったら救急車を呼ぶトコだったよ」
 そういうわけで、ラナ君と私達は、仲良くなりました。
 帰り際、ラナ君が私だけに声をかけてきました。
「良かったら、ここに連絡してくれると嬉しいな、サナ・・
「えっ?」
 にこっと笑うラナ君が、ちょっぴり悪戯顔だったのは、気のせいでしょうか?
 とにかく、恐ろしい肝試しはこうして、幕を下ろしたのでした。


「……あれ? 私、こんな下着着てたっけ?」

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