廃屋に潜む、闇の中

秋原かざや

いつもの狩場で

 いつからだっただろうか。
 僕には、他人にはない『力』が備わっていた。
 手を使わずに物を運ぶこと。
 人の心を読むこと。
 自分の知っている場所なら、一瞬で移動できること。
 それが、自分だけのものだと知るには、そう時間がかからなかった。


 それに……。
 その『力』は、恩恵だけではなかった。


 維持するために、『魂』の力を必要としたのだ。


 もちろん、食物で維持することも可能……なのだが、それは微々たるものだった。
 最初に選んだものは、虫。
 だが、小さい虫では、補えない。
 次に選んだのは、ハムスター。
 多少はよかったが、それでも足りなかった。
 かといって、人を殺めることはできない。
 そこで目をつけたのが……『幽霊』だった。


「さて、今日はあの廃病院に行こうかな。そろそろ霊も増えてる頃だし」
 僕は大学生になり、力のための『狩場』を整えることにした。
 とはいっても、僕ができるのは、いくつかの心霊スポットにいる数体の霊を残して、後は狩り尽くすというものだった。それだけで、霊は何故か寄ってきたし、霊を駆逐することで、周りも一時的に平和が保たれる。
 ついでに、対魔的な仕事も請け負うようになった。中には嘘っぱちなものも入っていたが、給料が入るならとそのまま受けたものもある。


 僕は父のお下がりの車で、いつもの狩場へ向かうことにした。
 もちろん、力を使って、そこまで行ってもいいのだが、無駄な力を使うことで力が不安定になるのは避けたいところ。
 幼い頃、力が抑えきれずに友達を傷つけたこともあるし、自分が倒れたことも幾度となくあった。
 だからこそ、移動手段はきちんと用意しておきたい。
「さてっと、到着ー……って、そういえば、コレ積んだままだったっけ」
 懐中電灯を探そうとして……止めた。
 時々、姉が趣味の物を親に隠すために僕の車を利用している。そのときのものがまだ積んだままだった。
「はあ、姉さんの趣味に口出しするつもりはないけど、自分のものは自分で何とかしてもらいたいよ」
 思わず、愚痴が出てしまう。
 と、さっそく、何かが近寄ってくる気配を感じた。
 僕はばたんと、車のトランクを閉めて振り返る。
「こんにちは、僕に用?」
『………』
 営業スマイルで声をかけたというのに、相手は何も言わない。
 まあ、言わなくても『感じること』は可能だ。


『その体を寄越せ!』


「誰がお前なんかに渡すかよ」


 攻撃を避けようかと思ったが、そうなると車に被害が来そうだったので、バリアを展開して、相手を吹き飛ばす。
『ぐあっ!?』
「少々、燃費が悪いけど、この体、気に入ってるんでね」
 飛ばされた霊の側に間髪つけずに接近。
 そのまま蹴り飛ばし、更に追い討ちを与える。
「不思議でしょ? 幽霊なのに痛みを感じるとか、壁にぶつかるとか」
 倒れた霊は意味が分からぬといった表情で、僕を見上げていた。
「君の中に僕の力の一部をちょっと入れてみたんだ。懐かしいでしょ、その感覚」
 ずれた眼鏡を直して、僕は彼女に近づいていった。
「けど、それもこれでおしまい。僕の力が、君を欲しているんだ」
 にこっと微笑んで告げる。
「僕の一部になってもらうよ」
 逃げようとする霊を掴んで、首元に噛み付く。
「あ、意外と君、美味しいね?」
『うああああああ!!!』




 女性の霊だけでなく、数体の霊を美味しくいただいていると、遠くからまた何かが来る気配を感じた。
 そのとき、僕は廃病院の屋上に来ていた。
「車?」
 ライトの消えた車から5人の男女が出てきたのが見えた。
「まあ、注意しにいっても僕の言うことなんか聞かないだろうし、放っておいても……ん?」
 その中の一人に、僕の目は釘付けになった。




「……ラーナ、君」
「こら、もう少しで筆を落すところだったよ、サナ」
 いつの記憶だか分からないけれど。
「うーんもう。すぐ分かっちゃうんだから。ねえねえ、一緒に本読まない?」
「今日は何?」
「シェークスピアのロミオとジュリエット」
「それ好きだよね、サナ」
 着物を着た彼女と、僕が本を手に演じる。
 僕がロミオで、彼女がジュリエット。
 そして、最後にはキスを落して……。




「間違いない、サナだ」
 どくんと、僕の心臓が波打つのが分かった。
 ずっと、視線の片隅で、彼女の姿を探していた。
 けれど、今まで出会うことは叶わなかった。
「どうしよ、心の準備が出来てない」
 そうこうしているうちに、彼女らは廃病院の中に入っていってしまった。
 確か、この病院の中には、今、大量の霊が潜んでいる……はず。
「やばっ!! 他のやつはどうでもいいけど、サナだけは助けないと!!」
 僕は急いで掴んでいた霊を取り込むと、力を使って、サナの居場所を探し始めたのであった。

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