ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE27 バグと大事な忠告?

 まだオーバーヒートで寝ているラナ君をそのままに、私達は朝食を取っていた。
「あ、そーだ。サナ、お前に話しておくことがある」
 アルフさんが突然、話し始めた。
「話したい、こと?」
「ラナンが妙なことを聞いたら、即返答は止めておけ。これ大事なことだからな?」
「えっと……?」
 どういう、こと、なのかな?
「そうね。今、ラナンは、サナのことで頭がいっぱいなのよね。良くも悪くも」
 ミスティさんが言う。
 美味しいトーストをごっくんと飲み込んで、セレさんも加わった。
「ああ、そっか。ラナン君、エンゲージしたいって言ってたもんね」
「エンゲージ?」
 きょとんとする私の隣で。


 ぶほおお!!


 キッドとカインさんがお茶を豪快に吐き出した。
「ごほっごほっ」
 何か言いたげなキッドの背をとうさんが撫でてあげている。
「ごほ……そ、それは本当なんですか?」
 思わず、カインさんも尋ねてくれた。
「ええ、紛れもなく。特に今回のサナ迷子事件で、確実にね」
「あの……エンゲージって……」
 私が改めて尋ねようとしたときだった。


「サーーーナーーー!!」
 ぎゅむん。
「あ、おはよう、ラナ君」
「おはよう、サナ! よかった、昨日のことが夢じゃなくって」
 ぎゅうってしてくれるのは嬉しいけれど。
「ラナ君、ちょっと、苦しい」
「あ、ごめんごめんっ!」
 というわけで、オーバーヒートからラナ君も復活しました。
 ついでに食事にも加わって、トースト食べてます。
「そういえば……サナ、どうして通話のイヤリング外しちゃったの?」
「外してないよ。壊れたの」
 もぐもぐと美味しい朝食をゆっくり味わいながら、私とラナ君はおしゃべりを始める。
 それにしても、このトーストのバターとチーズのとろけ具合、最高だね!
「壊れた?」
「うん、自然にぽろっと外れちゃって、その後、子供たちに踏まれて壊れちゃった」
「そんなはず、ない」
 へっ!?
 食べてた手を止めて、ラナ君は瞳を細めて思案し始めた。
「根本的に、僕らの持つアイテムは『壊れない』ものなんだ。ましてや、『自然に外れる』なんてこともない」
「え? ええっ!? どういうこと?」
「……今、ログアウトできないバグが発生したお陰で、他にもいろんなバグが生じてるみたいなんだ」
 じゃあ、ファーストレインでたくさんの魔物が現われたってのも……。
「バグの一つだと思う。それと、サナの通話のアイテムが壊れたってのも、バグか……あるいは考えたくないけど、第三者がイベントを起こしたと考えれば、納得がいくよ」
「第三者がイベントを?」
 私の言葉にラナ君が頷く。
「どういう意図があってやったかわからないけれど、できないことはないよ。もっとも、この世界の『ルール』を改編して、干渉してるんだから、凄腕ハッカーだろうけど」
 手元にあった野菜ジュースを一気飲みして、ラナ君は続けた。
「まあ、どちらにせよ、僕に勝とうなんて、10万年早い」
 ………あれ?
 あ、そっか。思い出した。
 ラナ君って、大学では情報処理系の学科に入ってたんだっけ。
 でも、それでもハッカーに太刀打ちできる能力ってつくもの?
 むむむ、ラナ君て、もしかして、もしかしなくても、凄い能力持ってる?
「あ、そーだ。ラナ君に聞こうと思ってたんだ」
「何?」
 その一言に、周りのメンバーがしんと、静まり返っていた。
 汗を浮かべて、言っちゃダメなんて表情を浮かべてる。
「舞踏会でラナシード・ユエルって呼ばれてたけど、ラナ君、別の名前だったよね?」
 その質問に、みんながずどんとこけたり、テーブルに突っ伏したり、椅子から落ちたりしてるけど、まあ気にしないで置こう。うん。
「ああ、それ? それは『王子名』」
「王子、名?」
「一度、このゲームをクリアしたキャラには、登録した名前とは別に、新たに王子名が付けられるんだよ。王宮とか神殿とかでは、そっちで呼ばれるようになるんだ。まあ、あんまり使うことはないけどね」
「そうなんだー」
 なるほど、だから、あのとき、王子名を呼ばれてたんだ。
「サナがクリアしたら、王女名になるよ」
「ふうん、面白いねー。私も王女名、決めといた方がいいのかな?」
 もっとも、この名前を変えるつもりもないけどね。
「さてっと、ごちそうさま」
「ん、ごちそうさま、サナ」
 ご飯も食べ終えて、立ち上がったところで。
「サナ、ちょっと二人っきりで話したいんだけど……いいかな?」
「うん、いいよ」
 あ、そういえば、即決しちゃだめなこととか、結局、エンゲージがなんなのか聞きそびれちゃった。
 まいっか、ラナ君の話の後で聞いても。
 だって、時間はまだまだたっくさん、あるんだから、ね?







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