ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE25 偽りの王女、再び

 待って待って、どういうこと!?
 だって、イベントクリアしたんじゃないの?
「サナ嬢、ちょっと待ってくれ」
 カインさんがイベント表を表示させて見せてくれた。
 一応、クリア済みとなっているけど、何かが点滅している。
 なになに……?


『このイベントは期限内にアクアバランの王に報告するまで、完了にはなりません』


 そ、そういえば……。
 思い出してみよう、あのイベントのときの言葉を。


 ぽわわわーーん。
『シルキィキャットのメンバーは、新たなクエストを引き受けました。
 クリア条件は、王女の影武者を演じ、この国に帰国すること』


『この国に帰国すること』


 これだああああ!!!


「だからって、軍隊率いてやってきますかってか!?」
 どんがらがっしゃーんと、今なら見事なちゃぶ台返しを披露できそうだ。
 けれど、今はそんなことやってる暇はない。
「あっちゃー。向こうさんなんだかやる気だよ?」
 遠くの軍隊を眺めながら、セレさんが言う。
「こういうときって、どうするんです?」
「やったことないから、わかんない」
「ですよねー」
 きっとラナン君が解き方知ってるんだろうケド、今はまだ居ないし。
 考えよう。
 このままじゃあ、ガルドラシスが攻撃されちゃう。
 それはなんとしてでも避けなくっちゃいけないこと。
 なら、どうすればいい?
 どうすれば………。
 影武者を演じ、この国に帰国すること。
「サナっちどうする?」
「…………」
 王女の影武者……帰国すること……帰国して、ナニをする?
 報告?
 ………報告!?
「それだああああ!!!」
 私はがばちょと起き上がると、急いで王女服に着替える。とはいっても、一瞬なんだけど。
「サナっち?」
「サナ嬢?」
「サナちゃん、何か言い案浮かんだの?」
 私は心配そうに見る皆に笑顔を浮かべた。
「たぶん、これなら何とかなると思います」
 ドレスの裾を持ち上げて、私は駆け出した。
 目指すは、アクアバランの軍隊へと。


 ひゅおおおおお。
 城の外。
 軍隊の前。
 私はゆっくりと歩み出た。
「アクアバラン王はいらっしゃいますか?」
 聞こえなかったのか、反応がない。
 すうっと息を吸ってもう一度。
「アクアバラン王!! いいえ、お父様っ!! わたくしの声を聞いてください!!」
「そ、そなたは、サナ……いや、我が娘サリューンではないか!!」
 よかった、王様自ら来ていたんですね。それなら話は早い。
「何故、何故ここに来たのです?」
「何故とな? お前が帰ってくるのが遅くなったので、囚われてしまったのかと思ってだな……」
「わたくしは、この通り、無事です! ですから、兵を引いてお戻りください」
「なら、なぜ、遅くなったのだ? 囚われたからでは……」
「いいえ、違いますわ!!」
 間髪居れずに私は、力いっぱい堂々と。
 けれど、すんごく緊張で足が震えながらも、声を張り上げた。
「わたくしは、この国の方々と共にいました。舞踏会を無事終えたのですが、その後、魔王軍に襲われ、その対応に当たっていたのです。その所為で帰るのが遅くなりました。ご心配かけて申し訳ありません、お父様。この通り、わたくしは無事です。怪我一つありません」
 兵士達にも見せ付けるかのように、私は両手を広げた。
「その間、ガルドラシスの皆さんに非常に良くしてもらいました。そんな皆さんが傷つくことをわたくしは許しません。それでは、わたくしへとしてくれたことに相反します。お父様」
 きっと王を見て、静かに告げる。
「それでもこの国に攻撃するというのなら、まずはこのわたくしを倒してからにしてください」
 震える足を見られただろうか。
 僅かに震える声に気づかれただろうか?
 長い沈黙が流れる。
 いや、そう感じたのは、たぶん、私だけだろう。
 答えはすぐにあった。
「お主の言うことはわかった。報告が遅かったのは、良いとはいわぬが、お主もいろいろあった様子」
 ええ、ありました。
 この国じゃなくって、他の町も守ってました。だから許してくださいっ!!
「それにお主も無事なことがわかってよかった。我々は戻るとしよう。その代わり3日以内にアクアバランに戻り、報告すること、良いな?」
「はい、ありがとうございます、お父様!!」
 よかった、言うことを分かってくれて!!
 あ、いつの間にかイベント表の項目が変更されてる。
 今日から3日間以内に、アクアバランに戻る旨が付け加えられたようだ。
 はーーーー。
 戻っていく軍隊を見送って、私はその場にへたり込んだ。
「お疲れ様、サナちゃん」
 いつの間にか、セレさん、キッド、カインさんが来ていて。
「あはは、何とか、できました……」


 その後、ラナ君たちとも合流を果たした私達は、アクアバランに報告した後、またファーストレインの町の、いつもの宿屋に戻ってきたのでした。

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