ライジング・サーガ ~初心者エルフとチート魔人~

秋原かざや

SAVE8 それって、マジ? ホントですかぁ!?

 何が起きたのか、わからなかった。
 私達は、楽しく今日一日のハチャメチャ振りを思い返しながら、夕食をとっていた。
 その後は、体を休めるために、ログアウトするだけだったのに。


 ずずううううん……。
 なにやら地響きみたいなのが聞こえた。
「えっと、これ、何? もしかして、これが噂のイベ……」
「サナっ!!」
 かしゃんとラナ君のスプーンが落ちて。
 同時に私はラナ君に抱きしめられて。
 その後すぐ、大きな地震が来た。
 みんなも、急いでテーブルの下に隠れた。
 けれど、収まる気配がない。
「みんな、外へ!!」
 誰の声か良く分からなかった。
 とにかく、みんな、外に飛び出して。折り重なったり、物が落ちたり、そんなことがなかったのは、やはりここが架空の世界だからだろうか。
 この世界を冒険しているPCだけでなく、力を持たない一般の町の人達なNPCまでも不安げに空を見上げている。
 暗い雲が立ち込めていた。今にも雷が鳴って、雨が降り出しそうだった。
 いつの間にか、あの大きな地震が止まっていた。


「ら、ラナ君……これなんていうイベント?」
「違う……」
「え?」
「僕、全部イベントチェックしてるけど、これは違う。イベントじゃない……」
 困惑しているのは、私だけじゃない。ラナ君も、他のみんなも、不安だった。
 嫌な予感ばかりが支配するのは、気のせいだろうか?


 ばちばちっ!!
「いたっ!!」
 今度は何が起きたの? 静電気のでっかいバージョンが、私の体の中を走っていった。
「だ、大丈……夫?」
 どうやら、ラナ君も、他のみんなも同じみたいだった。
「もう、何が起きたの?」
「……わから」
 ラナ君がそう言ったときだった。


 ぴんぽんぱんぽーん!!
 間の抜けたチャイムが鳴ったのは。


『現在、ライジング・サーガに参加しているプレイヤーの諸君。落ち着いて聞いて欲しい』
 現れたのは、この世界に入ったときに初めて会った魔王さんだった。
「親父?」
 ラナ君が小さく呟く。
『君達は、ログアウトができなくなった』


 なんですってぇええええっ!!?


 あっちこっちで悲鳴や叫びが聞こえた。
「どういうことなんだよ!!」
 ラナ君が魔王に向かって叫んだ。
『原因は未だ不明だ。こちらもスタッフをかき集めて、原因を究明し、君たちの帰還のために手を尽くしている。現在、君たちの家族にも連絡を入れているところだ』
 原因不明って、も、もしかして……私達、ずっとここに閉じ込められちゃったんですか!?
『こちらでログイン数は確認している。1536名。それがここに閉じ込められた人数だ』
 少ないのか多いのかよくわからない。
 でも、でも……。
『君達が目覚めるまで、君たちの体に関することは、我々が責任とって、保護する予定だ。その件に関しては安心して欲しい』
 魔王さんは、淡々と告げている。辛そうな顔も憤っている顔もしていない。
 無表情だった。
『ただ……そちらで戦闘不能になると、どうなってしまうかが、わからない』
「えっと、どういう、こと?」
 私は思わず言葉にしていた。思っていたことを素直に。
「ここで死亡というか、HPがゼロになると、どうなるかわからないってこと」
 難しい顔で、側に居たラナ君が教えてくれた。
『なので、プレイヤーの諸君には、なるべく死なないように立ち回ってもらいたい。また、現実の世界で行なってた生活……分かりやすくいえば、食べ物や風呂、睡眠なども、現実世界と同じように対応してもらいたい。これもなるべく空腹にはならないよう、寝不足にもならないように』
 次々と注意が告げられる。
『できるだけ、君達を帰すために尽力を尽くす。だが、万が一に備えて覚悟はしておいてもらいたい。急なことで、酷な事を言うが……そういうことだ。君達の未来に、幸あらんことを』
 一体、何が起きたの?
 どういうことなの?
 悲鳴がまだ聞こえるし、今度は泣き声なんかも聞こえる。
 ……ねえ、もう帰れないって……嘘、でしょ?
 お兄ちゃんたちも、可愛い妹たちにも、お父さんもお母さんも……みんなにもう、会えないの?
 視界が揺れて、音もなく零れた。
 あふれる涙を、止めるすべは持っていなかった。
 ただ、ラナ君が抱きしめてくれた。
 優しく優しく、私の頭を撫でながら。
 落ち着くまで、数時間を要した。


「ありがと、ラナ君」
 顔を上げた。もう、泣いてられない。
 こうなった以上、ここでの生活に慣れなくては。
 涙を拭いて、笑顔を作った。
「どう、いたしまして……」
 少し悲しそうな顔で、ラナ君が微笑んでくれた。
「ラナ君の、せいじゃないよ」
 私は言った。
「でも」
「ここに来たいっていったのは私の意志。だからラナ君のせいじゃない」
 ちゃんと言わないと、ラナ君はきっと。
「だから、自分を責めないで。これは事故なんだから」
「……敵わないな、サナには」
 苦笑してたけど、どこか吹っ切れたような顔をしてる。
「ラナ、これからどうする?」
 アルフさんが声をかけてきた。みんな、顔色が悪い。でも、それでも生きようとしてる。
「いつもの宿屋で部屋を取ろう。慣れた場所の方がいいと思うし」
「そうね、その方がいいわね。寝不足は……美容の敵だし」
 ミスティさんの言葉に、思わず笑ってしまった。
「そうそう、悩むのは後にしよ! 宿屋で寝て、それから考えよう!」
「賛成」
 セレさんもとうさんも頷いた。
 周りで打ちひしがれていた人達も、少しずつ数を減らしていた。
 きっと、私達のように僅かな希望を胸に、決めたのだろう。


 宿屋に部屋を取った。男性陣、女性陣と分けて。ちなみにミスティさんは、男性陣の方に入ってもらってる。
「ごめん、みんな、先に寝ててくれる? 僕、ちょっと野暮用思い出したんだ」
 きっと、魔王さまのところに行くんだと思う。
 ラナ君はそういって、一人で何処かへ行ってしまった。


 こうして、怒涛の二日目が終わった。

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