私、これでも副会長なんだけど!?
現実と絶望の狭間で
その日も、何かピリピリしたものを感じていた。
いつもとは違う、その日。
わたしは悪夢にうなされていた。
びっしょりと汗をかいて、気持ち悪かったから、すぐさま部屋についているシャワールームで汗を流した。
すっきりはしたけれど。
「なんだろう、この胸騒ぎ……」
じっとしていられない、この気持ち。
だって、こんなにも順調だったのだ。
蒼様と結ばれて、わたしたちはもっと高みを目指し、その結果、開発されたばかりの新型機を得ることができたのだ。
それを見ていた副会長が、ものすごく羨ましがってたっけ。
しかもこの新型、サーバーへのダメージを軽減してくれるそうなのだ。
お陰でわたしも、随分戦いやすくなっていた。
なのに………。
「はぁ……」
「どうかしたの、美柚」
素敵な蒼様が声をかけて下さっている。
「ううん、たいしたことはないの。ちょっと、嫌な夢を見ただけ」
そういうわたしに蒼様は、ぐっと抱き寄せてきて。
「大丈夫だよ。今までだって、何とかなったんだ。これからだって、きっと大丈夫。それに、僕だっている」
ああ、そうだ。
彼はそんな風に励ましてくれる人だった。
「うん、そうだね、蒼君。じゃあ、わたしの悪夢を打ち消すために……キスしてくれる?」
「姫様のご要望なら、喜んで」
わたしたちは微笑みあって、そして、唇を重ねた。
そうだ、彼の言うとおり、きっと大丈夫なはず。
今までだって、いろいろなことを試してみたんだ。
そうだ、あれだって……。
「新型機に新しい機能が欲しいって?」
謎の教師、略して謎Tがそう眉を顰める。
「今までの武装のパワーアップだけでは、足りないと思うんです」
「確かに現状の武器では、敵に適わなくなってきている。もちろん、我々だって少しずつその効果をアップさせてきているのにも関わらずにね」
まさか、あの謎Tがラインディーヴァの開発者本人だったとは気づかなかった。そりゃ、攻略できないはずだ。
いや、今はそれより。
「なので、全エネルギーを敵にぶち込む砲台が必要だと思うんです。たとえば、全ての装備から全弾発射されるとか」
「でも、それをやると、直後がかなりヤバイんじゃないの? 全弾出したら、それでも敵が立っていた場合、殺されるだけだ」
「そのときは、運がなかったと世界共々、消え失せましょう」
上手く笑えただろうか。
もちろん、死ぬつもりはない。
ただ、できることは全てやっておきたいのだ。
なぜ、そう考えるのか、分からないのだが……。
「いいでしょう、やってみましょう」
謎Tはそういって、微笑んだ。
「そういう考えは、嫌いじゃない。それに、君にしては、なかなか面白いアイディアを出してきたと思うよ。その提案を踏まえて、新型に組み込んでみようか。まあ、もしものための備えもしておくけれどね」
僕だって死にたくないからねぇと、余裕を見せる謎Tに、若干苛立ちを覚えたが。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そういって、頭を下げた。
そして、できたのがこの、クリムゾンウィング、略してクリムだ。
謎Tのお陰で、出力、威力、耐久力に優れた、ハイパーな機体に仕上がっている。その上。
「君の希望通り、アレも搭載しておいたよ。弾丸がフルに残っていないと使えないから気をつけてね」
「あ、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
にこっと悪戯な笑みを浮かべる謎Tに、またもやいらっときたが、彼は本当に良い仕事をしてくれた。
操縦桿の重みが増したが、それがまた手に馴染む。
照準も見やすくなり、弾を当てやすくなった。
武器の威力も数倍アップしている。
これで、勝てないなんて、嘘だろう。
わたしは、そう思っていた。
そのときまでは。
「嘘……だろ?」
思わず、呟いてしまう。
目の前に現れた敵は、今まで倒してきたもの全てが集まったとでも過言ではない、軍団。
しかも、ボスクラスの敵は、今まであったこともないほど、何十倍もでかく、倒せる気が全くしない。
「美柚……」
蒼様が声をかけてくださった。
「準備はいいですか? 一度しか使えない、アレを試します」
「で、でも! それをやって、もし無理だったら……!!」
「そのときは、そのときです」
そのために用意した隠し玉なのだ。
今使わずして、どうするのだ?
「エネルギーチャージ開始」
同時にもう一機のラインディーヴァへと通信を繋げる。
「ちょっといい? これからでっかい花火を打ち上げるから、それまで一人で何とかしてくれる?」
『でっかい花火ってっ!?』
わたしにそんなことを言われて、副会長は慌てふためいていたが。
『了解。気をつけて』
謎Tは分かってくれたらしく、すぐさま副会長をなだめて、敵を引き付けてくれた。ありがたい。
その間にもチャージを進めて、現れた照準を合わせていく。
飛んでいるから、少しぐらつく。
何とか、全弾、敵全てに当てることができればいいんだが。
「美柚! チャージが完了したよ! いつでも撃てる!」
「了解。蒼君、しっかり捕まっていてね……」
機体を制御しながら、そのときを待つ。
きちんと静止できる、そのときを。
「ファイナルブースト……ブレイカーっ!!」
操縦桿につけられた引き金を引く。
同時に、クリムから全ての弾丸、レーザーが発射される。
全て、全て全て全て全て。
わたしの全てを、全弾、敵にぶつけていった。
これで本当に終わるんだ。
未来を消させたりなんかしない。
蒼様との未来を、奪われてなるものかっ!!
その魂を込めて、発射したのにもかかわらず。
「う、嘘……嘘、嘘だっ!!」
雑魚の多くを消し飛ばすことには成功していた。
しかし……その奥に座しているボスには、かすり傷一つつけられなかった。
そう、かすり傷一つもだ。煤けてもいない。
わたしの持てる最高の攻撃は、こうして、潰えた。
残ったのは、絶望だけ。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だって言ってよ、ねえっ!!」
何度も引き金を引く。
しかし、それにクリムが反応することはなかった。
全弾を敵に放ったのだ、しかたないことだろう。
「は、ははは。ここまでやったのに、はははは」
笑いがこみ上げてきた。
同時に、頬に伝う何かもこぼれてきて。
「ああ、また死ぬのか……」
また?
またなんて、あったっけ?
……また?
目も眩む閃光に包まれた。
その瞬間、何もかも、思い出した。
そうだ、わたしは二度、死んだ。
一度目は、現実の世界で病気で。
二度目はそう、この世界で。
蒼様と一緒に戦って、戦って、戦って……がんばったのに死んだんだ。
記憶が呼び起こされる。
『ねえ、希望。あなたが生まれたとき、本当に死にそうになってたの。少しでも幸せな未来が来るようにって、希望って名前をつけたのよ。だから、こんなに生きてくれた。母さん、これでも嬉しいのよ』
泣きながら、そんなことを言ってくれた母のことを思い出した。
そうだ、わたしの本当の名は、希望。
りりかなんて、適当に名づけたハンドルネームではなく。
ああ、なのに、わたしはここで死ぬんだ。
神様に願ったのに。
助けて、神様って……。
白い世界の中、わたしは手を伸ばした。
『しっかりなさい、美柚』
え? 謎T? それとも、副会長?
『あなたはもう、一人じゃない』
男のような、女のような声が響く。
「戦いはまだ、始まったばかりですよ」
気づいたら、謎Tの声が響いていた。
「でも、もう弾がありませんっ!!」
くすりと笑う声が聞こえた。
「前にも言ったでしょう? 万が一に備えておくと。まあ、相手もなかなか強固なバリアを張ってるようですが、たかがAAランクの分際で、我々に勝とうなどと、思う方が片腹痛いです」
あれ? どうして、謎Tの声がこんなにも鮮明に聞こえるんだろ?
「それにこんな茶番、そろそろ終わりにしましょう。可愛い沙奈の学生姿をもっとゆっくりと堪能したいですから」
……えっと、だだもれですよ、ホンネ。
「おや、いいツッコミですね」
謎Tは、そのまま続ける。
「さあ、始めましょう。華散る前に、素晴らしき、大輪の華を見せ付けましょう」
いつもとは違う、その日。
わたしは悪夢にうなされていた。
びっしょりと汗をかいて、気持ち悪かったから、すぐさま部屋についているシャワールームで汗を流した。
すっきりはしたけれど。
「なんだろう、この胸騒ぎ……」
じっとしていられない、この気持ち。
だって、こんなにも順調だったのだ。
蒼様と結ばれて、わたしたちはもっと高みを目指し、その結果、開発されたばかりの新型機を得ることができたのだ。
それを見ていた副会長が、ものすごく羨ましがってたっけ。
しかもこの新型、サーバーへのダメージを軽減してくれるそうなのだ。
お陰でわたしも、随分戦いやすくなっていた。
なのに………。
「はぁ……」
「どうかしたの、美柚」
素敵な蒼様が声をかけて下さっている。
「ううん、たいしたことはないの。ちょっと、嫌な夢を見ただけ」
そういうわたしに蒼様は、ぐっと抱き寄せてきて。
「大丈夫だよ。今までだって、何とかなったんだ。これからだって、きっと大丈夫。それに、僕だっている」
ああ、そうだ。
彼はそんな風に励ましてくれる人だった。
「うん、そうだね、蒼君。じゃあ、わたしの悪夢を打ち消すために……キスしてくれる?」
「姫様のご要望なら、喜んで」
わたしたちは微笑みあって、そして、唇を重ねた。
そうだ、彼の言うとおり、きっと大丈夫なはず。
今までだって、いろいろなことを試してみたんだ。
そうだ、あれだって……。
「新型機に新しい機能が欲しいって?」
謎の教師、略して謎Tがそう眉を顰める。
「今までの武装のパワーアップだけでは、足りないと思うんです」
「確かに現状の武器では、敵に適わなくなってきている。もちろん、我々だって少しずつその効果をアップさせてきているのにも関わらずにね」
まさか、あの謎Tがラインディーヴァの開発者本人だったとは気づかなかった。そりゃ、攻略できないはずだ。
いや、今はそれより。
「なので、全エネルギーを敵にぶち込む砲台が必要だと思うんです。たとえば、全ての装備から全弾発射されるとか」
「でも、それをやると、直後がかなりヤバイんじゃないの? 全弾出したら、それでも敵が立っていた場合、殺されるだけだ」
「そのときは、運がなかったと世界共々、消え失せましょう」
上手く笑えただろうか。
もちろん、死ぬつもりはない。
ただ、できることは全てやっておきたいのだ。
なぜ、そう考えるのか、分からないのだが……。
「いいでしょう、やってみましょう」
謎Tはそういって、微笑んだ。
「そういう考えは、嫌いじゃない。それに、君にしては、なかなか面白いアイディアを出してきたと思うよ。その提案を踏まえて、新型に組み込んでみようか。まあ、もしものための備えもしておくけれどね」
僕だって死にたくないからねぇと、余裕を見せる謎Tに、若干苛立ちを覚えたが。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
そういって、頭を下げた。
そして、できたのがこの、クリムゾンウィング、略してクリムだ。
謎Tのお陰で、出力、威力、耐久力に優れた、ハイパーな機体に仕上がっている。その上。
「君の希望通り、アレも搭載しておいたよ。弾丸がフルに残っていないと使えないから気をつけてね」
「あ、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
にこっと悪戯な笑みを浮かべる謎Tに、またもやいらっときたが、彼は本当に良い仕事をしてくれた。
操縦桿の重みが増したが、それがまた手に馴染む。
照準も見やすくなり、弾を当てやすくなった。
武器の威力も数倍アップしている。
これで、勝てないなんて、嘘だろう。
わたしは、そう思っていた。
そのときまでは。
「嘘……だろ?」
思わず、呟いてしまう。
目の前に現れた敵は、今まで倒してきたもの全てが集まったとでも過言ではない、軍団。
しかも、ボスクラスの敵は、今まであったこともないほど、何十倍もでかく、倒せる気が全くしない。
「美柚……」
蒼様が声をかけてくださった。
「準備はいいですか? 一度しか使えない、アレを試します」
「で、でも! それをやって、もし無理だったら……!!」
「そのときは、そのときです」
そのために用意した隠し玉なのだ。
今使わずして、どうするのだ?
「エネルギーチャージ開始」
同時にもう一機のラインディーヴァへと通信を繋げる。
「ちょっといい? これからでっかい花火を打ち上げるから、それまで一人で何とかしてくれる?」
『でっかい花火ってっ!?』
わたしにそんなことを言われて、副会長は慌てふためいていたが。
『了解。気をつけて』
謎Tは分かってくれたらしく、すぐさま副会長をなだめて、敵を引き付けてくれた。ありがたい。
その間にもチャージを進めて、現れた照準を合わせていく。
飛んでいるから、少しぐらつく。
何とか、全弾、敵全てに当てることができればいいんだが。
「美柚! チャージが完了したよ! いつでも撃てる!」
「了解。蒼君、しっかり捕まっていてね……」
機体を制御しながら、そのときを待つ。
きちんと静止できる、そのときを。
「ファイナルブースト……ブレイカーっ!!」
操縦桿につけられた引き金を引く。
同時に、クリムから全ての弾丸、レーザーが発射される。
全て、全て全て全て全て。
わたしの全てを、全弾、敵にぶつけていった。
これで本当に終わるんだ。
未来を消させたりなんかしない。
蒼様との未来を、奪われてなるものかっ!!
その魂を込めて、発射したのにもかかわらず。
「う、嘘……嘘、嘘だっ!!」
雑魚の多くを消し飛ばすことには成功していた。
しかし……その奥に座しているボスには、かすり傷一つつけられなかった。
そう、かすり傷一つもだ。煤けてもいない。
わたしの持てる最高の攻撃は、こうして、潰えた。
残ったのは、絶望だけ。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だって言ってよ、ねえっ!!」
何度も引き金を引く。
しかし、それにクリムが反応することはなかった。
全弾を敵に放ったのだ、しかたないことだろう。
「は、ははは。ここまでやったのに、はははは」
笑いがこみ上げてきた。
同時に、頬に伝う何かもこぼれてきて。
「ああ、また死ぬのか……」
また?
またなんて、あったっけ?
……また?
目も眩む閃光に包まれた。
その瞬間、何もかも、思い出した。
そうだ、わたしは二度、死んだ。
一度目は、現実の世界で病気で。
二度目はそう、この世界で。
蒼様と一緒に戦って、戦って、戦って……がんばったのに死んだんだ。
記憶が呼び起こされる。
『ねえ、希望。あなたが生まれたとき、本当に死にそうになってたの。少しでも幸せな未来が来るようにって、希望って名前をつけたのよ。だから、こんなに生きてくれた。母さん、これでも嬉しいのよ』
泣きながら、そんなことを言ってくれた母のことを思い出した。
そうだ、わたしの本当の名は、希望。
りりかなんて、適当に名づけたハンドルネームではなく。
ああ、なのに、わたしはここで死ぬんだ。
神様に願ったのに。
助けて、神様って……。
白い世界の中、わたしは手を伸ばした。
『しっかりなさい、美柚』
え? 謎T? それとも、副会長?
『あなたはもう、一人じゃない』
男のような、女のような声が響く。
「戦いはまだ、始まったばかりですよ」
気づいたら、謎Tの声が響いていた。
「でも、もう弾がありませんっ!!」
くすりと笑う声が聞こえた。
「前にも言ったでしょう? 万が一に備えておくと。まあ、相手もなかなか強固なバリアを張ってるようですが、たかがAAランクの分際で、我々に勝とうなどと、思う方が片腹痛いです」
あれ? どうして、謎Tの声がこんなにも鮮明に聞こえるんだろ?
「それにこんな茶番、そろそろ終わりにしましょう。可愛い沙奈の学生姿をもっとゆっくりと堪能したいですから」
……えっと、だだもれですよ、ホンネ。
「おや、いいツッコミですね」
謎Tは、そのまま続ける。
「さあ、始めましょう。華散る前に、素晴らしき、大輪の華を見せ付けましょう」
コメント