アール・ブレイド ~ソルビアンカの秘宝~

秋原かざや

第5話 アールの助手とおいしいご飯

「わあ……いろんな船がいっぱい……」
 ポートにたどり着いたアリサは、沢山停泊している宇宙船に目を奪われている様子。
「ここに来るのは初めてですか?」
「ううん、一度、ここに来たことはあるの。でも、小さい頃のことだから、あんまり覚えていないんだよね。それからずっと、ここに住んでるし」
 アールの言葉にアリサがそう話していく。
 どうやら、幼い頃にこの星に来てから、ずっと他の星に出たことはないようだ。
「そうなんですね……あ、アリサ、あれが私の宇宙船ですよ」
 そう指し示すのは、他の宇宙船よりは若干小さ目な宇宙船であった。
 しかし、そんな小ささを感じさせないほど、美しいフォルムを持っていた。
「これが、アールの船?」
「これでも10人くらい乗せられるんですよ」
「そうなの?」
 アリサの目には、そんな風には見えないのだが……。
 そんなこんなしている間に、ハッチが開き、アールがアリサを招く。
「さあ、どうぞ」
 そういって、アールが手を差し伸べ、アリサが中へと入っていくと。
「わあ……中は意外と広いんだね」
「まあ、ここは格納庫だからね。アリサ、こっちの食堂でお茶はいかが?」
「あ、いただきます」
 アールに案内されつつ、食堂に向かう。と、そこに金髪の女性がアリサの前にやってきた。
「ようこそおいで下さいました」
 シンプルなデザインのワンピースを身に纏った美しい女性。
 表情を表に出さないタイプらしく、やや冷たい印象を感じるが……。
「は、初めまして、アリサです」
 アリサは緊張した面持ちでぺこりと頭を下げた。
「アリサ、様ですか……」
「こっちは僕の助手でカリスだよ」
 反応が薄いカリスに代わって、アールが紹介する。
 何か悪いことは言っていないはず。アリサはそう思いながらも、言葉を選び出す。
「カリスさんって、とっても綺麗ですね」 
 アリサは知らない。
 カリスは実は……可愛いもの好きなのを。
 はっと驚くようにカリスは口元を手で覆いながら、アリサに視線を集中させている。
「そ、そんな……アリサ様の方こそ、とても愛らしくて素晴らしくて……ふぐぐ」
 一線を越える前に、アールがそれを止めた。アールが止めなかったらどうなっていたか……いや、それほど酷いことにはならないだろうが、それでもアリサの機嫌を損ねることは止めておいた方がいいだろう。
「はいはい、欲望のままに変なこと言いかけた助手は置いといて。アリサ、例の座標をカリスに見せてあげて」
「出発ですか?」
 やっとアールの手を逃れたカリスが尋ねる。
「そう。たぶん、早めに向かった方がいいと思うんだ。狙っている奴らがいるみたいだしね」
「了解しました。では、アリサ様。座標を教えてくれませんか?」
「あ、これです」
 カリスに促されて、アリサは持っていたカードを見せた。
「ありがとうございます。そちらに向けて、さっそく出発しますね」
「ああ。よろしく頼むよ」
 カリスはぺこりと頭を下げると、そのまま操縦席の方へと向かっていった。


「あの、私たちは?」
「リビングでお茶でも如何ですか? 目的地まで時間がありますし」
 アールはそういって、アリサを椅子に座らせる。
「そう、なんですか?」
「ええ、そうです。これでも道は短縮してるんですけどね」
 そんな中、アリサは浮遊感を感じた。
「ふあっ!」
「あ、すみません。飛びますよ」
「い、言うのが遅いですっ!!」
 暖かい紅茶をアリサの前に差し出しながら、アールはくすりと笑みを浮かべたのだった。




 紅茶を飲んで数時間後。
 そろそろ夕食時と思って、アリサはそっと、食堂のキッチンを覗いた。
 そこには、これから料理を作ろうとしているカリスの姿があった。
「あの、カリスさん。手伝いましょうか?」
「アリサ様。いいえ、大丈夫です。それにアリサ様は私達にとって、大切なお客様です。そんなお客様に料理をさせるなんて、もっての他です」
 そんなカリスが用意した食材は、かなりの量だ。
「でも、この量を料理するのは、一人では大変ですよね? それに私、部屋でじっとするのあまり得意じゃないんですよね。だから……手伝いますっ!!」
 カリスが止める間もなく、アリサはさっさとジャガイモの皮むきを初めて、にっこり微笑む。
「では、お願い……しちゃいますね」
 ちょっとだけ砕けた口調のカリスに、アリサは嬉しくなるのだった。
「ところで……カリスさんは何を作ろうとしてたんですか?」
「そうですね、作っている間に何か閃いたものをと思っていました」
 マジですか? それはそれで凄いと感じるアリサ。
「それなら、いっそのこと、私の故郷の料理なんて、いかがですか? 丁度、それにぴったりな鶏肉とかありますし」
「故郷の料理?」
 カリスの言葉にアリサが頷く。
「カリスさん達が嫌でなければ、ですけど……ダメ、ですか?」
 上目づかいで尋ねるアリサに、カリスが落ちないわけもなく。
「作りましょう、ぜひ作りましょう! メニューは決まりですね!」
「わあ、ありがとうございます、カリスさん!」
「でも……」
 気になる事がある。カリスは思わず尋ねた。
「どうして、故郷の料理を作りたいと思ったのですか?」
 尋ねるカリスの言葉にアリサの手が止まった。
「あーその、ですね……なんていうか、ほら、外宇宙に出るのって、今回が初めてじゃないですか。父も母も遠い所にいるらしく、その、ちょっとだけ……寂し……じゃなくて、恋しくなっちゃって」
 そう苦笑を浮かべるアリサにカリスは、きらーんと瞳を光らせた。
「では、余計に気合入れて、頑張らないといけませんね!」
「ありがとうございます、私も嬉しいです、カリスさん!」
 ひしっと抱き着いてきたアリサにカリスは、かなりメロメロだった。


 そ・し・て……。
 目の前には、色とりどりの……ご馳走がどーんと並べられていた。
「で?」
 思わず、かなりの量のご馳走にアールはカリスとアリサに尋ねた。
 どちらかというと、エスニック風の香辛料の多い料理のようだ。手で食べるような雰囲気でもあるが、きちんとフォークとスプーンを用意している辺り、それほどマナーには気にしなくていいものなのだろう。美味しそうな香りが食堂に充満していた。
「お客様がいらっしゃるので、腕を振るいました」
 むんと、力こぶを見せるカリスにアールは思わず、コケそうになったのはここだけの話。
「ほ、ほらー、手伝いついでに、せっかくだから、私の家で食べるご馳走を作ってみちゃったっていうか、なんというか……うん」
 そこまで言ったアリサは。
「……ごめんなさい、作りすぎました」
 観念したかのように頭を下げた。
「はあ……仕方ありませんね。そういうことなら……3人で頑張って食べ切りましょうか。置いておくわけにもいきませんからね」
 そう苦笑を浮かべるアールに、アリサとカリスは顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
 と、食事をするために、アールも席に着き、そのミラーシェードを外す。
 ふわりと、髪がゆれてその素顔があらわになる。
「……うえええ!?」
 アリサが思わず声をあげた。
「どうかしたんですか?」
 ミラーシェードを外したアールが首を傾げる。
 アリサの予想に反して、アールは若かった。
 恐らく二十代といっても通用するほどの美青年。しかも、その瞳は。
「だって、妙に若いし、それに……」
「オッドアイが珍しい?」
「う、うん……」
 そんな物言いにアールは気にしない素振りを見せながら。
「慣れてますから平気ですよ。だからこそ、これで顔を隠しているんです」
 ミラーシェードをふりふりと振りながら、そう告げる。
「てっきり、中年のしっぶーいオジサマかと思った。そんな貫禄みたいなのがあったから」
「それって……喜んでいいのかな?」
「いいんじゃない?」
 そんなやりとりをカリスは楽しそうに見つめている。
「……マスター、そろそろ到着する頃です」
「了解。じゃあ、これを食べ終わったら、到着の準備をしようか」
 にっと笑みを浮かべるアールに、アリサとカリスも頷き、目の前の豪華なご馳走に手を付け始めたのだった。



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