秋原版【第二回・文章×絵企画】短編集

秋原かざや

月が重なるそのときに



 二つの月が重なり合うとき
 更なる力の高まりを知るだろう


「これなら、上手くいきそうです」
 にこりと少女が微笑んだ。
「それならいいんだけど……まあ、とにかく、やってみるか」
 少年は手に持っていた魔導書を開き、何かを詠唱し始めた。
 ちなみに彼が詠唱しているものは、この世界のモノではなかったりする。
「石板にも力が戻ったようですね」
 満足げに少女はそう告げて、自身もその杖を抱えるかのように、彼と共に詠唱を始める。
 彼とは違う詠唱のようだが、これもまた、この世界のモノではない。


<a href="//7484.mitemin.net/i162480/" target="_blank"><img src="//7484.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i162480/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


 二人の声に応えるかのように、ぐんぐんと幾重にも重なる魔方陣が展開。
 そして。
「来たっ!」
「ええ」
 二人が頷き、今度は同じ文言で詠唱を始める。
 共鳴。
 魔方陣から現れたのは、魔力の塊。いや、結晶。
 光り輝く、美しい花のような結晶がせり出してくる。
「「リュイディータセルベス!!」」
 それと同時に、バリバリという音ともに、二人の体が割れた。
 ……割れた?
 そこから現れたのは、20代の男女。
「全く、いきなりここに飛ばされたと思ったら、変な体にされちまって、あー、やっと元に戻った!」
「本当、窮屈でしたし、口調や性格まで強制されていましたからね」
 それでもあなたはあまり変わりませんでしたけど、そう少女だった女性が微笑む。
「とにかく、体が元に戻ったんだ。魔力が満ちてる今なら、元の世界にだって戻れるはずだ」
「ええ、そうですね。残してしまったあの子のことが心配です」
 少年だった青年は、腰に付けた二本の剣を鞘から引き抜き、新たな詠唱を始める。
 女性も背負っていた弓を取り出し、空へと向けて、矢を引く。
 青年の詠唱が終わるタイミングと共に、矢が放たれて。
 そこにぶわりと、穴のようなものが現れた。
「またこの中に入らなきゃならないのが憂鬱だが」
「行かなくては戻れません」
 二人は手を取り合って、ゆっくりとその中に飛び込んだ。




「夢を見たの」
 杖を持った少女がそういうと。
「僕も不思議な夢を見たんだ」
 本を持つ少年が応える。
「知らない男の人と、女の人がどこかに出かけてしまう話」
「知らない男と女がどっか行く話」
 どうやら、二人が見た夢は同じもののようだ。
「月が並ぶ日は不思議なことが起きるって聞いていたけど」
「本当に起きるなんて、驚きだね」
 夜空には二つの月が浮かんでる。
 この月が再び並ぶのは、もう何年か先の話だ。
「あの人たち、無事にたどり着けたかなぁ?」
「うーん、あの先の夢は見てないけれど」
 二人は顔を見合わせ。
「「きっと大丈夫」」
 揃った声が、くすぐったくて、嬉しくて。
 思わず笑いだした。
 そよそよと心地よい風が横切っていく。
 二人の傍には、光を失った、あの石板が佇んでいた。



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