秋原版【第二回・文章×絵企画】短編集

秋原かざや

あなたとわたしの事情



<a href="//9610.mitemin.net/i161236/" target="_blank"><img src="//9610.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i161236/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>


 先ほどから涙を零す彼女に、私は大丈夫と告げている。
 むしろ、職場の人達に知られた彼女の方が、大変だろうに。
「本当に、本当にごめんね、晶ちゃん」
「大丈夫です、梓さん。こっちは問題ないですし」
 私達は、はたから見れば異色なカップルに見えるが、本人達はいたって、自然な愛の形。
「梓さん、何かあったら、知らせて下さいね?」
「わ、わたしのは、大丈夫だから。でも……晶ちゃんを、傷つけちゃった……」
 ……この人は……。
 私が傷つくことくらい、どうってことはないのに。
「傷ついてなんて、いませんよ」
「でもでも、心無い中傷、たくさん言われちゃったよぅ……」
 全くというほどではないが、こういう世界に身を置くことを決めたときから、もう覚悟は決めている。
 でも、それまでは、ほんの少し梓さんに寄り添っていたい。
 私達の大事な愛を、しっかりとした形に残したいから。
 その意思を貫くためにも、私は今、スカートを履いているのだから。
 私はそっと、彼女の手を取る。
 そして、頬に触れる。私よりも、綺麗な肌。これを維持するために、どれだけのものを費やしたのだろうか。
「周りは気にしなくていいよ。それにスカートを履くのは、今だけ」
「うん、そうなのに……」
「梓さんも気にしないで。俺、梓さんが泣く方がもっと辛い」
「そ、そうだったね」
 私がそういえば、梓さんは急いで涙を拭きはじめた。けれど、零れてくるものはなかなか止まらない。
「じゃあ、これでおしまい」
 彼女の目元にキスを落とす。
「ちょ……晶ちゃんって……男前」
「そういう風にしたの、梓さんの所為だよ」
 くすりと二人で微笑む。
「早く、生まれてくるといいね……」
 そっと私のお腹をさすって、梓さんは言った。
「ん……そうしたら、元に戻ろう。俺達のあるべき姿に、ね」
 梓さんが綺麗なお姉さんになるように、私は俺になる。
 そして、梓さんと、これから生まれる子を守るのだ。この両腕で。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
 泣き止んだ梓さんは、やっと仕事に向かった。もちろん、いってらっしゃいのキスは忘れない。
「パパもママも苦労しているんだから、ちゃんと元気な子になるんだよ」
 くすりと笑い、具合が悪くなる前に家事を済ませるために、ゆっくりと立ち上がったのだった。

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