ほたるのクリスマス

秋原かざや

ほたるのクリスマス

 ぱち、ぱちっと、何かが爆ぜる音が聞こえる。
 暖炉だ。暖かい火がこの部屋を暖めている。
 ソファーにテーブル、そして、テレビ。
 そのテレビの前に、可愛らしいクッションの上に、おかっぱ頭の着物を着た幼い子供が、ちょこんと乗っていた。
 食い入るように見ているのは……。
『もうすぐ、クリスマス! クリスマスにつきものは、やっぱりクリスマスプレゼント! 大切なあの人に、素敵なものを贈りたいですよね。そこでお勧めするのが……』
 テレビに映るサンタ姿の女子アナウンサーが、どーんと取り出したのは、暖かグッズ。
 マフラーに手袋、毛糸の帽子……そして。
『やっぱりおしゃれなひざ掛けもいいですよね!』
「ひざかけ!」
 可愛い瞳をキラキラと輝かせながら、幼い少女は食い入るようにテレビを見つめていた。
「蛍、何を見ている?」
 と、そこに声を掛けられる。声からして、若い男の声のようだ。
「あ、ガリューン様っ」
 おかっぱ頭の少女が振り返る。そこには大人の男性が立っていた。現代の服を着こなす長い銀髪の青年。歳は20代後半のようにも見える。青年……いや、ガリューンと呼ばれた彼は、温めたミルクのマグカップをそっと、蛍の傍にあるテーブルへと置いた。蛍はそれを嬉しそうに手に持って、あつあつと呟いている。
「テレビを見ていたのか?」
「みてたのです。とっても面白いのです……あつっ」
 にこっと蛍がそう答えると。
「そうか。だが、テレビはもう少し離れて見ると良い。目が悪くなってしまうぞ」
「はーい」
 蛍はガリューンに言われて、少しテレビから離れていく。
 それを確認してから、ガリューンも蛍の傍にあるソファーに腰かけると、傍に置いてあった本を手に取り、それを読み始めた。表紙には英語が書かれているので、恐らく英語の本だろう。
 じっと蛍は、ガリューンを見つめる。
 もし、今のガリューンに、あのテレビで見たひざかけ。それをあげたら、どんなに喜ばれるだろうか。
 きっときっと、物凄く喜んでもらえるに違いない。
 あったかい、あのひざ掛けがあれば……。
「ガリューン様っ、おしごと、ください」
 あったかミルクを飲み終わった蛍は、すくっと立ち上がり、ガリューンにそう言い寄った。
「仕事? 欲しいものがあるなら、買って……」
「おしごとでほーしゅーが欲しいのですっ!」
 そうでなければ、意味がないのだ。
 お小遣いで貰ったお金では意味がない。自分が頑張って用意したお金で買わないとプレゼントとは言えないだろう。
 必死にお願いする蛍にガリューンはというと。
「……まあ、蛍がそこまでいうのなら、仕事を頼むとしよう」
 その言葉を聞いて、蛍の顔がぱあっと明るくなった。


 そして、今、蛍はお使いに近所の商店街を回っている。
 今日の晩御飯はハンバーグにするらしい。ひき肉に人参、玉ねぎ。
 どちらかというと、野菜がたくさん入っているヘルシーなハンバーグになるようだ。
 他にもコンソメとか、キャベツとかもあるので、かなりの量だ。
 小さな蛍には少々、重い荷物だが、仕方ない。
「これも、くりすますのためなのです……」
 うんしょうんしょとお使い鞄を運んでいると。
「よく頑張ったな」
「ガリューン様!」
 なんと、ガリューンが迎えに来てくれたようだ。
「すまない。蛍には少々荷の重いお使いを頼んでしまったな」
 そう蛍の鞄を持っていこうとすると。
「だ、だめです、蛍の……仕事です」
「ここまで持ってきてくれただけで充分だ。それにこのまま蛍が運ぶと、夕食時を逃してしまう」
 優しい笑みで、ガリューンがそういうと、しぶしぶ蛍は鞄を手放した。
「その分、報酬を弾んでおこう」
 その一言で蛍の顔がぱああっと明るくなる。
「はい!」
 蛍はにこにことご機嫌なまま、ガリューンの手を握って、屋敷へと帰っていったのだった。


 蛍のお使いは何日も何日も続いた。
 その間にも、あったかそうなひざ掛けを見かけたら、チェックして覚えたりもしていた。
 そして、蛍は目標額に到達する。
「こ、これで買えるのですっ」
 ばきゃっ……とは壊さずに底についているキャップをあけて、くまとうさぎの貯金箱を開ける。
 じゃらじゃらじゃらじゃらー!!
 今まで貯めてきたお金お金お金。中にはお札も入っている。
 これなら、きっと買えるに違いない。
 そう確信しながら、蛍はそれを大きながま口に全て入れて、大事そうにふたを閉めた。
「ガリューン様、おでかけしてくるのです」
「なら、私も……」
 立ち上がりそうなガリューンを蛍は、あたふたと押し留める。
「蛍はもう、一人で行けるのです! お使いもできたのです! 大丈夫です!」
「あ、ああ。わかった」
 なにやら、ガリューンが苦笑しているようにも思えるが、そんなことはどうでもいい。
 彼がついて来なけさえすればいいのだから。
「で、では、いってきますです」


 とてとてとてとて、大きながま口を下げて、目的の店に入る。
「あ、あっ……」
 あったーと手を伸ばそうとした時だった。
「あら、取ってくれるのね、ありがとう」
 後ろにいたおばあさんに持っていかれてしまった。
「えと、あの……」
「もしかして、あなたもこれが欲しいの?」
 どうやら、おばあさんは蛍の心の内に気付いたようだ。
「私も暖かいものが欲しくて、ここに来たの。お店の人に聞いてみましょう」
 優しいおばあさんは、そのまま店の人に尋ねてくれたが。
「残念ながら、そのひざ掛けはそれで最後なんですよ」
「まあ」「ええっ!?」
 どうしましょうと首を傾げるおばあさんの隣で、蛍はうーんうーん考えたのちに。
「蛍はいらないのです。別なところで買うのです。だから、おばあさんにあげる」
「あらあら、いいの? ……ありがとう、えっと、蛍さん」
 にこっと微笑んでおばあさんは、そのひざ掛けを買って行った。
 蛍が出て行こうとするのを、おばあさんはその手を取って止める。
「ちょっと待って、よければ代わりにこれをあげるわ。好きなように使っていいから」
 そういって、おばあさんから渡されたのは……高級そうなお肉だった。
「え? で、でも、いいの?」
「いいのいいの、まだたくさんあるからね。ほら、包んであげましょう」
 おばあさんはどこからともなく取り出した紙袋にお肉を入れて、蛍に渡してくれた。
「ありがとう、おばあさん」
 嬉しそうに受け取って、蛍は店を出た。


 さて、最初の店で高級お肉を手にいれた蛍は、仕方なく2件目に向かうことにした。
 そこにあるひざ掛けは品質はいいのだが、少々お高い。
 たぶん、なんとか間に合うはずだが……。
「あらまあ、また来てくれたんかい?」
 優しそうな店のおじいさんが声をかけてくれた。
「あの、ひざ掛け買いに来ました」
「え? あのひざ掛けかい? ……ああ、残念だけど、それはさっき売れてしまったんだよ」
 ごめんなぁと眼鏡のズレを直しながら、おじいさんはぺこりと頭を下げた。
「そうだ、代わりにこれをあげよう。どうせ売れ残りだしね。ほら、包んであげるよ」
 おじいさんが渡してくれたのは、少々古臭いデザインの花のハンカチだった。
 それをプレゼント用にラッピングしてくれる。
 それをありがたく受け取って、蛍は次の店に行くことにした。


 次の店は、デザインがいまいちだが、素材は素晴らしいひざ掛けのある店だ。
 不本意だが、仕方ない。
 と思ってみたら。
「え? ひざ掛け? これはケープなのよ。こうやってつけるの」
 ふっくらしたおばさまがそう優しく教えてくれた。
 ちなみにひざ掛けはここには売っていないとのこと。
「あ、そうだわ。これなんてどうかしら? あったかくていいわよ」
 そういっておばさまは、ふわっとした毛布(子供用)をくれた。ついでに飴ちゃんも。
「あ、ありがとう、ございます……」


 目当てのものは手に入らない。
 ひざ掛けが欲しいのに、貰うのはそれ以外のものばかり。
「はぁ……」
 思わずため息が零れてしまう。
 と、そのときだった。
「……えーん、えーん……」
 蛍と同じくらいの幼い少女が公園で泣いていた。その隣には困ったような疲れたような表情をしている少年もいる。
「どうかしたの?」
「妹が泣き止まないんだ。さっきあったかいココアを飲んだってのに……」
「だって……ひっくひっく……今年もクリスマスのプレゼントないんだもん……ふええん」
 泣きながら、妹がそう教えてくれた。
「なんでないの?」
「うち、貧乏なんだ。来年になったら、もう少し楽になるって父さんは言ってたけど……でも……」
 どうやら、妹もそのお兄さんも苦労しているようだ。
 蛍はぽんと手を打って。
「これあげる。食べて」
 ぺりっと袋を開けて、泣いている妹の口に入れた。ついでに、お兄さんの口にも。二つ飴ちゃんをくれたおばさまに大感謝だ。
「それに、これはクリスマスプレゼント」
 さっき貰ったお肉にハンカチ、ついでに毛布もみんな、二人に押し付けた。
「お肉は生だから、ちゃんと調理しないとダメだからね。高級品なんだから」
「で、でも、こんなにもらえないよ……」
 困っているお兄さんに蛍は一つ、提案をしてみる。
「ひざ掛け」
「え?」
 そう、いわばこれは一種の賭けだった。
「いらないひざ掛けがあるなら、それと交換。それでいいでしょ?」
「う、うん……」


 その後、貧乏だといった割には、なかなか良いひざ掛けを持っていたお兄ちゃんの家。
 こうして、長いお買い物の末に、何とかお目当てのひざ掛けをゲットすることができたのだった。


 クリスマスイブの日。
 蛍はこっそりと寝ているガリューンの傍にひざ掛けのプレゼントを置いていくのにも成功する。
「みっしょんこんぷりーと、なのです……」
 素晴らしいどや顔で。


 翌朝。
「蛍、これがなんだかわかるか?」
 少し困惑したガリューンが尋ねてきた。
「それはクリスマスプレゼントなのです! もらっちゃっていいんです」
 ちょっぴり強引に押し付ける形で言い切った蛍だったが、心の中は受け取ってもらえるか不安な気持ちでいっぱいだった。
「……そうか。これをくれた者に感謝しないとな」
 そう微笑むガリューンに蛍も思わず、顔を綻ばせる。
「ふふふ」
 内緒のプレゼント。
 けれど、それはこれだけではなかった。


「蛍、今日は良い所に連れて行ってあげよう」
 ガリューンが誘ってくれた。
「どこにつれていってくれるんです?」
 ガリューンの手に、蛍はぎゅっと掴みながら尋ねてみる。
「ふふっ」
 笑って教えてくれない。
 むーっとしながらも、蛍はガリューンの言うまま、ついていくと。


 キラキラと輝く、光、光、光の嵐。
 暗闇の中、様々な色とりどりのランプが、通行人を喜ばせている。
 蛍を連れてきた場所。
 そこは、大小さまざまなイルミネーションが飾られた場所だった。
 特にイルミネーションに飾られたクリスマスツリーが、見事で眩しくて。
「わあ……私のお仲間さんが、いっぱいなのですっ」
 思わず蛍も、ぴかぴかとお尻の方を光らせている。
 しまいには、ぴょんぴょん飛び跳ねるくらいだ。
 ついでにいうと、なぜか通行人はガリューンたちの事に目を向けていないようだ。
 きっと、このイルミネーションが綺麗だから、クリスマスが楽しみだからに違いない。
「蛍、そろそろ暖かいご飯を食べに行こう。今日は蛍の好きなレストランにな」
「ほ、本当ですか! いいのですか! あ、あそこの旗の立ったおこさまランチ、いいですか!!」  
 キラキラと目を輝かせながら、大興奮の蛍にガリューンは笑みを浮かべる。
「ああ、旗の立ったおこさまランチを食べよう。まあ、私はステーキセットを食べるがね」
「うわーい、うわーいっ!」
 ぴょんぴょん跳ねて、ぱたぱたと蛍は、いつものレストランへと向かって行く。
「あまりはしゃぐと転ぶぞ。気をつけろよ」
 そう声をかけてから。
「ありがとう、蛍」
 小さくそう、ガリューンは呟く。


 空から、ふわふわと白い雪が舞い降りてきた。
 まるで空を踊るかのように。
 クリスマスの夜を喜ぶかのように、ガリューンと蛍の所にも。
 あの兄妹にも、白い雪が等しく落ちてきたのだった。



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