マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

五十二話 今、そこにあるキセキ

 現場にたどり着いた槙原とジョナサンが見たもの。
 それは、赤羽に撃たれ、倒れている国崎とそれを抱きしめ、嗚咽するアスナの姿だった。


 ゆっくりと国崎の胸元が鮮血に染まっていく。
 アスナは半ば怒るように国崎へと声をかけていく。
「死ぬな! 死ぬなっ、亮平っ!! こんなところで、くたばるなっ!!」
 意を決したアスナは、自身にかけていた身体強化フィジカルブーストを国崎へと送り込む。
 この力は自分にしか使って来なかった。
 他者にかけれるものか、アスナは理解していなかった。
 だが、やれることは全てやりたい。ここには、助けてくれる医者も英雄もいないのだから。
 だから、ダメでも藁にも縋る想いで、自分の持つ力の全てを注ぎ込みはじめた。
 そのわずかな光が、国崎の体を包み込んでいく……。


 そんな様子をわれ関せずと黒島が眺めている。
「さて、外も静かになりましたし、お暇しましょうか」
「いいのですか?」
 確認しなくてもという言葉を飲み込む、赤羽。黒島は瞳を細めて。
「それよりも、ここから出られなくなる方が問題ですよ」
「……了解」
 その場から立ち去ろうとする二人に槙原が。
「お前達の所為で、こんなことになってるんだぞ! 何かいう事はないのか!?」
「今さらなれ合っても仕方ないでしょう? それよりも、あなた方も早く離脱すべきですよ。いつあのマシンが戻って来るか……まあ、肉片になりたいのならば、止めませんけどね」
「貴様っ!!」
 殴りかかろうとする槙原をジョナサンが止めた。これ以上被害を増やすわけにはいかない。
「それでは、魔導課の皆さん、ごきげんよう」
 黒島は赤羽をつれて、その場を離れていく。
 それを苦い想いで見送ることしかできない魔導課。負傷している者が多い魔導課の面々が、大した怪我もしていない黒島達にかなうはずもない。怪我人を抱えて戦える相手ではないのだ。
 黒島がいなくなったのを確認して、ジョナサン達は国崎とアスナの方へと向かう。
「大丈夫……なのか?」
「さあな、とにかくA-Sとやらの力が、良い方向へと向かうことを祈るしかない」
 気遣う槙原の言葉にジョナサンはそう告げ、彼らは視線をアスナから、国崎へと向けたのだった。




 一方その頃。
 暗がりのとある場所では、先ほどのマシンの戦いの様子を、レーダーで覗き見ていた。
 レーダーなので、詳しい状況まではわからないが、被害状況などはわかる。
 しかし、黒島達が逃走したこと、魔導課の面々が被害を受けている等は、それだけでは十分にわかることはできない。見えるのは、マシンに取り付けた一部のカメラだけ。
 それでも、成果を出しているという事はわかったのだろう。
「そろそろ締めと行こうか」
 太い葉巻を噛み締めながら、男は最後の指示を出した。
 傍にいたオペレーターがあるスイッチを押す。
 それと同時に、彼らから遠く離れた場所で、光を灯した巨大マシンが起動し立ち上がる。
 ゆっくりと巨体を揺らしながら、向かう先は。
 倒れた国崎のいる魔導課の面々がいる場所だった。






 ――そこは辺り一面、白い世界だった。
「……ここ、は……?」
 国崎は立ち上がり、辺りを見回す。
 白い以外、何もない場所。
 現実なのか、それとも夢なのか。
 それさえも判断できない。
「全く、アンタも災難だね」
 そんな彼へと声が掛けられた。馴染みのあるその声は。
「早苗?」
 国崎の言葉に早苗は苦笑を浮かべた。
「来るのが早過ぎ」
 ぽこんと叩かれた。
「た、叩くなよっ」
「叩きたくなる頭がそこにあったからね」
 そういって茶化していた早苗だったが。
「どうして来た?」
「どうしてって、俺は……えっ?」
 思い出した。アスナを助けるために盾となり、撃たれたことを。
 そして、ここは……。
「もしかして、あの世?」
「物分かりが早くて助かるよ。そういうことさ」
 にっと笑みを浮かべる早苗に、国崎は思わず苦笑した。
「でも、正確にはあの世とこの世を繋ぐ境目と言った方が分かりやすいか。まだあんたは死んでいないからね」
「え? でも、俺は……」
 早苗はいいからと、上を見上げろと指をさす。ちょっと面倒くさそうに。
「上?」
 白い天井しかないと思っていたが、そこには国崎を抱きかかえ、泣き叫ぶアスナの姿がぼんやりと見えた。


『亮平、亮平!! 起きろって言ってるだろっ! どうして、どうして、あんなことしたんだよ、バカっ!! 僕がそれを願ったとでも思うのか!? そんなこと願うことないだろうが!! いいから、早く起きろ! 起きてくれよ! お願いだ、お願いだから……帰って来いよ、亮平っ!!!』


「ほら、呼んでるぞ、馬鹿」
「バカ言うなよ」
 そうじゃないだろうと言いたげに、気だるげに早苗は続ける。
「ここにいていいのか? あんたにはやるべきことがあるだろう?」
「お前に言われなくても、分かってる」
 その言葉に、早苗は嬉しそうな笑みを見せた。
「なら、さっさと行きな。いるだけで目障り」
「ああ、そうす……」
 最後まで、その言葉は続けられなかったが、きっと早苗には伝わっているだろう。
 気が付くと、国崎はアスナの腕の中にいた。
「アスナ……」
 ミラーシェード越しに見える涙を拭うかのように、彼女の頬に手を重ねる。
「亮平……よかっ……た……」
 無事を確認して安心したのか、崩れ落ちるように倒れ込むアスナ。
 それをそっと抱きかかえ、国崎は立ち上がる。
「おい、大丈夫なのか?」
 久我原が声を掛ける。
「よくわからないけど、大丈夫っぽい」
 倒れたアスナを傍にいた槙原に預けて、国崎は別方向を見た。
 そこには、将軍が最後の仕上げにと送り込んだ、巨大マシンが顔を出して。


 キュイイイイイイイイインンンン!!


 頭の赤外線レーダーが国崎を捉える。
「ま、マジか?」
「おいおい、こっちは満身創痍だっての……」
『私が敵を引き付けます。皆さんはすぐこの場を……』
 各々が慌てる中、国崎だけは静かに敵を見据えていた。
 まるで、相手の弱点を知っているかのように。


 ――体が軽い。アスナが何かしたのか? いや、今は……。


 ふっと国崎は笑みを浮かべる。
「邪魔だ、退けよ……デカブツが」
 手のひらをそのまま、マシンに翳す。
 それと同時に、ぶわりと白い天使の羽が舞った。
「へっ?」
 その呆けた声をあげたのは、誰だったのか?
 全ては、その一瞬で終わった。
 攻撃する間もなく、あっという間に崩れ落ちるマシン。
 これで魔導課の面々が助かったわけだが。
 国崎もまた、同時に倒れ込んでしまった。
 現れた天使の羽は、それと同時に消え去ってしまう。
「とにかく早く撤退するぞ。いつ、あいつ等が来るかわかったもんじゃない」
 ボロボロになりながら、魔導課の面々は倒れた者達を担ぎながら、彼らもまた、その場を後にしたのだった。





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