マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―
四十三話 消沈
「……よし。これで事が上手く転がれば良いのだが……」
早苗は深く息を吐いて、パソコンから手を離した。そしてそのままぐったりと椅子の背凭れに身体を預け、天井を仰いだ。
「……大きくなっていたね。亮平」
何年振りの再開か、と思い巡らせながら、亮平の昔の姿を想起する早苗。
しかし彼女の顔には再開の喜びの他に深い後悔の色が滲んでいた。
「辛い思いをさせたね……。後は私に任せなさい」
早苗は小さく呟いて、再びスクリーンと向き合った。
それに少し遅れて、ドアをノックする音が数度。
早苗は取り掛かろうとした手を止めて、ドアを開けようと立ち上がった。
だが早苗がドアの前に立って、ノブを引こうする前にドアが開かれた。
『早苗様。お疲れでしょうからご自愛ください』
フィグネリアはティーポットを乗せたトレイを持って心配そうに入室した。
「いや、いいんだ。フィグ」
早苗はフィグネリアから半ば強引にトレイを取ると、フィグネリアに座るように勧めた。
フィグネリアは一瞬躊躇するような動きを見せたが、早苗が勧めるのをやめないので観念して席についた。
「フィグが居なければ始まらない」
早苗は紅茶を注ぎながら、にやりと口角をあげた。
『一体、何をなさるおつもりですか?』
フィグネリアがそう尋ねると、早苗は紅茶を吹き冷ましながら言った。
「一泡吹かせてやるのさ」
仄暗い部屋の中で人工的な明かりが虚ろな顔を照らしていた。
光源に表示される『A-S』の字を一瞥しただけで、国崎は携帯を取ろうともせず窓の外に目を移した。
「……」
それは喪失感というべきだろうか。
自分を突き動かしてきた価値観が瓦解し、今までやってきた行動は全て無駄なものとなった。
その事実が彼の情熱を冷ましてゆく。
「……」
何故あの時、早苗を殺せなかったのか。
目的は復讐では無かったのか。
美咲の復讐という点においては、彼が戦う意味がある。
だが美咲の仇の一人である早苗を目の前にしていたというのに、殺意を向けようとはしなかった。
それどころか、殺意さえ湧かなかった。
国崎はその原因が何であるかを知っていた。
結局は全てを失ったことを紛らわすための戦闘だったのだ。
生きがいとするために復讐という大義名分を自らに突きつけた。
だがその大義名分だけでは、早苗に手を掛ける動機にはなりえなかった。
「……いっそ、全て夢ならな」
もし誰かが隣にいても聞き取れないであろうほどの小さな声で彼は言った。
忌々しきあの日も。
自分が命を削って戦いぬいた日も。
その全てが夢で、またあの頃の生活に戻れるとすればどんなにいいか。
国崎は静かに目を閉じて、浅い眠りについた。
早苗は深く息を吐いて、パソコンから手を離した。そしてそのままぐったりと椅子の背凭れに身体を預け、天井を仰いだ。
「……大きくなっていたね。亮平」
何年振りの再開か、と思い巡らせながら、亮平の昔の姿を想起する早苗。
しかし彼女の顔には再開の喜びの他に深い後悔の色が滲んでいた。
「辛い思いをさせたね……。後は私に任せなさい」
早苗は小さく呟いて、再びスクリーンと向き合った。
それに少し遅れて、ドアをノックする音が数度。
早苗は取り掛かろうとした手を止めて、ドアを開けようと立ち上がった。
だが早苗がドアの前に立って、ノブを引こうする前にドアが開かれた。
『早苗様。お疲れでしょうからご自愛ください』
フィグネリアはティーポットを乗せたトレイを持って心配そうに入室した。
「いや、いいんだ。フィグ」
早苗はフィグネリアから半ば強引にトレイを取ると、フィグネリアに座るように勧めた。
フィグネリアは一瞬躊躇するような動きを見せたが、早苗が勧めるのをやめないので観念して席についた。
「フィグが居なければ始まらない」
早苗は紅茶を注ぎながら、にやりと口角をあげた。
『一体、何をなさるおつもりですか?』
フィグネリアがそう尋ねると、早苗は紅茶を吹き冷ましながら言った。
「一泡吹かせてやるのさ」
仄暗い部屋の中で人工的な明かりが虚ろな顔を照らしていた。
光源に表示される『A-S』の字を一瞥しただけで、国崎は携帯を取ろうともせず窓の外に目を移した。
「……」
それは喪失感というべきだろうか。
自分を突き動かしてきた価値観が瓦解し、今までやってきた行動は全て無駄なものとなった。
その事実が彼の情熱を冷ましてゆく。
「……」
何故あの時、早苗を殺せなかったのか。
目的は復讐では無かったのか。
美咲の復讐という点においては、彼が戦う意味がある。
だが美咲の仇の一人である早苗を目の前にしていたというのに、殺意を向けようとはしなかった。
それどころか、殺意さえ湧かなかった。
国崎はその原因が何であるかを知っていた。
結局は全てを失ったことを紛らわすための戦闘だったのだ。
生きがいとするために復讐という大義名分を自らに突きつけた。
だがその大義名分だけでは、早苗に手を掛ける動機にはなりえなかった。
「……いっそ、全て夢ならな」
もし誰かが隣にいても聞き取れないであろうほどの小さな声で彼は言った。
忌々しきあの日も。
自分が命を削って戦いぬいた日も。
その全てが夢で、またあの頃の生活に戻れるとすればどんなにいいか。
国崎は静かに目を閉じて、浅い眠りについた。
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