マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

三十四話 暴かれるA-Sのトップシークレット

 病院に運ばれ、入院しているA-Sを見舞うため、新垣は花を片手に病室へと向かっていた。
「早く復帰してくれるといいんだが……」
 井伊の話によると、まだ数週間、入院が必要だという。
 目当ての病室を見つけ、新垣は声をかけた。
「おーい、A-S。いるんだろ? 開けるぞ?」
 そういって、扉を開けると。


「………」
「……………へ?」


 そこには、上半身を裸にした、銀髪の女性が立っていた。
 驚いた顔で新垣を凝視し。
「こんの、ばかやろーっ!!」
 近くにあった花瓶が、新垣の頭にジャストヒットした。




 そして……。
「いや、その……悪かったな」
「反省しているなら、いい……」
 つんとした顔でベッドに座るのは、ミラーシェードをつけたA-S、だった。
 その前には恐縮しまくって椅子に座っている新垣がいる。
 病室にはこの二人だけなのだが、妙にギクシャクしてるのは、やはり先ほどのハプニングが影響しているから、だろう。
「その……お前が……その……」
「みなまで言うな。聞いているこっちが恥ずかしくなる。で、用はなんだ」
 A-Sにそう切り出されて、新垣は思わず。
「女、だったんだな」
 そう呟いた。
「男だと言った覚えはないぞ」
 言われてみればそうだ。
 彼、いや、A-Sは自分が男だとも女だとも言っていなかった。
 しかも、なかなかのむね……いや、これ以上言ったら殺されるだろう。
「で、用はそれだけか?」
「っていうか、なんで胸がそのっ!!」
 思わず本音がちらりと出る。
「女だといろいろと不都合があるんだ。分かるだろ?」
「分かる以前に、親御さんは心配しないのか?」
 新垣の言葉にA-Sは、苦笑を浮かべた。
「おじ様から聞いていないのか? あの事件で僕の家族は全て死んでいる」
 その返答に、新垣は言葉を失う。
 彼女はA-Sは一人で戦っていると聞く。
 しかも、女としてではなく、男のように装って。
「だから、言いたくなかったんだが」
 新垣の顔色を見て、A-Sは口を開いた。
「見てしまったものは仕方ない。だが、このことは他言無用にして欲しい」
「能見には言ってもいいんじゃないのか?」
「今さら言えることでもないし、今の関係で充分だ」
 その返答に新垣は一抹の寂しさを感じながらも、手に持っていた花をA-Sに手渡す。
「で、お前はこれから何をするつもりなんだ? 武装して」
 新垣のその言葉に、A-Sは当たり前と言わんばかりに。
「決まっているだろ? ここにいても時間の無駄だ。復帰して……」
「馬鹿か」
 ぼすっと、A-Sを小突き、ベッドに戻す。
「ちょ、お前っ!!」
「まだ入院してなきゃ駄目なんだろ? 総監がそう言ってたぞ」
「だが、その怪我は身体強化フィジカルブーストで回復させた。もう問題な……」
 かちゃりとA-Sの目の前に突き出したのは、銃口。魔導課から支給されたもののソレだった。
「死にたいのか?」
 真剣な眼差しの新垣に、A-Sは殺気を消し、手を上げた。
「わかった、降参だよ。お前の言う通りにしよう」
「分かればいい」
 しかし、銃はそのままA-Sを離さない。
 A-Sはため息一つ零して。
「大人しくここにいるから、着替えていいか?」
「お、あっ!! す、すまんっ」
 やっと新垣はその銃を仕舞った。
 すぐさま部屋を立ち去ろうとするが、そこで立ち止まり、振り返った。
「もし、聞いていいのなら、お前の本当の名前、教えてくれないか? どうせ、A-Sってのも偽名なんだろ?」
「アスナ・彩敷さいしき・セイファード。それが僕の名だ」
「……え?」


 新垣は部屋を出た。
 そして、A-S……いや、アスナの言った名を思わず、心の中で、反復した。


 ―――アスナだって? よりにもよって、なんで……。


 壁に自分の拳を打ちつけようとして、止めた。
 それをして何になる?
 いや、今は……アスナが病院に居ることを決めてくれたことを喜ぶとしよう。
 新垣はそう顔を上げ、病院を後にしたのだった。



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