マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

三十三話 修復



「もしもし。私です」
『黒島君かね? 噂を聞いたよ。随分とまた派手にやられたそうじゃないか?』
「面目ありません……しかし、見事な戦闘データを取る事ができました」
『そうか。それは良しとしよう』
「ええ、もちろんです。ですが、閣下もお気を付けください」
『何をだね?』
 黒島は答えた。
「当然です。閣下の理想とかけ離れた者に、です。すぐそこにいるかもしれませんからね……」
『私を誰だと思っているのだね? 君こそ、側近に気をつけるべきだよ。まぁ、あとは君の勝手次第だがね。そうそうささやかなるプレゼントを吉岡に持ってこさせている。もうすぐ来る頃だろう……』
 丁度、そのタイミングで、吉岡が、大きなアタッシェケースを持って入ってくる。
「まさかこんな形で再会するとはね……」
 黒島は吉岡に微笑で返したが、吉岡は黒島の腕の吹っ飛び具合を見て、呆れ返っている。
「私も君に会いたいと考えていたよ」
『まぁ、早く治してもらわないといけないのでね……』
「全ては野望の為に! ……ですか?」
『ああ、期待しているよ。黒島くん』
「ええ、では。また……将軍閣下」


 電話を切り、受話器を元の場所に戻した。黒島がいるのは自分の拠点。そしていま、医療用のベッドに寝ている。
 吉岡は寝ている体勢の黒島に告げた。
「適合するかわかりませんが、腕の修理を……」
「訓練戦ではひどい結果だったそうだな。正直、舐めてかかっていただろう? 魔導課を……」
 訓練戦の内容を見事に当てられて、吉岡は口ごもった。
「それは……まぁ、事実だったから仕方がない事ですよ」
「よく将軍に許されたな……」
「いやそうでもないですよ」
 吉岡は左手の手袋を外して、黒島に見せる。
「これが失敗の代償です」
 左手は鋼鉄の手となっていた。
「重いな……」
 外見も内面も吉岡の左手はとても重い物だった。
 黒島も相変わらず腕は吹っ飛んだままで、ある程度の止血でなんとか保っている状態だった。
「さてと次はあなたの右腕を修復する番です。一応、私の作った腕ですからね」
 吉岡はそう言ってアタッシェケース開き、肩まである機械義手を取り出した。
「これは……」
「最新型の義手です。材料はアンタレス材を全て使用している1万度の熱だって耐える事ができるし、何より人間の腕の重さと同じようにしているから動きやすいはずだ。今から取り付ける用意をするので動かないようにしてくださいね」
 吉岡は、黒島の右腕の取り付け作業を始めていく。
「痛いですから、歯を食いしばってください」
 切断された血管と脈、骨を金属パーツと接続する際に、電撃によって神経を繋げるので、激痛は免れない。
 吉岡は一言告げた。
「すぐ終わりますからね」
 黒島は舌を噛まないように、タオルと割り箸を口に挟み、吉岡は接続の作業に移った。
 吉岡は、黒島の頭に電子プラグがついたヘルメットをつけさせる。
 電子麻酔によって痛みが和らぐ可能性があるらしいが、大抵は少ない。
 吉岡はゆっくりと義手のプラグと黒島の腕の肉をつなげていく。
「うううううううググググググググっ!!」
 腕の激痛が黒島の脳を攻撃していく。接続完了までずっと痛みが続いている。
 ゆっくりゆっくりと電子麻酔が痛みを和らげようとするが、全く効果がない。
 数分ずっと同じ痛みがピンポイントで襲い掛かってきた。




 なんとかうまくはまった事に成功し、痛みが引いているのが黒島にも理解できた。
 黒島はすぐさま接続された義手が動くかどうかを確かめていく。
 一本ずつ指を動かしていき、今までどおりの指の動きができているか、重さが左腕と釣り合っているのか、しっかり確かめていく。
 吉岡はパソコンと黒島の腕を確認している。
「……よし。素晴らしい出来だな」
「勿論、我社のオリジナルですからね。その義手は……」
 黒島は微笑み、吉岡に心から感謝した。
「君には感謝しているよ。何から何まで」
「礼は野望達成してからです。また、連絡してください。後の機械操作ぐらいわかるでしょう?」
「ああ。わかってるさ」
 吉岡はそう言って軽く別れを告げて、拠点をあとにする。
 それと同時に自動のドアが開き、赤羽が入れ替わりで入ってきた。
 赤羽は吉岡に一言、「お疲れ様です」と告げて一礼をした。
 彼も軽く、会釈をして、歩いて行く。
 赤羽はベッドで義手の動きを確認している黒島に訊いた。
「調子はどうですか?」
「ああ。だいぶ良くなってきた」
 黒島はベッドから起きて、ゆっくりと腕を確かめていく。
 親指、人差し指、中指、薬指、小指。
 一本ずつがしっかりと動けることを確認し、パソコンから血液の循環、骨との適合をパソコン数値から取り、安全値に達成したことを感じ、ベッドから起きた。
「またそのうち挨拶参りをしなくてはな。魔導課にたっぷりと返さなくてはね」
 黒島は取り付けた義手の動きを確かめるかのように、右手を強く握りしめていた……。

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