マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

二十一話 新たな任務 ‐Training‐

 ―― レッドボックス《日本政府秘密会議場》――


「これは対ロボット殲滅マシン。パルス。ロボットによる暴走、氾濫が多い中、この対策に大いに貢献できるであろう我がヨシオカ・インダストリーズが手がけた最新鋭の兵器です」
 工業用ロボット開発企業の代表、吉岡 久嗣が十数名の国家関係者及び警察関係者に自社製品の殲滅マシン《パルス》をプレゼンテーションしている。
 吉岡は左手で手帳型のミニパソコンで操作し、真ん中の立体プロジェクターで映像を再生する。
 映像には一体の黒いに二足歩行型アンドロイドが映し出されている。
「この映像はパルスを用いた模擬テストです。パルスは人間をモチーフとした二足歩行モデル。自動制御プログラムを搭載している事により、相手の戦闘パターンを把握し、数手先の戦闘を分析。そして相手の行動を理解した後で攻撃を開始します」
 映し出されているテスト映像に、模擬戦闘用ロボットとパルスの戦闘が映し出されていた。
 ロボットは、パルスの顔にめがけて鋼鉄でできた左拳をパルスの顔にめがけて殴ろうとするが、あっさりよけられる。
 パルスは、分析を開始する。
《……分析中……分析中……》
 ①ロボット、数パターンによる攻撃を繰り出す模様


 ②ロボット、行動分析より次の攻撃、左キック12%、右キック11%、左パンチ14% 右パンチ63%


 ③パルス。攻撃方法を選定中……選定中……


 ④パルス、攻撃方法確定。プランを実行。


 以下の分析をたった1秒で完了させ、パルスは動き出した。
 ロボットは再び高鉄の拳をパルスにめがけてぶつけてくるが、パルスはその拳をつかみ、自身の握力でロボットの拳を潰し、左膝蹴りでロボットの胴体を貫いた。
「パルスでのテスト映像でした。ですが、今回は、これだけではありません。パルスは近距離の敵を殲滅しますが、遠距離にいるメカを殲滅するには、少々難しいところがあります」
 吉岡は、パソコンを片手で操作し、プロジェクターの映像を変える。
 映像には、パルスとよく似た赤いマシンが表示された。
「この殲滅マシンは、プラズマ。近接型のパルスとよく似た外面。しかし、能力は全く違います。では、模擬テストの映像に変更しましょう」
 吉岡がパソコンのエンターキーを押すと今度は、廃墟の映像がプロジェクターに写し出された。
「今からプラズマがパルスと同様、検索を開始します」
 プラズマは即、検索を開始する。
《分析開始……分析中……分析中……》
 ①ロボットの数を検索。現時点、6体の敵ロボットを発見。


 ②プラズマ、ロボットの位置及び破壊方法の武器を選定中……選定中……決定。


 ③ロボットに対する発砲許可を確認。


 ④プラズマ、攻撃方法を確定。プランを実行。


 プラズマもパルスと同じ通りに分析を行い、殲滅を始める。背中に付けてあるプラズマ専用のアンチマテリアルライフルを取り出して、構えた。
 映像が流れながら吉岡の説明が加えられる。
「プラズマのライフルには弾がありません。使用するのは電気です。電気を弾丸の様に凝縮させて発射します。およそ1万V。人なんて余裕で死亡する電気量です」
 プラズマは、正確にロボットにめがけて、引き金を引き、弾丸をロボットに発射する。
 青黄色い弾丸は、ロボットにめがけて当たり、電子回路が焦げ付いたのか、ショートし、その場で停止し、倒れる。
「また、ライフルだけではなく、ランチャー、マシンガンを装着。人的なテロの場合は、ゴム弾を使用します」
 プラズマはライフルをしまい、自分の腕に装着してある。ランチャーを取り出し、ロボットに構えて放った。
 ランチャーの弾頭がロボットの顔面に直撃し、大きな爆発を起こした。
 背後にもう一体、敵のロボットが攻撃を仕掛けてくるが、プラズマはかわしてランチャーを下に落として、マシンガンをロボットに青黄色い電気の弾丸を放つ。
 当たったロボットはたちまちショートによる焦げ付きを起こし、機体内部から炎上を始める。


 ……殲滅終了……敵ロボットの全滅を確認。攻撃を終了。


 プラズマは、武器をしまい、機動を停止した。
 映像は終了し、プロジェクターの映像は青い画面に戻った。
「これが我社の兵器です。お気に召されましたかな?」
「素晴らしい!!」
「この兵器は最高クラスだ」
「早速、買い付けよう」
 話を聞き、映像を見た幹部や関係者達は、パルスとプラズマを絶賛した。
 吉岡も兵器の高評価を受け、自分のセンス、プレゼンテーション能力に自惚れしていた。
「殲滅マシンの中でこの二つは最高峰です! 勝てるモノなどありません!!」
「うーん。それはどうでしょう?」
 関係者がパルスとプラズマを絶賛している中で、一人だけ反対者が現れた。
 それは紛れもない警視総監の井伊だった。
「確かにこのマシン達は素晴らしい。しかし、それは、我々が必要としているものとはかけ離れているのでは? そう、国民の安全を最優先にする防護壁となるべく動くマシンだ。このマシンだと場合によってはハッキングされるという事も……」
 吉岡は、パソコンを閉じて映像を切り、数歩先のテーブルに座っている井伊の一言に少し呆れながら答えた。
「あらあら、何をおっしゃるかと思えば、そんなことですか……パルスとプラズマは共に最高性能の自動制御プログラムを搭載し、データシステムも最高峰の物を使っています。ハッキングの心配はご無用です。その防止でハッキングは不可能とされる人工知能を使用しています。そんじょそこらの兵器やアナログ人間とは違うわけですよ」
 井伊は冷静に答えた。
「なるほど、じゃあ聞こう。もしその二つが敵に渡った場合はどう対処するつもりだね? 仮に強奪され、改造される場合とかもあるでしょうよ? 責任は取れるのかね?」
 関係者達の中に、井伊の発言に納得を示す者もいれば、反論する者も現れた。警察庁長官の永倉裕二も井伊の発言に反論した。
「全く君は何も分かっていないな。井伊総監」
「何をです? 長官」
「いいかね? 国民に安全を保障する、それが我々、警察の仕事だ。今は、人口よりもロボットが多くなり、違法ロボットによる氾濫が起きている。これがどういうことがわかるかね?」
 井伊は椅子にふんぞり返りながら答える。
「いいえ。わかりません」
「目には目を。歯には歯を、ロボットにはロボットを、だよ。ロボットに対抗するにはロボットで対抗し、人間がロボットを殲滅する時代は終焉を迎えたのだよ。君が発足した魔法課? 魔導課? か知らんが、話にもならんね」
「残念ですが、魔導課は最高の特殊チームです。こんな拝金主義的な企業の殲滅マシンなど目ではないですね」
 吉岡は、井伊の発言に苛立ちを覚え、反論する。
「ふっ、冗談はよしてもらいたいですね~拝金主義だなんて、魔導課なんて、笑ってしまうような話ですね。魔導課の情報を調べましたよ」
 吉岡は再び、パソコンを起動し、魔導課の情報を流した。
「警視庁魔導課。井伊明仁が発足したアギトを使うウェイカーの特殊チームですか。発足には随分と時間が掛かり、手柄もあげたとしてテロリスト黒島逸彦に重傷を負わせたものの逮捕することはできず、今に至るわけですか……」
「お話にならんね。井伊君。いっその事、魔導課のメンバーを全員、パルスとプラズマに変えたらどうだね? 豪華な見栄えになるよ」
 永倉は井伊に冷たい笑みをこぼした。が、井伊はそれを大きな笑いで吹き飛ばした。
「ははははははは。いや~面白い事をおっしゃってくれる。流石! 警察庁長官だ。しかし、私のチームをそんなポンコツと一緒にしないで頂きたい」
「なっ!?」
 吉岡は思わぬところで攻撃され、反応する。
 永倉は井伊の反応に眉間にしわを寄せた。
「残念ですが、うちの魔導課は、優秀な隊員達がいるのでね。そんなおもちゃを使うつもりは一切ありません。今後共お断りです。では、時間が無駄になってしまいましたね。失礼します」
 井伊は、机の資料を片付け、周りの関係者に一礼し、会議室を後にしようとした。永倉の声で体を止めた。
「待ち給え。井伊総監。確かに、我々からして魔導課についての情報は少ない上に評価しづらい状態だ」
 井伊は永倉の方に顔を向け、言った。
「それで……」
「どうだろう? テストをしてみないかね? 魔導課とパルスで……訓練という形で、井伊総監が作り上げた魔導課と吉岡氏が作り上げたマシンで戦わせる。良いアイディアだろうと思うのだがね」
「なるほど、パルスやプラズマの評価を魔導課の皆さんにつけていただくってわけですね。面白い! 受けて立ちましょう」
 吉岡は、勝ち誇ったような顔を井伊に見せつける。
 井伊は再び、歩き出して会議室のドアノブをつかみ、出ていこうとしたが、吉岡の一言が井伊の耳に駆け巡った。
「おや? 正当な評価をせずに逃げるわけですか~なるほど、どうやらうちの兵器は、魔導課よりも殲滅の腕が良い様だ~」
 井伊は吉岡の一言で気が変わったのか、自分の席に戻り、資料を机の上に置いた。
「吉岡代表、聞き捨てなりませんなぁ~。私はただ魔導課の隊員達に連絡しようと会議室を出ようとしただけですよ。《訓練を行う》って……殲滅マシンVS魔導課によるテストですか……面白い……」
 井伊は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。






――突入事件から3日後 警視庁 第一射撃場 ――


 槙原はいつも通りに射撃訓練を行っている。相変わらず射撃の腕は上達しているのやら、していないのやら。
 ただ一つだけ槙原は確信している事があった。


 自分は射撃が下手だと……


 防音用のヘッドフォンを外し、拳銃を片付ける。
 機械判定によって、射撃の位置についての結果映像が映し出される。
 結果をチラッと見てすぐ結果を消去した。
「ひどい腕前だな。槙原」
 声のする方を見てみるとそこにはジョナサンがタバコを吸いながら立っている。
「余計なお世話だ」
 槙原は、拳銃をホルスターにしまい、サイドバッグからタオルを取り出して火薬の香りをなるだけ少ないようにする為に首当たり顔を拭いた。
 射撃場のスピーカーから連絡が入る。


《魔導課所属職員は至急、警視総監室へ!》


「なんだろうな?」
 ジョナサンは一言だけ槙原に返す。
「分からん。もしかしたら解散かもな……」
「気味の悪い事を言うなよ」
 ジョナサンは軽く笑い、煙草を携帯灰皿に入れる。
「行くぞ」
 槙原とジョナサンは、射撃場をあとにし、警視総監室に向かった。


 ―― 警視総監室 ――


「失礼します」
 槙原は警視総監室のドアを開いて入室する。ジョナサンもその後ろについて入っていく。
 総監室内に既にメンバーの能見、新垣、AーSが待っていた。
「あっ、やっと来た。遅いよ~お二人さん」
 疲れた様に肩をもみながらAーSはそう迎える。
「おはようございます」と新垣は、軽く会釈をして、挨拶をする。
「おはようございます。能見警視。新垣君」と槙原は挨拶し、ジョナサンは二人に軽く手を振った。
「おはよう。槙原君、レインさん。お二人揃って、訓練を?」
 槙原は能見の質問に、軽く笑顔で答えた。
「え、ええ。とはいえ、まだ、一向に上達しませんでしたよ。ハッハッハ」
 ジョナサンは新しい一本、煙草を取り出して煙を更かし出す。
「ふ~やれやれだ」
「ここ禁煙ですよ。レインさん!」と新垣は指摘し、総監室の窓を開けた。
「悪い。つい、吸いたくなっちまって。窓に寄ってるからさ」
 ジョナサンは新垣が開けた窓に近づいて外に向けて煙草の煙をふかしている。
 井伊の微笑ましい表情は変わらず、魔導課の隊員達が揃っているのを確認し、喋り出す。
「さて、君達を呼び出した理由から話そうか……」
 和やかな空気から一変、緊迫した空気になる。
 井伊は、小型のプロジェクターから二つ画面が分割されて映像が流れる。その映像はプレゼンで流されたパルスとプラズマの戦闘映像。
 総監室では、数分ずっと二つの殲滅マシンの戦闘が流れている。
「これは今度、軍や警備組織、それに警察に導入検討されている殲滅マシン。パルスともう片方、赤いのがプラズマだ。これが最新式らしいが、正直、最新式と疑うぐらいのポンコツだな。魔導課のメンバーと比べて」
「その比較いらないですよ。それ」と能見が淡々と井伊に突っ込んだ。
 井伊は突っ込まれながらも話を続ける。
「続けるよ。それで今回、導入検討を含めて、我々、魔導課との模擬訓練が決まった」
「訓練ですか?」と能見は反応した。
 ジョナサンは、ずっと煙草の煙を蒸かしながら井伊の話を聞いている。
 新垣は、ずっとパルスの映像を見ながら井伊に訊いた。
「へ~このロボットと……でも訓練はどうやって行うんですか?」
 井伊は、椅子の背もたれに寄りかかりながら答えた。
「それについては、魔導課のメンバー一人ずつに一体のプロトタイプのパルスかプラズマに戦ってもらうという事になった」
 能見は井伊の発言に驚き、前に出る。
「どういうことですか? それ!?」
「ちょっと待ってください。魔導課の職員に対して相手はロボットです。人間と金属体では大いに違いがありすぎます。この訓練には反対です」
 槙原も否定的な発言をするが、井伊は槙原の発言に一言、返した。
「聞いてくれ」
「?」
「君達にはこの訓練に参加し、乗り切ってもらいたい。その上で、任務を与える」
「任務? ですか?」と新垣は首をかしげながら井伊に訊いた。
「ああ、そうだよ。この訓練を通して、パルスとプラズマのデータを収集して欲しい。できるだけ、どのような動きをするのか、どれだけ反応できるのか……」
 魔道課のメンバーは、井伊の意図を感じ、真剣な眼差しで耳を傾けている。
 それに満足げな笑みを浮かべながら、井伊は話を続ける。
「実はだな。もう一つこの資料を見て欲しい」
 井伊はプロジェクターの画面を切り替えた。プロジェクターに映し出されている映像は、吉岡の顔写真と経歴。
 井伊は映像を見ている新垣に質問した。
「新垣。彼が誰か見当は?」
 訊かれた新垣自身、顔写真の男が誰なのか? 自身の記憶を遡って探したが、見当はつかなかった。
「いえ、何も……」
「情報は大事だからな! 常に耳にしとけ」と井伊は新垣に注意した。
「はっ!」
 新垣は井伊の一言に了解する。そんな新垣を置いて、能見は井伊に顔写真が誰かを答えた。
「ヨシオカ・インダストリーズの代表吉岡久嗣ですね」
 能見の説明に横から槙原が説明を加えた。
「工業用ロボットなど開発している企業ですね? 最近では、業績が急上昇しているみたいですが……」
 井伊は、説明する。
「ああ。表向きはそうかもしれんが、その理由として、裏で軍事にも関与して利益を得ている可能性がある。で、彼にはもう一つ面白い事があるんだよ」
 井伊は映像を切り替えてある大学の写真と白衣の研究者達が並んでいる集合写真を表示した。
「実は彼の出身大学を見てもらいたいんだが、あの黒島逸彦と同じ大学出身で、しかも同じサークルで《科学技術研究サークル 研技会》入学年も同じ同期だよ」
 映像は、元のヨシオカ・インダストリーズの企業ロゴとヨシオカの経歴に戻った。
 A-Sは井伊の発言と映像に流れる吉岡の顔写真を見てなんとも思っていなかったが、企業のロゴが表示された時、表情が一変した。
「こ、これは……」
 AーSの表情に異変を感じた新垣は、話しかける。
「どうした? A-S? 何かあったのか?」
 AーSの心は、新垣の呼びかけどころではなかった。


 あのロゴを初めて見た時を思い出している。
 アギトを習得したあの夜だ。


「お~い! A―S? 大丈夫か?」
 新垣の呼びかけにやっと気づいたのかA-Sは我に返り、ニコッと笑う。
「いや。なんでもないよ」
「あ~いいかな二人共?」と井伊は、A-Sと荒垣の様子を伺った。
 新垣は井伊の反応に謝りながら返す。
「あっ、すいません。失礼しました」
 井伊は話を続ける。
「話がそれたな。で、建前上は訓練とされているが実質は殲滅マシンを導入するかどうかを検討するテストだよ。君達にはあのガラクタを片付けて欲しい。未だロボの暴走が終息できていないのに、マシンを導入してさらなる混乱を招くのは目に見えている」
 ジョナサンは煙草をふかしながら井伊の発言を自分なりに要約して答える。
「つまり、俺達があのマシンを潰して、おもちゃにする……これが任務だな?」
 井伊は首を縦に振って言った。
「ああ、そうなる。魔導課の力を見せつけてやれ!」
 槙原は井伊の言葉から新たな戦いが始まる事を感じていた。






―― メガロポリス東京 ルート345 ――


 一台の車が国道を走らせている。車には、ある企業のロゴマークがボンネットに貼られている。


 《yoshioka Industries》


 車内では、運転手の他に一人の男が後部座席に座り、誰かと電話している。
「ええ、パルスはまもなく市場に出る一歩手前に来ましたよ」
『ほう。それは楽しみにしているよ』
「勿論、ここまで来れたのはあなた様のおかげです。ありがとうございます」
『君には大いに期待しているよ。もっと面白い結果が出るかもしれないからね。奴らの能力を引き立てるには最高の起爆剤だろう』
「ええ、結局、黒島の奴は能力を引き出したと言って、雲隠れ……組織に貢献したとは考えられません。まぁそのおかげで魔導課の試験管ベイビーウェイカー達の情報を集める事ができました」
 吉岡は、電話越しに軽く笑った。
 電話相手は、吉岡に言った。
『奴も奴なりの思惑があったのだろう。まぁいい。それよりも井伊という男。かなり厄介だな。よく注意しておく事だ』
「yes sir General (承知しました。 将軍閣下)」
 電話を切り、左片手に持っている携帯型電子パソコンに魔導課のメンバーのリストが表示されているのを見て、ほくそ笑んだ。
「井伊明仁……面白い男だ……」


 車はそのまま、会社のある町へと走らせていった。





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