マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―
二十話 説得
目を覚ました時、真っ先に国崎の視界に入ったのは、見慣れた天井だった。
彼はしばらくそのまま、天井を見つめ続けていた。
「黒島……」
遂に、あの男の姿を捉えることができた。
そして、あの男に傷を負わせることができた。
その紛れもない事実が、国崎の心に少なくない希望を与えていた。
だが、国崎はその程度では満足していなかった。
「何としてでも……」
思わず、拳に力が入るのを国崎は自覚していた。
彼の本旨はあくまでも黒島の抹殺。
それが彼に残された生き甲斐の一つだ。
彼の性格上、それを果たすためならば、自分の命を抛っても構わない、と考えるだろう。――彼が一人ならば、だが。
そんな時、彼の部屋の扉が数回ノックされた。
「入っていいぞ」と国崎は身を起こしながら言う。
入室してきたのは、メイド服を着た女――顔立ちは少女と形容した方が正しいか――だった。
彼女は、国崎に残された、もう一つの生きる理由。
『おはようございます。亮平様』
「おはよう……って時間でもないけどな。まあ、とりあえずおはよう、フィグネリア」
国崎は、腕時計に目をやりながら、そう言った。
時計の針は、今が昼過ぎであることを示している。
「寝過ぎたな」と苦笑しながら、国崎は立ち上がって、寝室から出ようとする。
『亮平様、今日もお出掛けになるおつもりでしょうか?』
フィグネリアの言葉がその足を止めさせた。
『お言葉ですが、傷も魔力も癒えていません。先の黒島逸彦の拠点へのご潜入でしたって、何度無茶をなさりましたか……』
「フィグネリア」
国崎はフィグネリアの言葉を遮った。
「皆まで言うな。言われても、俺が耳を貸さない事は分かっているだろう」
『ですが……』
「言うな。これは命令だ」
国崎の『命令』という言葉に、フィグネリアは『思い』でなく、プログラム的に黙らされた。
「お前が心配をしてくれているのは分かっている。だけど、無茶でもしなきゃ、あいつを殺せない」
国崎はフィグネリアの方を向こうとしなかった。
頭に血が上って、顔が赤くなっているのがばれてしまうからだ。
「今はまだ近くにいるはずだ。今ならあいつの足取りはつかめる」
国崎は、そう言って扉を開けた。
「君にも、そんな人間らしい顔ができるんだね」
国崎は不意な人影に、反射的に身構えた。
「A-S……」
扉の先で待ち構えていたのはA-Sだった。
『十時ごろにいらっしゃったので、安全を確認してから、ご訪問を許可させていただきました。勝手な判断をして申し訳ございません』
フィグネリアが国崎の背後でそう言うのが聞こえた。
「何の用だ?」
「君が心配になったから訪ねさせてもらったよ。件の事もあるしね」
A-Sの言う『件の事』というのは恐らく国崎が抱きついた際のあの反撃だろう。
A-Sは自分で言っておきながら、それを思い出して頬を染めた。
「あれは、悪かったよ」
「お、おう」
対する国崎も、照れ臭そうに頬を掻いた。
「それで、君は今からどこに行くつもりだろうか?」
「関係ないだろう」
「黒島がいるであろう場所を虱潰しに回るつもりかい?」
国崎はその台詞に言葉を窮してしまった。甘い、というか、まだまだ若輩である彼にとっては仕方のないことなのだろう。
「どうやら、そのつもりのようだね」
「だったら、どうする?」
「止めておけ、と言わせてもらう」
「断る、と言えば?」
「手荒な真似をしてでも止める」
しばらく、国崎達は睨み合っていた。
先に白旗を上げたのは国崎の方だった。
「……分かったよ。今日は家からでない」
「本当かい?」
「嘘を吐いてまで、行こうとはしない。さっき、フィグネリアにも止められたしな」
「それは良かったよ」
A-Sは満足そうに頷いて、「じゃあ」と持ってきた手荷物を持った。
「待て」
立ち去ろうとするA-Sの背中を、国崎は呼び止めた。
「俺の代わりに、お前が無茶をするのは無しだぞ」
A-Sは考えていた事を見抜かれて、気まずそうに「もちろんだよ」と返した。
「じゃあ、フィグネリア。国崎の事は任せたよ」
『畏まりました。ではお送りします』
フィグネリアがついていこうとするが、A-Sは首を振った。
「構わないさ。国崎が無茶しないように見張っていてくれ」
『はい』
そう言ってA-Sは国崎の事視界の及ばないところへ歩いて立ち去った。
「フィグネリア」
A-Sの姿が見えなくなってしばらくして、国崎はフィグネリアの名を呼んだ。
『前言撤回以外のお言葉でしたらお聞きします』
フィグネリアはやはり感情の起伏のない声でそう言った。
「……さすが早苗のプログラムだな」
国崎はフィグネリアの強かさに溜め息を一つ漏らした。
彼はしばらくそのまま、天井を見つめ続けていた。
「黒島……」
遂に、あの男の姿を捉えることができた。
そして、あの男に傷を負わせることができた。
その紛れもない事実が、国崎の心に少なくない希望を与えていた。
だが、国崎はその程度では満足していなかった。
「何としてでも……」
思わず、拳に力が入るのを国崎は自覚していた。
彼の本旨はあくまでも黒島の抹殺。
それが彼に残された生き甲斐の一つだ。
彼の性格上、それを果たすためならば、自分の命を抛っても構わない、と考えるだろう。――彼が一人ならば、だが。
そんな時、彼の部屋の扉が数回ノックされた。
「入っていいぞ」と国崎は身を起こしながら言う。
入室してきたのは、メイド服を着た女――顔立ちは少女と形容した方が正しいか――だった。
彼女は、国崎に残された、もう一つの生きる理由。
『おはようございます。亮平様』
「おはよう……って時間でもないけどな。まあ、とりあえずおはよう、フィグネリア」
国崎は、腕時計に目をやりながら、そう言った。
時計の針は、今が昼過ぎであることを示している。
「寝過ぎたな」と苦笑しながら、国崎は立ち上がって、寝室から出ようとする。
『亮平様、今日もお出掛けになるおつもりでしょうか?』
フィグネリアの言葉がその足を止めさせた。
『お言葉ですが、傷も魔力も癒えていません。先の黒島逸彦の拠点へのご潜入でしたって、何度無茶をなさりましたか……』
「フィグネリア」
国崎はフィグネリアの言葉を遮った。
「皆まで言うな。言われても、俺が耳を貸さない事は分かっているだろう」
『ですが……』
「言うな。これは命令だ」
国崎の『命令』という言葉に、フィグネリアは『思い』でなく、プログラム的に黙らされた。
「お前が心配をしてくれているのは分かっている。だけど、無茶でもしなきゃ、あいつを殺せない」
国崎はフィグネリアの方を向こうとしなかった。
頭に血が上って、顔が赤くなっているのがばれてしまうからだ。
「今はまだ近くにいるはずだ。今ならあいつの足取りはつかめる」
国崎は、そう言って扉を開けた。
「君にも、そんな人間らしい顔ができるんだね」
国崎は不意な人影に、反射的に身構えた。
「A-S……」
扉の先で待ち構えていたのはA-Sだった。
『十時ごろにいらっしゃったので、安全を確認してから、ご訪問を許可させていただきました。勝手な判断をして申し訳ございません』
フィグネリアが国崎の背後でそう言うのが聞こえた。
「何の用だ?」
「君が心配になったから訪ねさせてもらったよ。件の事もあるしね」
A-Sの言う『件の事』というのは恐らく国崎が抱きついた際のあの反撃だろう。
A-Sは自分で言っておきながら、それを思い出して頬を染めた。
「あれは、悪かったよ」
「お、おう」
対する国崎も、照れ臭そうに頬を掻いた。
「それで、君は今からどこに行くつもりだろうか?」
「関係ないだろう」
「黒島がいるであろう場所を虱潰しに回るつもりかい?」
国崎はその台詞に言葉を窮してしまった。甘い、というか、まだまだ若輩である彼にとっては仕方のないことなのだろう。
「どうやら、そのつもりのようだね」
「だったら、どうする?」
「止めておけ、と言わせてもらう」
「断る、と言えば?」
「手荒な真似をしてでも止める」
しばらく、国崎達は睨み合っていた。
先に白旗を上げたのは国崎の方だった。
「……分かったよ。今日は家からでない」
「本当かい?」
「嘘を吐いてまで、行こうとはしない。さっき、フィグネリアにも止められたしな」
「それは良かったよ」
A-Sは満足そうに頷いて、「じゃあ」と持ってきた手荷物を持った。
「待て」
立ち去ろうとするA-Sの背中を、国崎は呼び止めた。
「俺の代わりに、お前が無茶をするのは無しだぞ」
A-Sは考えていた事を見抜かれて、気まずそうに「もちろんだよ」と返した。
「じゃあ、フィグネリア。国崎の事は任せたよ」
『畏まりました。ではお送りします』
フィグネリアがついていこうとするが、A-Sは首を振った。
「構わないさ。国崎が無茶しないように見張っていてくれ」
『はい』
そう言ってA-Sは国崎の事視界の及ばないところへ歩いて立ち去った。
「フィグネリア」
A-Sの姿が見えなくなってしばらくして、国崎はフィグネリアの名を呼んだ。
『前言撤回以外のお言葉でしたらお聞きします』
フィグネリアはやはり感情の起伏のない声でそう言った。
「……さすが早苗のプログラムだな」
国崎はフィグネリアの強かさに溜め息を一つ漏らした。
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