マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

十三話 再会と報告

 国崎 警視庁突入 2時間前


 槙原と井伊の両名は、横須賀で待つウェイカーのジョナサンを迎えに車両を走らせていた。
 こういう事になったのは、いきなりの事で……


  ―― 2時間20分前 総監室――


「槙原君。君、英語は得意だったよね?」
「え、あ、はい。英語は大丈夫ですが、何か……?」
 唐突な質問に戸惑ったが、井伊は話を続ける。
「これからアメリカのウェイカーを、この魔導課に迎える為に横須賀へ行く事になったんだ。来てくれるかい?」
「えっ!? ええ……」


  ――――――――――――――――――――


 槙原は運転しながら、後部座席に座っている井伊に、ジョナサンについて訊いた。
「総監。横須賀で迎えるジョナサン・レイン氏とはどういうご関係で?」
 槙原の質問を訊いた井伊は軽い口調で答えた。
「何年前だったかな? 随分前に、米と日本で合同演習を行なっていた時にちょうど射撃大会があってね。僕は出場することになってね。準決勝の相手が今、迎える男ってわけ……」
 槙原は井伊とジョナサンの知合った経緯について、理解した。
話は続いてく。
「それで、あいつには手こずってね。なんとか勝たせてもらったよ。あの時に酒代をかけててね。負けた奴が勝った奴に奢るって簡単な勝負だったんだけど、あんなに強いとはね。まぁ、結局は僕が勝ったけどね」と井伊は大人気ない様な事を言って勝ち誇っている。
 槙原は呆れながら、車を走らせた。メガロポリス東京はワープホールが使用不可となり、交通手段がほとんど限らてしまっている。昔懐かしの鉄道もワープホールが出来てからは、ほとんど利用されなくなり、廃線の一途をたどっていた。
 井伊は車の窓から東京―神奈川間の風景を眺めていた。


《すっかり変わってしまったな。ここも……》


 それから数十分、車を走らせ、横須賀に入った。
「総監入りましたよ。横須賀に……」
「そうか。運命の再会も、あと少しなわけだね。あ、そこを左ね」
「はい」と槙原はハンドルを切る。
 そうこうしているうちに二人の乗った車は米軍の駐留基地に着いた。槙原の見える景色に大きな戦艦が映っている。
 車を基地の駐車場に停め、二人は降りた。
「お待ちしていましたよ。ミスター井伊」
 槙原と井伊は声のする方に視線を向けたそこには、マルボロの煙を蒸しながら手を振っているスーツの男が一人、立っていた。
 井伊はその男に挨拶をした。
「やぁ、マイク。あの件以来だな」
「見ない顔だな。新人か?」とマイクは首に槙原を指し、井伊に訊いた。
「ああ、紹介がまだだったな。彼は……」
「魔導課所属の槙原です」と軽くマイクに向けて会釈をした。
 マイクは、煙草をコンクリートの床に落とし、燃え続けている煙草を靴でふみにじった。
 マイクの行動を井伊は少し眉間にしわを寄せながら注意した。
「おいおい、環境を汚しちゃ駄目だよ」
「今の世界に環境なんざぁ、二の次ってやつですよ。どうぞ、こちらへ、中尉は会議室にいます」とマイクは返し、二人を基地内のビルの入口を指して二人の案内をする。
 槙原は、マイクの後ろについていく井伊の隣に並びながら歩いていく。
 会議室は意外と近かったらしく数分もせずに到着した。
「ここが会議室。中尉は中にいますから、感動の再会ってやつをどうぞ中で……」とマイクは、二人の隣にずれた。
 槙原は井伊に手で先にどうぞと示され、会議室に入った。
「失礼します」
 中は広く、会議用のテーブルが占拠している。
「おお、待ってたぜ。遅かったじゃないか」
 流暢な英語が槙原の耳を襲う。声の方に視線をやると、そこには銀髪の長身の男がプカプカとラッキーストライクの煙を蒸している。


《この男がジョナサン・レイン?》


「あれっ? お前は誰だ?」とジョナサンは煙草を灰皿ケースにしまい、槙原に訊いた。
「おおおおおお! ジョナサンか!? 久しぶりだなぁ!」
 槙原は隣の井伊の表情がいつもより笑顔である事に戸惑った。
「アキヒト? 明仁か!?」
 ジョナサンと井伊、お互いが近づき、アイコンタクトで挨拶をした。
「この野郎。生きてやがったかな」とジョナサンは井伊に呟いた。
「お前もしぶとく生きてたか……」
 井伊はそう言って微笑みで返した。
「感動の再会を邪魔して申し訳ないのですが……」
 感動の再会を果たした二人においてけぼりにされた槙原は、自分の存在を大きく表すように言った。
 井伊は槙原の声に気づき、軽く謝ってジョナサンに自分の部下を紹介する。
「あ~~ごめん。ジョナサン、紹介するよ。彼は私の部下の……」
「槙原です。どうぞよろしく」と英語で挨拶をしたが、ジョナサンから意外な言葉で帰ってくる。
「ああ、日本語で大丈夫だ。英語はあんたらにとって辛いだろ? 俺も日本に駐留した経験があるから日本語は得意な方でね。安心してくれ」と流暢な日本語で槙原に返した。
「井伊さん、元から僕いなくても大丈夫じゃないですか!!」と言うと、井伊は笑いながら返した。
「いや~すまないね。忘れていたよ。ははははは。これで魔導課のメンバー、一人目の顔合わせも軽く終わったからこれから警視庁に戻ろうか。早くジョナサンに私の部下を覚えてもらわないと行けないからね」
「ああ、よろしく頼む」とジョナサンは返した。
「中尉、分かっているな。くれぐれも注意してくれよ」とマイクは返した。
「ああ、勿論さ」
「総監。中尉の荷物は既にトランクに積んであるあとは君達がうまく運ぶだけだ。彼を……」
「ミスターアームストロング。お任せ下さい。こちらに最高の部下がいますので……」と井伊はマイクに返し、不敵な笑みをこぼす。
 マイクは再びマルボロを口に咥え、軽く笑みをこぼして、会議室から出て行った。
「なぁ、ジョナサン」
「なんだ? 明仁」
「さっき、彼はなんて言ったんだ?」と井伊はマイクが言った言葉を理解していなかった。
「あいつは俺達に頑張れって言ったんだろうよ」とジョナサンは返した。
「あ、ごめん。電話だ」と井伊は制服の胸ポケットから振動しているメモリーカード型の連絡機を取り出した。


 電話の相手は能見。


 井伊は連絡機を耳に当てた。
「はい。私だ」
『能見です。お話が……』
「話とはなんだね?」
『警視庁を襲撃されました』
「なんだって!? それで……」
『なんとか事態を収拾しました。他の警官達も無事です。ですが……』
「どうした?」
『一人の警官が暴れ出し、拘束しました。現在、暴れた警官を取り調べ中です』
「そうか。ご苦労様。この報告は戻って聞こう。新垣君は無事かね。君は大丈夫か?」
 井伊は能見の話を聞いて、新垣達ウェイカーの心配をしていた。
「なぁ、誰と話してるんだ?」とジョナサンは遠巻きで槙原に訊くと、槙原は井伊が通話をしているところを見ながら、答えた。
「能見さんですよ。僕と同じ魔導課に所属している仲間です。あなたと同じウェイカーの方ですよ。能見さんから電話があったって事は何かあったのかな……」と槙原は言って、井伊が能見と通話しているのを見つめていた。
 能見は電話越しで井伊の問いを返してくる
『私は大丈夫です。新垣も軽傷を負っただけですから大丈夫です。あ、あと、今、警視庁の方に国崎って言うウェイカーの青年とメイド型アンドロイド一体が魔導課の方で保護していますが、どうしましょうか?』
 井伊は、国崎と言うウェイカーについて能見が発した瞬間、目が光った!
「なんだって!? もう一回言ってくれ!」
 能見は、井伊の大きな反応にびっくりした。
『えっ? いや私は大丈夫……』
 井伊は電話越しで軽く首を横に振った。
「違う! 違う! その後だよ。警視庁の方で何とか崎がってところ! なんて言った?」
「え、いや、国崎っていうウェイカーとメイド型アンドロイドを一体、保護していますが……」
 井伊は微笑んだ。その通話の様子を見ていた槙原は、職場ではあまり見ない井伊の微笑みに不気味さを感じた。
 能見もまた、電話越しであまり見せない反応をした井伊に対し、戸惑った。
 井伊は我に戻り。
「そうか。もしその青年が魔導課のメンバーとして来てくれる事はありがたい事だが、会ってみないと分からないね。分かった。実際、会って話してみて考えるよ」と能見に返した。
『は、はぁ、わかりました。では……』
「うん」と井伊は、電話を切り、連絡機を胸ポケットにしまいこんだ。
「さっきのは、能見さんからですか?」と槙原が訊くと、井伊は「よっしゃ!!」と大きく喜んだ。
 ジョナサンは何に対して井伊が喜んでいるのか理解できなかった。
 井伊は高鳴る自分のテンションを深呼吸で落ち着かせた後で、槙原の問いに答えた。
「うん。能見君からだったよ。警視庁で問題が起きたって……」
 槙原は井伊の言葉に驚いた。
「えっ!? 能見さん達は大丈夫だったんですか? 新垣君は!? 何で喜んでるんですか!?」
「おいおい、人の話は最後まで聞いてくれよ。彼女も彼も無事だよ」
「そうですか~良かった~」と槙原はほっとし、胸をなでおろした。
 井伊は、自身の喜びを槙原にぶつけた。
「で! 喜ぶところは他にあってね。さっき魔導課に入りそうなウェイカーとお付きのアンドロイドも警視庁にいるらしいと彼女から聞いたんだ。これは魔導課のメンバーが増えるっていう神のお告げだね」
「えっ? 新しいウェイカーですか? もう入るって言ってたんですか?」
 槙原は井伊の言葉に更に突っ込んだ質問を言っていたが、井伊は聞いていなかった。
「あの~お取込み中で悪いんだが、どういう事か教えてくれないか? アキヒト!」
 この間の会話について全く把握できていないジョナサンに気付き、事情を説明していた。
「ああ、すまないジョナサン。ちょっとした野暮用でね。もう大丈夫だよ」と井伊はジョナサンに軽く微笑んだ。
「そうか。そりゃよかった」
「さて戻ろうか。槙原君」
「えっ……は、はい……」
 槙原は会議室を後にして駐車場に向かっていく。
「魔導課は楽しい所だ。お前も時間が経てばなれるだろうよ」
「そうか。ちょっと訊いていいか?」とジョナサンは井伊にある事を訊いた。そのある事はジョナサンにとって大事なことだった。
「なんだ?」
「その魔導課って禁煙か?」とジョナサンは井伊に分かる様に、煙草を口に咥えたが、井伊からの答えはジョナサンを落ち込ませた。
「いや、魔導課は全面禁煙だよ。ただ吸えるとしたら屋上だな!」
「そうなのか……」とジョナサンはくわえていた煙草を元の箱に戻し、軽く落ち込んでいた。




  ――――――――――――――――――


 ジョナサンを車に乗せ、再び警視庁に戻ろうと車を走らせていた。
 懐かしい話を車中でしながら、槙原も話を聞きながら運転をして、ジョナサン・レインがどういう男か分析している。
「あの時の射撃は俺も感服したよ。やつは強かったな」
「ああ、あいつかでも結局は僕に負けただろ」
「確かにな。はっはっはっは」
「ははははは。ああ、すまない。電話だ」と井伊は、制服の胸ポケットから振動しているメモリーカード型の連絡機を取り出した。
 電話の相手は、能見だった。
 井伊は連絡機を耳に当てた。
「はい。私だ」
『井伊総監。能見です。突入作戦は無事に成功に終わりました』
「そうか。ご苦労様だったね。お疲れ様」
『ありがとうございます。しかし、問題が発生しました。高月警視正が……』
 井伊は、能見が口ごもった事で高月の運命を知り、一言返す。
「そうか。彼については残念だよ。信用していたのに……警察関係者を全部あらう必要があるな」
 井伊が言った言葉に、能見は電話越しで理解した。
『ええ、もしかしたら、黒いシミがのけきれていない可能性があります。それも大きなシミが……』
 井伊は軽くため息を付き、能見の電話を一言、告げて切った。
「そうだね。きれいに洗い流さないといけない様だ」
『とにかく我々は、本部に戻ります』
「うん。後始末は捜査一課に任せておけ。面倒だからね。高月の事はマスコミに伏せてくれ。色々と嗅ぎつけられるとまずい。今後の事は本部に戻って話す」
『分かりました。では、本部で』と能見は連絡を切った。
「大丈夫か? 顔色が優れていないが……?」とジョナサンは井伊に訊いたが、井伊は電話を切り、連絡機をポケットの中に入れて仕舞った後、微笑みで返した。
「なぁに、ジョナサンが心配することではないさ。安心しろ」とシートに背中を預け、車窓から見える神奈川の海を見つめていた。
 槙原は心配そうルームミラーに写る井伊を見ながら運転している。
「そうか。ならいいんだ。早く魔導課とやらを見てみたいもんだよ」とジョナサンは呟いて、井伊の隣でタバコの煙を蒸していた。







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