公爵令嬢の復讐劇

中島鏡花

地下牢での再会

床に埋め込まれている石製のプレートを退ける音が聞こえて俺は目が覚めた。
天井と壁の間の辺りにある手の平サイズの鉄格子から外を見ると、もう外は日が暮れたようだ。

誰もここに来た形跡は無い。
もう、何時間も過ぎたのに俺がまだ生きていると言う事は、旦那様は俺を処刑するかどうか迷っていると言う事だ。
まあ、どっち道もうソフィアと一緒にいる事は叶わないだろう。

俺が密告する事を想定して、オリバーはあんな事を言ったのかもしれない。
そして、俺はその罠にまんまと嵌った。
自分が情けなく思える。

一年前もそうだった。
俺がソフィアの事を名前で呼んでいたのをオリバーに聞かれた。
そして、その日からソフィアと一緒にいる時、誰かに見られている気配を感じるようになった。
そして、オリバーの思惑通り俺はソフィアを名前で呼ばなくなり、徐々に会う時間を減らして彼女を傷つけた。
でも、その事をあまり後悔はしていない。
なぜなら、もし、旦那様の耳に俺がソフィアの事を名前で呼び、従者と主以上の関係にある事を知られれば、もうソフィアと一緒にいられなくなるのかもしれない。
そして、もし何かあった時、彼女を護り、支えてあげあれなくなるかもしれなかったのだ。
勿論、ソフィアと会わなかった時間を無駄に過ごした訳ではない。
俺は屋敷の図書館で歴史、物理、数学、地理などの学業に励み、剣や弓からの射撃の腕を鍛えた。

まあ、それももう意味の無かった物になるのだろうが...

「ソフィア...」

俺はもう二度と会えないだろう愛しき少女の名前を呟く。

すると、プレートが外れて、俺が一番会いたかった相手が現れたのだ。

「やっと取れた。」

彼女は疲れたのか、ため息をつき、俺を見て笑う。

「良かった、無事だったのね。」

彼女はよいしょと言いながら地下通路から上がる。
俺はこれが最後に見る事が許された夢が幻に見えた。


  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

確か地下牢はここら辺だったと思い、私は辺りを見回した。
そして、思った通り、階段が天井に向かって伸びていた。
私は天井を押して、開こうとするが、床が石製になっている為か、重くなかなか退けられない。

「ソフィア...」

切なそうに私の名前を呼ぶ声が聞こえて、心臓が跳ねた。
危うく階段から落ちるとこだった。

「えい!」

私が勢いよく押し上げると、やっと床を退ける事が出来たのだ。

「やっと取れた。」

私が呟くとデリックは有り得ないとでも言いたげな目で私を見つめていた。

「良かった、無事だったのね。」

見た所怪我が無くて少し安心した。
私は腕に力を込めて地下牢から上がり、そして、さっきメアリに貰った牢屋の合鍵をドレスのポケットから取り出す。
もうドレスは埃塗れで、ボロボロだ。

「さあ、早くここから出るわよ。」

私がそう言い牢屋の鍵を開けると、デリックは我に返り、口を開く。

「こんな所に来ては旦那様が心配なされます。お戻り下さい、お嬢様。」

彼は私を見ずに言う。
私はデリックのその態度にイライラする。

「何で、そんな言い方するの?
さっきは前みたいに名前で呼んでくれたじゃない!」

彼は私の言葉に素早く驚いた様に私を見る。
彼の目は見開かれていた。

「聞いていたの。」

「聞こえただけよ。」

デリックは黙り込む。
10分程私達の間に沈黙が流れる。
私はこのシーンとした空気が嫌で、言葉を発しようと口を開く前にデリックが沈黙を破った。

「上で何か起きている。」

確かに少し焼け焦げた匂いが微かにするし、遠くから悲鳴のような声も聞こえる。
デリックは牢屋から出て、私の手を取る。

「絶対俺の側を離れないで。」

彼はしっかりとした強い口調で言う。
そして、地下牢の木製の扉を蹴り破り、私の手を引いて階段を上がる。

いくら時が経てもその悪夢のような景色を忘れる事は出来ないだろ。
廊下に出た時に私達が見たのは地獄絵図の様景色だったのだ。

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