学生 トヨシマ・アザミの日常
1-7
コンコン、とハッチをノックする音が聞こえた。
アザミがコックピットハッチを開けると、ハルザが顔を覗かせてきた。
「少し、良いか?」
「大丈夫だよ。 立ってるのもなんだし、シートに座りなよ」
アザミはシートから立ち、ハルザに示した。
ハルザは「そうする」と答えていたが、その表情はどこか暗い。
「実機が来たから、こうしてハルザと一緒に居ることもできなくなるね」
アザミはいつも通りハルザの膝の上に座り、ハッチを閉める。
ハルザの様子がいつもと違うせいで、妙なプレッシャーを感じていた。
「ああ」
ハルザは淡々と答える。
「どうしたの?」
アザミが聞いても、ハルザは答えない。
「答えないなら、答えないでいいよ。 わたしはマルレのデータでも見てるから」
マルレのモニターに触れ、データを呼び出しながらアザミは言う。
「アザミ」
アザミを呼ぶ声と共に、ファスナーを下ろす音が聞こえた。
アザミ自身は、その音に気づいていない。
「ん?」
「こっちに向いてくれ。 体ごと」
「別にいいけど?」
ハルザとシミュレーターをしていた時と同じように、アザミは向かい合うようにして座り直した。
そして気付いた。
ハルザは、なぜかスーツのファスナーを下ろしていた。
はだけた部分からは、ハルザの逞しいボディが覗いている。
「なんでインナー着てないんだよ」
「なんだか暑くてな」
ハルザは笑いながら、アザミの右腕をさり気なく掴んだ。
少し強い力で、簡単にはほどけないように。
「ハル……ザ?」
アザミを見つめるハルザの目は、その表情は、獲物を捕まえて悦ぶ……あるいは、獲物にかぶりつく寸前の猛獣のようだった。
「怖がらなくていい」
アザミの心臓が激しく鼓動する。
そして視線を下に移動させて確信した。
ハルザはファスナーを最後まで下ろし、張りつめた自身を引き出している。
いつか見た時より遥かに立派になったそれは、先からどろりとした透明な蜜を溢れさせていた。
そしてアザミは察する。
そうか……ハルザはボクに欲情しているんだ。
 
――
ハルザの右手が、アザミのスーツのファスナーを下ろす。
だが、アザミは抵抗しなかった。
心の中にいるもう1人の自分、すなわち本能が、これから何が起こるのかを知りたがっている。
「ねえ、まだお昼だし、授業中だよ?」
声を震わせながら、アザミは言った。
「マルレはオレのIDでロックした。 外部からの命令も受け付けないよ。 通信はできるがな」
通信しようとすれば邪魔するんでしょ。
アザミは心の中で言った。
「なぁ、アザミ。 オレ、お前のことが……」
ハルザが言い終わる前に、アザミはハルザの口を左手で塞いでから、親指を口内に突っ込んだ。
その言葉は、順番も無視して、最初から行為に及ぼうとしている人が言っていい言葉じゃない。
「わかった。 言わないよ」
アザミが考えていたことを察したのか、ハルザは笑った。
そして、青白い舌がアザミの親指をねぶる。
親指が感じ取ったぬめりと微熱に驚き、アザミの手がぴくりと反応した。
「でもさ、おかしくない? 順序ってものがあるでしょうが」
「普通ならそうなんだろうが……お前に触れたいという欲求に負けた」
ハルザは話しながらアザミのシャツをまくり、尖った自分の爪で傷付けないように優しく、丁寧に、素肌に触れる。
アザミは慣れない感触に怯え、声を必死に押し殺した。
「アザミ」
ハルザはアザミを呼び、アザミが答える前に彼を引き寄せ、唇を奪った。
観覧車の時のキスとは違う、ゆっくりとしたキスの中で、アザミはハルザの唇の感触を、熱を、自分の唇で覚えていく。
「どうする? 続けるか?」
一旦キスをやめたハルザが、含みのある笑みを浮かべた。
アザミはハルザの上に座り直し、パイロットスーツの上だけを脱ぐ。
「続けて……みたい」
アザミが答えた直後、ハルザは再び荒々しいキスをした。
ハルザは手のひらでアザミの顎を包み、舌で口内をかき回し、初めての感覚にアザミは震える。
そして、アザミの手は自然とハルザの体を撫でていて、ハルザは優しくアザミの手を握り、誘導する。
そして、勃ち上がった自身に触れさせた。
「強く握るなよ」
ハルザは、にやにやと笑いながら、アザミの首筋にキスをする。
「うるさい」
アザミは顔を赤くしながら、ハルザの自身を優しく握った。
少し手を動かすと、指に先走りが絡みつき、ハルザは荒々しく息を吐き出した。
「アザミは……ダメか?」
「え、いや……あの……」
ハルザは、アザミのショートパンツに触れ、なにかに気づいた。
「お前。 やっぱり男だったのか」
「……うん」
アザミは、幼い頃から同性に対してのみ好意を抱いていた。
だが、LGBTを嫌う集団が、自宅近所の公園で毎日ヘイトスピーチを行っていたのだ。
ヘイトスピーチを行う彼らを恐れたアザミは、次第に他人との接触を避けるようになる。
だが、デザイナーズベイビーとして作られた影響から、アザミは男女どちらにも見える容姿に成長してしまった。
何もかもが歪な自分が嫌いで、他人に歪さを指摘されるのが怖くて、小学校と中学校はずっと保健室登校。
士官学校に転校する際は、性別を非公開とし、制服もジェンダーレスタイプのものを着用した。
そして、友とは一定の距離を置き、察したエリサ達もアザミを気遣い、深く関わることはなかった。
「この音……」
互いの服を脱がせ合おうとしていた直後、けたたましいサイレンが聞こえてきた。
演習や30年前の映像で聞き慣れたサイレン。
だが、現実では絶対に聞きたくないものだった。
「ズーシャルの出現を知らせる警報だと!?」
ハルザはパイロットスーツを着なおし、シートから立ち上がってアザミを座らせた。
「30年ぶりだね。 なんで今更出てきたんだろ」
アザミはパイロットスーツのファスナーを上げ、着心地を確認する。
そして、網膜投影用デバイスを兼ねるヘッドセットを着け、マルレを起動させた。
マルハに搭乗したハルザも、同じように機体を起動させている。
「アイツらの考えてることなんざ、誰も理解できねぇよ」
「言えてる」
マルレもマルハも、全ての武器が実戦用の装備になっていて、燃料も満タン。
永久機関『ザーフォウ』の出力も安定していた。
「ズーシャルの位置は?」
「ここから近い海岸だ。 種類は不明だが、進路予測だと第1演習場に向かってるらしい」
第1演習場にはエリサたちが居る。
実機訓練用のズムウォルトは、運用には問題無いものの、品質検査に落ちたパーツで組み上げられた機体だ。
訓練用の機体のため、出力はオリジナルから30%も抑えられ、固定装備であるコンバットナイフも外されている。
パイロットも訓練生。
実戦には耐えられないだろう。
「アザミ、基本を忘れるなよ。 オレたちはズーシャルを足止めするだけだ。 倒すのが目的じゃないからな」
「わかってる。 連絡はアイツらのところへ向かいながらするよ」
アザミは少しだけ怒っていた。
ズーシャルが、あの化物共が、2人だけの時間を邪魔したからだ。
「怒ってるのか?」
「怒る? 誰が? 別にハルザとの時間を邪魔されたからって、ヤツらを叩き潰そうとかそんなこと、考えるわけないでしょ」
アザミの言葉に、ハルザは肩をすくめた。
「……怒ってるんだな。 オレにはわかるぞ」
「おお、こわいこわい。 でも無茶はしないからさ、怒るのは許して」
アザミがコックピットハッチを開けると、ハルザが顔を覗かせてきた。
「少し、良いか?」
「大丈夫だよ。 立ってるのもなんだし、シートに座りなよ」
アザミはシートから立ち、ハルザに示した。
ハルザは「そうする」と答えていたが、その表情はどこか暗い。
「実機が来たから、こうしてハルザと一緒に居ることもできなくなるね」
アザミはいつも通りハルザの膝の上に座り、ハッチを閉める。
ハルザの様子がいつもと違うせいで、妙なプレッシャーを感じていた。
「ああ」
ハルザは淡々と答える。
「どうしたの?」
アザミが聞いても、ハルザは答えない。
「答えないなら、答えないでいいよ。 わたしはマルレのデータでも見てるから」
マルレのモニターに触れ、データを呼び出しながらアザミは言う。
「アザミ」
アザミを呼ぶ声と共に、ファスナーを下ろす音が聞こえた。
アザミ自身は、その音に気づいていない。
「ん?」
「こっちに向いてくれ。 体ごと」
「別にいいけど?」
ハルザとシミュレーターをしていた時と同じように、アザミは向かい合うようにして座り直した。
そして気付いた。
ハルザは、なぜかスーツのファスナーを下ろしていた。
はだけた部分からは、ハルザの逞しいボディが覗いている。
「なんでインナー着てないんだよ」
「なんだか暑くてな」
ハルザは笑いながら、アザミの右腕をさり気なく掴んだ。
少し強い力で、簡単にはほどけないように。
「ハル……ザ?」
アザミを見つめるハルザの目は、その表情は、獲物を捕まえて悦ぶ……あるいは、獲物にかぶりつく寸前の猛獣のようだった。
「怖がらなくていい」
アザミの心臓が激しく鼓動する。
そして視線を下に移動させて確信した。
ハルザはファスナーを最後まで下ろし、張りつめた自身を引き出している。
いつか見た時より遥かに立派になったそれは、先からどろりとした透明な蜜を溢れさせていた。
そしてアザミは察する。
そうか……ハルザはボクに欲情しているんだ。
 
――
ハルザの右手が、アザミのスーツのファスナーを下ろす。
だが、アザミは抵抗しなかった。
心の中にいるもう1人の自分、すなわち本能が、これから何が起こるのかを知りたがっている。
「ねえ、まだお昼だし、授業中だよ?」
声を震わせながら、アザミは言った。
「マルレはオレのIDでロックした。 外部からの命令も受け付けないよ。 通信はできるがな」
通信しようとすれば邪魔するんでしょ。
アザミは心の中で言った。
「なぁ、アザミ。 オレ、お前のことが……」
ハルザが言い終わる前に、アザミはハルザの口を左手で塞いでから、親指を口内に突っ込んだ。
その言葉は、順番も無視して、最初から行為に及ぼうとしている人が言っていい言葉じゃない。
「わかった。 言わないよ」
アザミが考えていたことを察したのか、ハルザは笑った。
そして、青白い舌がアザミの親指をねぶる。
親指が感じ取ったぬめりと微熱に驚き、アザミの手がぴくりと反応した。
「でもさ、おかしくない? 順序ってものがあるでしょうが」
「普通ならそうなんだろうが……お前に触れたいという欲求に負けた」
ハルザは話しながらアザミのシャツをまくり、尖った自分の爪で傷付けないように優しく、丁寧に、素肌に触れる。
アザミは慣れない感触に怯え、声を必死に押し殺した。
「アザミ」
ハルザはアザミを呼び、アザミが答える前に彼を引き寄せ、唇を奪った。
観覧車の時のキスとは違う、ゆっくりとしたキスの中で、アザミはハルザの唇の感触を、熱を、自分の唇で覚えていく。
「どうする? 続けるか?」
一旦キスをやめたハルザが、含みのある笑みを浮かべた。
アザミはハルザの上に座り直し、パイロットスーツの上だけを脱ぐ。
「続けて……みたい」
アザミが答えた直後、ハルザは再び荒々しいキスをした。
ハルザは手のひらでアザミの顎を包み、舌で口内をかき回し、初めての感覚にアザミは震える。
そして、アザミの手は自然とハルザの体を撫でていて、ハルザは優しくアザミの手を握り、誘導する。
そして、勃ち上がった自身に触れさせた。
「強く握るなよ」
ハルザは、にやにやと笑いながら、アザミの首筋にキスをする。
「うるさい」
アザミは顔を赤くしながら、ハルザの自身を優しく握った。
少し手を動かすと、指に先走りが絡みつき、ハルザは荒々しく息を吐き出した。
「アザミは……ダメか?」
「え、いや……あの……」
ハルザは、アザミのショートパンツに触れ、なにかに気づいた。
「お前。 やっぱり男だったのか」
「……うん」
アザミは、幼い頃から同性に対してのみ好意を抱いていた。
だが、LGBTを嫌う集団が、自宅近所の公園で毎日ヘイトスピーチを行っていたのだ。
ヘイトスピーチを行う彼らを恐れたアザミは、次第に他人との接触を避けるようになる。
だが、デザイナーズベイビーとして作られた影響から、アザミは男女どちらにも見える容姿に成長してしまった。
何もかもが歪な自分が嫌いで、他人に歪さを指摘されるのが怖くて、小学校と中学校はずっと保健室登校。
士官学校に転校する際は、性別を非公開とし、制服もジェンダーレスタイプのものを着用した。
そして、友とは一定の距離を置き、察したエリサ達もアザミを気遣い、深く関わることはなかった。
「この音……」
互いの服を脱がせ合おうとしていた直後、けたたましいサイレンが聞こえてきた。
演習や30年前の映像で聞き慣れたサイレン。
だが、現実では絶対に聞きたくないものだった。
「ズーシャルの出現を知らせる警報だと!?」
ハルザはパイロットスーツを着なおし、シートから立ち上がってアザミを座らせた。
「30年ぶりだね。 なんで今更出てきたんだろ」
アザミはパイロットスーツのファスナーを上げ、着心地を確認する。
そして、網膜投影用デバイスを兼ねるヘッドセットを着け、マルレを起動させた。
マルハに搭乗したハルザも、同じように機体を起動させている。
「アイツらの考えてることなんざ、誰も理解できねぇよ」
「言えてる」
マルレもマルハも、全ての武器が実戦用の装備になっていて、燃料も満タン。
永久機関『ザーフォウ』の出力も安定していた。
「ズーシャルの位置は?」
「ここから近い海岸だ。 種類は不明だが、進路予測だと第1演習場に向かってるらしい」
第1演習場にはエリサたちが居る。
実機訓練用のズムウォルトは、運用には問題無いものの、品質検査に落ちたパーツで組み上げられた機体だ。
訓練用の機体のため、出力はオリジナルから30%も抑えられ、固定装備であるコンバットナイフも外されている。
パイロットも訓練生。
実戦には耐えられないだろう。
「アザミ、基本を忘れるなよ。 オレたちはズーシャルを足止めするだけだ。 倒すのが目的じゃないからな」
「わかってる。 連絡はアイツらのところへ向かいながらするよ」
アザミは少しだけ怒っていた。
ズーシャルが、あの化物共が、2人だけの時間を邪魔したからだ。
「怒ってるのか?」
「怒る? 誰が? 別にハルザとの時間を邪魔されたからって、ヤツらを叩き潰そうとかそんなこと、考えるわけないでしょ」
アザミの言葉に、ハルザは肩をすくめた。
「……怒ってるんだな。 オレにはわかるぞ」
「おお、こわいこわい。 でも無茶はしないからさ、怒るのは許して」
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