引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

44話 苦労人アイナ

「アイナ先生、さようなら!」
「さようならー。」

「ええ、さようなら。気を付けてね……。」


夕方、授業を終えて日の沈みかけた頃に帰宅する生徒達を、私は見送る。

今受け持っている生徒達も、特に問題を起こすことなく私を慕ってくれている。
とても良いことだ。


魔法学校の教師というのは、私にとって良く合った職業だと思う。

私には魔法の才能が中の下以下しかなかった。
だから、理論や技術を磨くことで、努力で才能を補うようにして今までやってきた。


その結果、私には才能のない人間にもわかりやすく理解できるように、理論や技術を説明する力が自然と身についた。

同時に、自分には才能が無いと落ち込む人間を奮い立たせる言葉も。


嫌なことや、どうしようもないことも度々あるけれど、自分の中でこれは自分に合ったやりがいを感じられる仕事だと思うからこそ、きっと私はこの仕事を続けていられる。



「アイナ先生。今日の帰り、お食事でも一緒にどうですか?」

職員室で帰り支度をしていると、同僚のアル先生が声をかけてきた。


アル先生にはこうして度々誘いを受けることがあるけれど、いつも断っている。


理由は2つある。


1つは、同じく同僚のミリア先生があからさまにアル先生を好きらしくて、私に対して微妙に当たりがきつくなっているということ。

単にそれだけならまだいいが、最近は仕事にも支障が出る始末。

できれば仕事にそういう私情は挟まないで欲しいところだけど……まあしょうがない。


もう1つは、アル先生は……今の会話中もそうなのだが、私の胸を見すぎている。
隙あらばと言った感じで、とにかく頻繁に見られている。


まあ見られるのは慣れているので、一応それはいいとしても、こうして誘っている時に結構分かりやすく股間をもっこりさせているのは流石にどうかと思う。


私もアル先生の股間を見ているので、どっちもどっちじゃないかという話はとりあえず置いといて……。


これはどう考えても、食事の後に急行でホテル直行便のパターン。


……私も三十路前の独身女なので、時期によっては微妙にムラッと来ることもある。

ちょうどそんな時、何度断られてもめげずにまたもアプローチされてしまうと、不意に気の迷いから、1回ぐらいいいかな?と思いそうになることもある。


けれど、冷静に考えて同じ職場の同僚と肉体関係を持つのは余りにもリスクが高すぎる。

ましてや私は教師、生徒達にバレたら2度と顔向け出来ない。

明るく笑う生徒達の事を思い出せば、そんな気の迷いなんて一瞬のうちに吹き飛んでしまう。


また仮に、もしもアル先生に下心が無いんだとしても、私は別にアル先生が好きではないし、トラブルの原因になる職場内恋愛も避けたい。


そんなわけで、ミリア先生にはぜひアル先生を振り向かせるべく頑張ってほしいところだが──


「アイナ先生!これ!明日の件についての書類です!」

私とアル先生の間に割って入り、ドンッと机に思いっきり叩きつけるように書類を置くミリア先生。

それを見たアル先生が、邪魔するなと言わんばかりにあからさまに不機嫌になる。


はぁ……と私は思わずため息をつく。


嫌なことやどうしようもないことというのは、大抵教師としての仕事とは微妙にずれた、こういうところで起こる。

生徒達は本当にいい子達ばかりなんだけど……。



「あぁ、疲れた……。」

家に帰った私は、着替えもせずベッドに横になる。
今日は交換所での仕事が休みの日なので、寝るまで大分ゆっくりできる。


寝る前に、帰りしなに買ってきた半額弁当を食べてお風呂にも入らないといけないが……一度横になってしまうとそれすら億劫に感じてしまう。

とりあえず、寝そべったままポストに入っていた封筒を開けて中身を確認する。


送り主で見当は付いていたものの、内容は2級魔法技師資格試験の第1次選考通過者の一覧だった。

第2次選考の日程は、もう2週間後に迫っている。
私は今年も試験官として呼ばれているので、こうして合格者の資料が送られてきたということだ。


ページ送りをしていると、見覚えのある顔が私の目に飛び込んできた。

「この子は……。」


以前、ガイストさんが交換所に連れてきたルナさんだった。
魔法は初心者だと聞いていたけど、まさかいきなり2級を受けるとは。

しかも、しっかり1次試験を上位で通過している。


2級魔法技師は、目安としては魔法学校高等科レベルと言われている。

中等科で受かる例もなくはないが、もしも魔法学校にすら通っていない14歳が受かるとすれば相当な快挙と言える。

胸の高鳴りを感じる私だったが、不意に備考欄に記載があることに気付いた。


特記事項:魔力量過負荷の疑いあり

コメント

  • さんじゅーすい

    職員室の恋愛模様はまた別のお話なので、結末はご想像にお任せしますm(_ _)m

    1
  • 美浜

    ミリア先生可哀想。
    頑張って!

    2
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