引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

23話 「真緑の舞姫」エリザ

結局あの後、ルナはこっちに来られただけでもよかったってことと、魔法が使えるようになったから別にそれでいいやってことで落ち着いたらしい。

まあ、目覚めた時異世界に来られたってわかって相当うれしそうだったからな。
向こうでも何かと色々あったようだし。
何だかんだ、最後にはいつも前向きになるルナは、見ていて俺も元気になる。


リヒトは帰り、俺も自分の部屋に戻ってきた。
夕食まではまだ少し時間があるようだ。


ベッドに横になりながら、俺は明日からのことを考える。

俺は前回優勝者ということで免除されているが、剣術大会には本来予選があり、それを突破した者だけが明日からの本戦に出場できる。

つまり本戦には、それなりに腕の立つ者が出場してくると言うわけだ。
リヒトとの戦いが今回の本命とは言え、なかなかに胸が躍る。


なお、前回まではルール上一切の魔法の使用は禁止されていたが、今回からは一部の補助魔法の使用が認められるように改正されたとのこと。

前回はそれほど苦戦することもなく優勝出来てしまったが、今回はそうもいかないかも知れないということだ。
より実戦に近い形での対人戦ができるというのも楽しみだ。


自信があるかと聞かれれば何とも言えないが、負ける気は一切ない。
どんな相手も、どんな戦術も、ただ全力で叩きつぶすのみ。


「ガイスト、そろそろご飯の時間だって。今日は肉料理らしくて、廊下までいいにおいしてるわ。」

ノックの音と共に、リーシェの声が聞こえる。

「おお、そりゃ楽しみだ。わかった、すぐ行く。」

ベッドから起き上がりながら、俺は答えた。
明日のためにも、しっかりと食べておかないとな。


────


翌日。


歓声の中、俺は再びこの闘技場に立っている。


この闘技場には何かの技術を応用したとかいう、受けた傷を1/100に減らすフィールドを特殊な魔導具により発生させているらしい。
但し、本来受けるはずだったダメージによる体力や気力の消耗等は、そのまま受ける。

詳しい仕組みは俺にもよくわからんが、簡単に言うと真っ二つにぶった切ってもほぼ無傷で済むが、気は失うので勝敗はつくと言うことだ。

稼働には魔血晶をガンガン食うらしく、こういうものがあるから、俺たちがやってる魔物討伐稼業が成り立っているとも言える。


「あーあ、いきなり優勝候補と当たるなんて運がないなぁ……。でも、もう1人の優勝候補のイケメン騎士君じゃなくてまだよかったかなぁ?あなたの方が、まだあたしとの相性よさそうだし。」

そう言ったのは初戦の相手、「真緑しんりょくの舞姫」エリザだ。
女の短剣使いのようだが──


「そりゃどーも。……つうかあんたその格好で戦うつもりか?最低限の部分しか隠せてねーぞ。体も痩せすぎでとても剣士には見えねぇ。」


エリザの服は、胸と腰しか隠せていない。
防御は完全に捨てているようだが、回避によほどの自信があるのか。

それにこの体。身長は160台はありそうだが、あばらが浮き出るぐらいに痩せている。
胸を含め贅肉はゼロに等しく、腹筋もバキバキに割れているので、ただの痩せ型というわけでもないが。


「やーだー、そんなに見られたらはーずーかーしーいー。あははは。」

体をくねらせ、ふざけた態度でげらげら笑っているが、目が全く笑ってねぇ。
獲物を狩る鳥みたいな目で、じっと俺を睨んでやがる。
小麦色によく日焼けした肌がまた、余計に猛禽類をイメージさせる。

去年はこういうタイプは全くいなかったため、全く予想がつかんし、得体も知れん。


「双方、位置について……構え。」


「……それでは、始め!」


審判による試合開始の合図。


俺は右足で地面を蹴り、一気にエリザとの距離を詰める。

エリザの武器は短剣だ。加えてあの軽そうな体。防具もないに等しい。
リーチの面でも体格差でも、俺が圧倒的に有利と言える。

射程内に捉え、一撃でも当てれば俺の勝ちだ。短剣で受けられても必ず押し切れる。


「終わりだっ!」

エリザを射程内に捉え、刃にイメージを込め全力で剣を振り下ろす俺。


しかしその瞬間、ほんの一瞬エリザの周囲に淡い緑色の力場が発生したかと思えば、エリザが一瞬にして視界から消える。


「……くっ!」

振り下ろした剣が地面に叩きつけられ、轟音とともに発生した衝撃波が闘技場全体へと広がる。
風圧を感じた観客席から、どよめきが起こった。

外したか……少し振り下ろすタイミングを早まったかも知れん。

しかしエリザはどこだ?
魔法による回避か?


「うわー……とんでもない威力だねー。かすっただけでも、おねーさん一発で昇天しちゃいそう。」


エリザの声は、左斜め上から聞こえていた。
声のする方を向くと……エリザが空を飛んでいた。

鳥のように、弧を描きながらゆっくりと、獲物である俺を見つめながら。

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