引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─
6話 基礎から学ぶマーヤ先生のやさしい魔法講座初級編
「ガイストさん、わたし、魔法が使いたいです!」
「なんだ、また唐突だな。一応言っておくと、俺は魔法が大の苦手で教えられないからな。」
ルナがこの村に来て2週間程度になる。
住み込みで宿屋の仕事の手伝いをしているのだが、なかなか飲み込みが早いようで既に一人前としての働きっぷりを見せている。
親父さんと女将さんは、娘が増えたようだと喜んでいた。
意外に愛想もよく、客からの評判も良い。
変わり者のルナではあったが、もう既にこの村の一員として溶け込んでいるように見えた。
「いやほら、せっかく魔法のある世界に来ちゃった訳だから、やっぱり魔法使ってみたいじゃないですか。こう、ばーっとなんかこう、すごいの。ぴーってなってぶわーってなるああいうのですよ、ああいうの。誰か教えてくれそうな人、いないですか?」
身振り手振りで擬音を織り交ぜ、生き生きとした表情で熱く語るルナだったが、残念ながらぴーとかぷーとか、俺には全くと言っていいほど伝わって来ない。ぴーって何だよ、笛かよ。
ただ、魔法が使いたいという情熱だけはこれでもかと言うぐらいに伝わってきた。
「魔法ならリーシェがある程度の回復魔法を使えるから、リーシェに教えてもらうのが一番いいんだが……生憎今は町へ買い出しに行ってるところだからな。」
「えーと、確かわたしが昏睡してた時、マーヤちゃんが魔法で治してくれたみたいなこと言ってた気がするんですけど、マーヤちゃんに教えてもらうというのはダメなんですか?」
「マーヤなぁ……喜んで教えてくれるとは思うが、あまりお勧めはしないな。」
「どーしてですか?何かやばいんですか?リーシェちゃん帰ってくるの待ちきれないし、話だけでも聞いてみたいなーって思うんですけど……。」
「いやまぁ、……そうだな、行ってみればわかる。よし、じゃあマーヤの家に行ってみるか。」
「やったー!」
そんなこんなで、俺とルナは裏山のマーヤの家までやって来た。
「こんにちはなの、ガイスト、ルナちゃん。今日もいい天気だねー。」
「うそだろ……何で起きてるんだ……。」
「えへへー、えらい?」
マーヤの家に行って、マーヤが起きている確率は100回に1回あるかないかぐらいだ。
つまらない所で運を使っちまった。
でも起こす手間が省けたのは非常に助かる。
「今日は1つお願いがあって来たんだ。」
「マーヤちゃん、わたしに魔法を教えて欲しいんです!とびっきりのすっごいやつ!」
「いや、いきなりすっごいとか言うのはやめといた方が──」
ぐんぐんとハードルを上げていくルナを止めようとした俺だったが、時既に遅し。
マーヤが目を輝かせてそこに全力で食いついていった。
「ルナちゃん!本気なんだね!?」
「もちろんです、マーヤちゃん!……いえ、先生!マーヤ先生と呼ばせて下さい!!」
「魔法の世界はとっても奥が深いの。マーヤが基礎の基礎からしっかりみっちり教えて、必ずルナちゃんを一流の魔法使いに育て上げて見せるの!」
「先生……わたし、うれしいです!わたし、がんばります!!」
両手を取り合い、お互い見つめ合いながら語らい合う2人。
傍目には感動的なシーンに見えなくもないが、俺にはこの先の展開が手に取るようにわかる。
ルナはマーヤの恐ろしさを何もわかっちゃいない。
というか、あのマーヤが言う一流ってどんなレベルを想定してるんだ一体。
「えっへん。それではこれより、マーヤ先生による第1回、基礎から学ぶやさしい魔法講座初級編を始めますなの。」
「はい!よろしくおねがいします!」
「それじゃあまず、魔力とマナの関係とその制御方法から説明するの。この辺はとっても簡単だからさらっと流しちゃうね。まずマナって言うのは魔力の器のようなもので、第1形態、第2形態、第3形態まであるとされているの。第1形態におけるマナの魔力容量を仮にXとしたとき、第2形態の魔力容量はXの約6倍、第3形態の魔力容量はXの約36倍となることが知られているの。この形態間の魔力容量の差が魔力をアストラル界からエーテル界へと移動させ、エーテル界において魔法を行使する際に重要なキーとなるわけなの。」
「???」
「つまり、例えばアストラル界において第3形態のマナに魔力を容量限界まで充填、これを第3形態を維持しつつエーテル界まで移動し、ここで第1形態へと変化させると、魔力容量限界が形態変化により減少し、(36-1)×X倍つまり、35X相当の魔力が外部へと放出されることになるの。もっともこれは理論上可能と言うだけのもので、実際は第2形態への変化、(36-6)×X倍つまり30X相当の魔力放出によって魔法が行使されることが一般的なの。第3形態から第1形態への昇華型形態変化による魔法は、負担が大きい割に見返りが小さいからとっても非効率なの。」
「……。」
「初学者が勘違いしがちなのは、魔力そのものを力ずくで制御して魔法を行使しようとするところなの。これはエーテル界に散在する魔力をかき集めて魔法を行使することなのだけど、その程度の魔力で、エーテル界と物質界の相関関係を基礎とした、いわゆる魔法と呼ばれるレベルの現象を引き起こすことはまず不可能なの。魔力は常にマナの器を介してアストラル界、つまり上位次元から垂直に降ろしてくるもので、同一次元で水平に探すものではないの。だから、真に学ぶべきはマナの形態変化の方法と制御方法なの。まずマナの形態は周囲のプラーナの圧力によって変化点が上下することが知られていて、これは呼吸によって──」
「あ、あの!マーヤ先生!わたしちょっと急用を思い出しちゃって、その、また今度おねがいします!!」
「そうなの?ここからが面白いんだけど仕方ないの。またいつでもどうぞなの。」
「ありがとな、マーヤ。また何かあったら頼むぜ。」
「もちろんなの!ガイストもまたなの。」
帰り道、何かぶつぶつ言ってたルナが急に顔を上げて、泣きそうな顔でクレームを入れてきた。
「何なんですかあれ!?天才ですか?天才幼女なんですか!?外国のすっごい大学で幼女なのに飛び級余裕でした、みたいなあれですか!?」
「やばい、ぜんっぜんわかんなかった……わたしマジ魔法の才能0かもしんない。やばい。これほんとあれだわ、あれ。テスト用紙表向けたらぜんっぜん意味分かんなくて全教科赤点MAXみたいな?ガイストさんの忠告無視したわたし、超ダメな子……。」
「いやまあ、俺もだな、マーヤに教わり続けて魔法が苦手になった口でな……。まあ気を取り直して帰ったら改めてリーシェに教わるといいと思うぞ。きっとわかりやすく教えてくれるはずだからな。」
「ほんとかなぁ……くすん。」
落ち込むルナを適当になだめつつ、俺たちは村へと戻った。
「なんだ、また唐突だな。一応言っておくと、俺は魔法が大の苦手で教えられないからな。」
ルナがこの村に来て2週間程度になる。
住み込みで宿屋の仕事の手伝いをしているのだが、なかなか飲み込みが早いようで既に一人前としての働きっぷりを見せている。
親父さんと女将さんは、娘が増えたようだと喜んでいた。
意外に愛想もよく、客からの評判も良い。
変わり者のルナではあったが、もう既にこの村の一員として溶け込んでいるように見えた。
「いやほら、せっかく魔法のある世界に来ちゃった訳だから、やっぱり魔法使ってみたいじゃないですか。こう、ばーっとなんかこう、すごいの。ぴーってなってぶわーってなるああいうのですよ、ああいうの。誰か教えてくれそうな人、いないですか?」
身振り手振りで擬音を織り交ぜ、生き生きとした表情で熱く語るルナだったが、残念ながらぴーとかぷーとか、俺には全くと言っていいほど伝わって来ない。ぴーって何だよ、笛かよ。
ただ、魔法が使いたいという情熱だけはこれでもかと言うぐらいに伝わってきた。
「魔法ならリーシェがある程度の回復魔法を使えるから、リーシェに教えてもらうのが一番いいんだが……生憎今は町へ買い出しに行ってるところだからな。」
「えーと、確かわたしが昏睡してた時、マーヤちゃんが魔法で治してくれたみたいなこと言ってた気がするんですけど、マーヤちゃんに教えてもらうというのはダメなんですか?」
「マーヤなぁ……喜んで教えてくれるとは思うが、あまりお勧めはしないな。」
「どーしてですか?何かやばいんですか?リーシェちゃん帰ってくるの待ちきれないし、話だけでも聞いてみたいなーって思うんですけど……。」
「いやまぁ、……そうだな、行ってみればわかる。よし、じゃあマーヤの家に行ってみるか。」
「やったー!」
そんなこんなで、俺とルナは裏山のマーヤの家までやって来た。
「こんにちはなの、ガイスト、ルナちゃん。今日もいい天気だねー。」
「うそだろ……何で起きてるんだ……。」
「えへへー、えらい?」
マーヤの家に行って、マーヤが起きている確率は100回に1回あるかないかぐらいだ。
つまらない所で運を使っちまった。
でも起こす手間が省けたのは非常に助かる。
「今日は1つお願いがあって来たんだ。」
「マーヤちゃん、わたしに魔法を教えて欲しいんです!とびっきりのすっごいやつ!」
「いや、いきなりすっごいとか言うのはやめといた方が──」
ぐんぐんとハードルを上げていくルナを止めようとした俺だったが、時既に遅し。
マーヤが目を輝かせてそこに全力で食いついていった。
「ルナちゃん!本気なんだね!?」
「もちろんです、マーヤちゃん!……いえ、先生!マーヤ先生と呼ばせて下さい!!」
「魔法の世界はとっても奥が深いの。マーヤが基礎の基礎からしっかりみっちり教えて、必ずルナちゃんを一流の魔法使いに育て上げて見せるの!」
「先生……わたし、うれしいです!わたし、がんばります!!」
両手を取り合い、お互い見つめ合いながら語らい合う2人。
傍目には感動的なシーンに見えなくもないが、俺にはこの先の展開が手に取るようにわかる。
ルナはマーヤの恐ろしさを何もわかっちゃいない。
というか、あのマーヤが言う一流ってどんなレベルを想定してるんだ一体。
「えっへん。それではこれより、マーヤ先生による第1回、基礎から学ぶやさしい魔法講座初級編を始めますなの。」
「はい!よろしくおねがいします!」
「それじゃあまず、魔力とマナの関係とその制御方法から説明するの。この辺はとっても簡単だからさらっと流しちゃうね。まずマナって言うのは魔力の器のようなもので、第1形態、第2形態、第3形態まであるとされているの。第1形態におけるマナの魔力容量を仮にXとしたとき、第2形態の魔力容量はXの約6倍、第3形態の魔力容量はXの約36倍となることが知られているの。この形態間の魔力容量の差が魔力をアストラル界からエーテル界へと移動させ、エーテル界において魔法を行使する際に重要なキーとなるわけなの。」
「???」
「つまり、例えばアストラル界において第3形態のマナに魔力を容量限界まで充填、これを第3形態を維持しつつエーテル界まで移動し、ここで第1形態へと変化させると、魔力容量限界が形態変化により減少し、(36-1)×X倍つまり、35X相当の魔力が外部へと放出されることになるの。もっともこれは理論上可能と言うだけのもので、実際は第2形態への変化、(36-6)×X倍つまり30X相当の魔力放出によって魔法が行使されることが一般的なの。第3形態から第1形態への昇華型形態変化による魔法は、負担が大きい割に見返りが小さいからとっても非効率なの。」
「……。」
「初学者が勘違いしがちなのは、魔力そのものを力ずくで制御して魔法を行使しようとするところなの。これはエーテル界に散在する魔力をかき集めて魔法を行使することなのだけど、その程度の魔力で、エーテル界と物質界の相関関係を基礎とした、いわゆる魔法と呼ばれるレベルの現象を引き起こすことはまず不可能なの。魔力は常にマナの器を介してアストラル界、つまり上位次元から垂直に降ろしてくるもので、同一次元で水平に探すものではないの。だから、真に学ぶべきはマナの形態変化の方法と制御方法なの。まずマナの形態は周囲のプラーナの圧力によって変化点が上下することが知られていて、これは呼吸によって──」
「あ、あの!マーヤ先生!わたしちょっと急用を思い出しちゃって、その、また今度おねがいします!!」
「そうなの?ここからが面白いんだけど仕方ないの。またいつでもどうぞなの。」
「ありがとな、マーヤ。また何かあったら頼むぜ。」
「もちろんなの!ガイストもまたなの。」
帰り道、何かぶつぶつ言ってたルナが急に顔を上げて、泣きそうな顔でクレームを入れてきた。
「何なんですかあれ!?天才ですか?天才幼女なんですか!?外国のすっごい大学で幼女なのに飛び級余裕でした、みたいなあれですか!?」
「やばい、ぜんっぜんわかんなかった……わたしマジ魔法の才能0かもしんない。やばい。これほんとあれだわ、あれ。テスト用紙表向けたらぜんっぜん意味分かんなくて全教科赤点MAXみたいな?ガイストさんの忠告無視したわたし、超ダメな子……。」
「いやまあ、俺もだな、マーヤに教わり続けて魔法が苦手になった口でな……。まあ気を取り直して帰ったら改めてリーシェに教わるといいと思うぞ。きっとわかりやすく教えてくれるはずだからな。」
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コメント
美浜
やばい!全然分からない。
私の魔法の才能は0なのかもしれない......
めっちゃ面白いです。