引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

3話 100歳越えな幼女で魔女のマーヤ

翌日、俺とリーシェは裏山のマーヤの家の前まで来ていた。
裏山と言っても特に険しい道のりではなく、整備された道を10分も歩けば着く程度の距離だ。

経緯はよくわからないが俺が生まれるずっと昔からここに住んでいて、村の医者として病人などが居れば快く診察してくれる。
例の女の子は厳密には村の住人ではないが、マーヤはそんな細かいことを気にする人でもない。

だが、そんなマーヤにも1つ問題はある。


「マーヤ、起きてるか?開けてくれ。診て欲しい子がいるんだ。」

「マーヤさまー。開けてくださーい。」

ドアを軽く叩きながら呼びかけるが、特に返事はない。
ドアノブを回すと、やはりいつも通り鍵は掛かっておらず、そのまま開いてしまった。

「またか、相変わらず不用心だな……。一応女の独り暮らしなんだぞ。」

と口にはしたものの、マーヤをどうこうできる人間も魔物も事実上存在しないのだから、実のところ言うほど不用心でもないのかも知れない。

「こりゃまた一日中寝てるパターンだな。」

「マーヤ様、入りますよー。」

リビングを越えて寝室へと足を踏み入れると、予想通りベッドですやすや眠っているマーヤの姿があった。
盛大に口の端からよだれを垂らしながら、なんとも幸せそうな寝顔である。

「起きてくれ、マーヤ。急病人……かはわからんが寝たまま起きない女の子がいるんだ。」

「マーヤさまー、起きてー。……ねぇガイスト、寝たまま起きない女の子って、それもうまんまマーヤ様のことだよね。くすくす……。」

「ほんとだよ。こないだも連続18時間寝たって別に自慢になってない自慢してたしな。トイレが我慢出来ずに断念したらしいが、何に対して挑戦してるんだ一体。あと寝てると腹が減らないそうだな。当たり前すぎるすげーどうでもいい豆知識だ。」

リーシェと話していると、ベッドのマーヤがもぞもぞと動き出した。

「う……うぅーん、……もう朝なのー?マーヤまだねむいのー。」

伸びをしながら眠そうな声で喋りだすマーヤ。
だいたい一日中寝てるマーヤには朝も夜も関係ない気はするが、一応起床イコール朝の公式は持ち合わせているらしい。
というかまだ眠いって……。

「ガイスト、まずいわ……マーヤ様の二度寝宣言よ。寝る子なのに全然育たないマーヤ様の、世界最強の二度寝よ。」

いつもにも増して深刻な表情でリーシェが危機を告げる。だが悲しいかな、いつも通り冗談で言っているのは火を見るより明らかなのである。
様付けで呼ぶのに冗談のネタにしてしまう辺り、リーシェもマーヤのことを癒し系お子様枠として見ていると思うのだが、どうだろうか。

声も外見も喋りも、マーヤを構成するありとあらゆる要素がやたら幼い。まさにただの近所の子供。
これで世界最強クラスの力を持つ英雄だというのだから、世の中どうかしてる。

ともかく、ここで世界最強クラスの二度寝(リーシェ評)をされてしまっては、凡人の俺たちではもはや手も足も出なくなることは明白である。
18時間後にまたどうぞと言うのはあんまりではないか。
すなわち、マーヤの意識が多少なりとも浮上している今しか仕掛けるチャンスはない。

「マーヤ、急病人らしき女の子がいるんだ。済まないが一緒に村に来て診てもらえないか?」

「マーヤ様、おねがい。私たちじゃよくわかんなくて……。」

正確には急病人ではない気がするが、背に腹はかえられない。
後でお菓子をあげて謝っておこう。

「きゅうびょうにん……それは大変なの!」

「おっと、マーヤはこっちだぜ。」

目論見通り、急病人の言葉に反応したマーヤはがばっとベッドから起き上がって即座に立とうとしたのだが、それを遮るようにして、すかさず俺はマーヤを抱き上げて腕に抱えた。

いわゆるお姫様抱っこである。マーヤは見た目通り小さいし軽いので、大した負担にはならない。
今日は急ぎなので、マーヤの体がちゃんと目覚めるのを待つよりも、こうした方が手っ取り早い。

「ありがとーガイスト。力持ちだね!」

「いやいや、力ならマーヤの方がずっと怪力──」

「それ以上言っちゃだめなのー!れでぃーに怪力なんて、でりかしーが無いのー。」

ふくれっ面で不満を口にしたマーヤだったが、別に本気で怒っているわけでもない。
これもいつもの俺たちのスキンシップの一環である。

「俺の目標はマーヤを超えることなんだが、そういうもんなのかねぇ……はいはい、お姫様。じゃあ急いで行くぜ!」

「マーヤ様お姫様抱っこいいなぁ……って、待ってよー、ガイストはやーい!」

そんなこんなで、俺たちはマーヤを連れて村へと急いだ。
女の子がどういう状態であれ、マーヤならきっと何とかしてくれることだろう。

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