魔王の村長さん
3 「村長不在の中の成果」
俺が寝ていた部屋は2階だったようで、ギシギシと音を立てながら階段を下りると、階段のすぐ横に黒い鎧の置物が置いてあった。
「うおっ!? って何だ黒士か……驚いた。何でこんなとこに立っているんだ? 」
素朴な家には、場違いな禍々しい鎧の置物に最初は飛び上がらんばかりに驚いたが、よく見ると黒士だった。
リビングアーマーの黒士は、動かないと置物の鎧にしか見えないな……
「村長を守るため」
「黒士は、カケルの見舞いに来るみんなを引き止めてくれたんですよ」
「そうなのか。ありがとな黒士」
「無事でよかった」
「心配かけて悪かったな」
言葉少なめに話す黒士。
ゲームでも寡黙な方だったが、異世界に来てもそれは変わらないのか。
折角なので黒士も誘って一緒に外に出た。
家の外に出ると、ワイワイガヤガヤと賑やかそうにみんながそれぞれ作業を行っていた。
俺が外に出ると、バッと一斉にみんながこっちを見てきた。
ちょっとびっくりした。
「村長、目を覚ましたんですね! 」
「もう具合は大丈夫なのか村長? 」
「あーそんちょうだ! おきたんだー! 」
「村長だって? なんだ思ったよりも元気そうじゃねぇか」
仲間たちは、注目を受けて固まった俺を見て、口々に話しかけてきた。明確な自我が生まれたせいかゲームの時よりもみんなが生き生きとしているように見えた。
「あ、ああ。みんな、心配かけて悪かったな。ごめん。心配してくれてありがとう」
◆◇◆◇◆◇◆
やはりというか、みんなは俺がいなくても十分優秀だった。
俺が寝ている間にみんなは各々の判断で、班を作って作業を分担して進めてくれていた。
それらの詳しい報告は、それを指揮していた班長の小鴉、ゴブ筋、ポチ、頑冶、それとオリーから聞くこととなった。
最初に報告してくれたゴブ筋の班は、村の警備と死体を探して一か所に安置する作業を行ってくれた。
死体を何の処置もせず放置しているのは衛生的にも悪いし、ミカエルが対処してくれたけどアンデット化の危険もある。何より耐性のないモンスターが吐いたり体調を崩したり俺のように失神する者が出たそうで、耐性のある仲間が総出で綺麗にしてくれたそうだ。
流石モンスターというか、ほとんどの子は耐性があるみたいだ。その清掃に子供にしか見えないオリーまで参加していたと聞いた時は、本当に驚いた。
死体の処理に関しては、俺抜きで勝手にすべきではないと判断したらしく、現在は死体を一か所に集めて安置しているだけに留めているらしい。集めた結果、死体の数は百を少し超える程の数になったそうだ。死体の死因までも既に調べてくれていて、刺殺か撲殺のどちらかだった。
多くの馬の蹄の跡もあったことから村を襲ったのは、人間又は亜人だとゴブ筋は言っていた。要するに村を襲ったのは、盗賊のようだ。
警備に関しては、この村には、ボス級のモンスターが何体もいるせいか村近辺に野生のモンスターは影も形もなかったそうだ。まぁ、モンスターだって死にたくないだろうし当然だろう。
そして、小鴉の班は、空を飛べて夜目が効く仲間を率いて広範囲を調査。フェンリルのポチの班は、嗅覚が優れた仲間を率いて村に残った襲撃者の匂いを元に追跡してくれた。
空から周囲を調査した小鴉達は、ここから北東に進んだ場所で広大な森を見つけてくれた。少し調べた限りでも数多くのモンスターが生息していることが確認できたそうだ。薬学に精通している仲間によると、薬になる素材も確認できたそうだ。素材集めに重宝しそうな森だな。
盗賊を追跡したポチ達は、ここから更に北に進んだ先で全滅しているのを確認したそうだ。
全滅の原因はモンスターの襲撃、軍狼とも呼ばれてるグルッフの群体と争い全滅したみたいだ。村人らしき姿も確認されていて、連れて行かれていたところを巻き込まれて一緒に死んでいた。その死体は夜のうちにポチたち追跡班が持ち帰り、村で発見された死体と同じ場所に安置されているそうだ。
残りの襲ったと思われる盗賊の死体は、ただでさえグルッフとの戦闘で損傷が激しく、日にちが経って腐敗臭が凄かったため村人の死体のようにわざわざ運ぶのを誰もが嫌がり、結局そのまま放置してきたそうだ。
村人の死体も盗賊と同様に腐ってただろうに、わざわざ持ち帰ってくれたポチ達に礼を言って労った。
念入りに洗ったのかポチからは腐敗臭のにおいはしなかった。
ただ、死んでいたグルッフと一部証拠になるものは証拠や素材として必要だと判断して、ポチと小鴉の班が手分けして持って帰ってきてくれていた。
「これが、証拠の品です」
「……ご苦労だった小鴉。それにポチもお疲れ」
「ウォン! 」
小鴉が渡してきた、証拠として持って帰ってきたモノは、血がべったりとこびり付いた剣だった。
……何よりの証拠ではあるけどね? いや、首持ってこられるよりはよっぽど良かったけど。
見た所、剣自体の質はかなり使い込まれていてガラクタ同然と言ってもいいほどだった。
このままじゃもう使えないし、炉が使えるようになったら融かしてインゴットに戻そうかな?
そう思ったが、剣にべっとりとした血が目に止まった。
いや、こんなの捨てるか……
ひとまずは、アイテムボックスに入れておこう。
「カケル、無理しなくてもいいのよ? 」
血の付いた剣を見て少し青ざめた俺に気付いたようで、心配した天狐がそっと空いた手を握ってきた。
「え? ああ、これくらい大丈夫大丈夫」
「本当? 無理しちゃだめよ? あなたはさっき倒れたばかりなのよ」
「大丈夫だって、無理はしてないよ」
天狐を安心させるためにポンポンと頭を撫でた。
天狐の金色の髪の毛はサラサラとしていて、軽く撫でただけだが手触りがとても良かった。
「あっ……ひゃ!? カケル!! 」
「あ、ごめんごめん」
「もうっ」
狐耳に手が当たった時、過敏に反応してたけどもしかして天狐って耳が敏感?
あれ? ゲームの時は、特にそんなことはなかった気がするけど……
あ、余計なことを考えてしまっていた。
気を取り直して、次の報告を聞いた。
続いて報告してくれた頑冶の班は、荒らされた村の修繕をしてくれていた。
壊れたドアや損傷している壁、家具など、襲撃者に荒らされて破損した箇所を一軒一軒手分けして修繕してくれているようだ。道具は、廃材や村にあった既存の物など、ありあわせのものに手を加えて自作したらしい。
そう言われて周りの家を見てみると、確かに壁にあった血痕のあとも消えているし、損傷したドアや壁も傷が無い元の姿に戻っていた。
流石、頑冶。いい仕事をしてくれている。修繕した部分は、ほとんど見分けがつかない。
とは言っても、今はまだ俺が見える家ぐらいまでしか修繕は完了していないようだ。外見だけでなく家の内部もかなり荒らされているらしく、その修理に手間取っているそうだ。
あと、頑冶は一部の仲間(主に生産者)から親方と呼ばれてるらしい。
ゲームの時は、モンスターはお互いを名前でしか呼ばなかったが、異世界に飛ばされて自我が芽生えたことで、そういうちょっとしたところが変わっているようだ。
そして、最後にオリーの班だが、俺が寝ている間に薬学に精通した仲間たちで村近辺の素材集めと、村の農場の世話を村人に代わってしてくれていた。
オリーは、世界樹の化身という種族のモンスターだ。
戦闘でも主力になる程の強力な能力とステータスを有しているが、それ以上に生産面で役立つ能力を持っていてゲームの時は、村では大活躍だった。
それと、薬を作るための道具一式を頑冶が用意してくれたので、薬の方も何種類か作ってくれていた。
「はい、そんちょーお薬」
「おーありがとな。オリー助かるぞ。よしよし」
「えへへ~」
下級の解毒薬と中級のMP回復ポーション、それと睡眠薬と下剤の5種類をまとまった数、オリーから渡された。試しに【鑑定】してみたが、効能はゲームの時と変わってなかった。
オリーの能力もちゃんと反映されているらしく等級に似合わない高い効能のものもあった。
既に分かっていたことではあるけど、この世界でもモンスターの固有能力やスキルはきちんと反映されるようだ。
「あ、そうだ。オリー、丘で集めた薬草を使って他の薬もつくれるだけつくってくれるか? 」
「うん。がんばる! 」
「いい返事だな。頼んだぞ」
オリーには、追加でアイテムボックスに入れていた薬草を渡した。
自分でするつもりだったけど、回復薬は出来るだけ早くに用意して置きたいので、今回はオリー達に頼むことにした。
「えへへ~」
俺に頼まれて嬉しそうにはにかむオリーは、ゲームの時以上に可愛くなったと思う。
これで、報告は終わり――と思ってたんだけど、どうやら班以外で個人で色々やってくれた人からも報告があるらしくそっちも聞くことになった。
最初の一人は龍源だった。
龍源は、自分の腹が減っていたということで小鴉が見つけた森で色々とモンスターを狩ってきたらしい。小鴉の言っていた森に住むモンスターの種類が豊富という報告は龍源のおかげでわかったことみたいだ。
「まだ現地のモンスターとは戦わないようにってみんなに頼んどいたはずなんだけどな……」
「お、そうだったか? ワハハハッ、すまんすまん忘れておった」
「……」
まぁ俺の話をコロッと忘れたのは、この際いいとしよう。
実際、問題なかったようだし、ジト目で見るくらいにしておこう。
戦った龍源にゲームの時との違いを聞いた所、モンスターの強さはあまり変わってないらしい。
まだ調査が不十分のまま龍源の話を鵜呑みするわけにはいかないけど、その情報で一先ず安心できた。
龍源が倒したモンスターは、今は村の入り口付近に積んでいるそうだ。後でアイテムボックスに収納しておこう。
あ、今更だけど、みんなはここが前の世界、つまりゲームの世界とは、まったく別の世界と言うのは認識出来ているようだった。
次に、報告してきたのはセレナだった。
セレナは、水精女王という種族のモンスターで、契約なしで水の精霊を使役できる固有能力を所有している。
今回は、その能力を使って村を通っている新たな地下水脈を発見して、その水脈から村の井戸に綺麗な水を地上に引いてくれた。村にあった井戸は、枯れ始めてたそうなのでいい仕事をしてくれたと思う。
セレナとしては、最初からそんなつもりはあったわけではなく、ここの水の精霊たちと交流している内にそんな流れになったそうだ。結果オーライという奴である。
他にもモグが、この辺の地下を掘った際に宝石や鉱石をいくつか発見して持ってきてくれたなどみんなは、個人でも色々なことをしてくれていた。
「これでもう全員終わりか? 俺に報告することはもうないか? 」
そろそろみんな出し尽くしたかな。
と思っていたら、それまで姿を見せてなかった妖艶な美女が俺の前に進み出てきた。
美女の背中からは、黒い悪魔の羽と尻尾が生えていた。
「妖鈴? 」
「村長ぉ、起きたのね。とぉ~っても心配したのよ? 」
「心配させて悪かったな。妖鈴も何か報告があるのか? 」
露出の多い服を着たまま体を近づけてくる妖鈴に出来るだけ視線を合わせないようにしながら俺は尋ねた。
ゲームの時もそうだったが、妖鈴のような淫魔系の初期装備は、異性を魅了するという種族特性に合わせているのか、とても目のやり場に困る。
「報告ぅ? あ、そうだったわ。家の地下食料倉庫から衰弱した子供を6人見つけたわ」
「なんだってっ!? それは本当か妖鈴っ」
「本当よ。あそこの家から幼い精気が漂ってたからそれを辿ってみたら見つけたの」
「その子供達は今どこに!? 」
「ミカエルに任せたわぁ。どうも村に充満していた瘴気に当てられて衰弱してたみたいなの。今はミカエルが治療しているわ」
「場所は? 」
「あそこの家の地下よぉ」
「分かった。よく見つけてくれた妖鈴! 天狐、今すぐ行くぞ! 」
「ええ、わかったわ」
「あ、私もいくわ」
襲撃から数日が経っていることや天狐たちの報告から生存者の存在は諦めていたんだが……
子供達が生き残っていたと聞いて自分の涙腺が緩くなるのを堪えつつ、俺は足早に妖鈴が指さした家へ向かった。
それにしても、かすかな精気を感じ取って見つけるなんて流石サキュバスクイーンの名は伊達ではないな。
「うおっ!? って何だ黒士か……驚いた。何でこんなとこに立っているんだ? 」
素朴な家には、場違いな禍々しい鎧の置物に最初は飛び上がらんばかりに驚いたが、よく見ると黒士だった。
リビングアーマーの黒士は、動かないと置物の鎧にしか見えないな……
「村長を守るため」
「黒士は、カケルの見舞いに来るみんなを引き止めてくれたんですよ」
「そうなのか。ありがとな黒士」
「無事でよかった」
「心配かけて悪かったな」
言葉少なめに話す黒士。
ゲームでも寡黙な方だったが、異世界に来てもそれは変わらないのか。
折角なので黒士も誘って一緒に外に出た。
家の外に出ると、ワイワイガヤガヤと賑やかそうにみんながそれぞれ作業を行っていた。
俺が外に出ると、バッと一斉にみんながこっちを見てきた。
ちょっとびっくりした。
「村長、目を覚ましたんですね! 」
「もう具合は大丈夫なのか村長? 」
「あーそんちょうだ! おきたんだー! 」
「村長だって? なんだ思ったよりも元気そうじゃねぇか」
仲間たちは、注目を受けて固まった俺を見て、口々に話しかけてきた。明確な自我が生まれたせいかゲームの時よりもみんなが生き生きとしているように見えた。
「あ、ああ。みんな、心配かけて悪かったな。ごめん。心配してくれてありがとう」
◆◇◆◇◆◇◆
やはりというか、みんなは俺がいなくても十分優秀だった。
俺が寝ている間にみんなは各々の判断で、班を作って作業を分担して進めてくれていた。
それらの詳しい報告は、それを指揮していた班長の小鴉、ゴブ筋、ポチ、頑冶、それとオリーから聞くこととなった。
最初に報告してくれたゴブ筋の班は、村の警備と死体を探して一か所に安置する作業を行ってくれた。
死体を何の処置もせず放置しているのは衛生的にも悪いし、ミカエルが対処してくれたけどアンデット化の危険もある。何より耐性のないモンスターが吐いたり体調を崩したり俺のように失神する者が出たそうで、耐性のある仲間が総出で綺麗にしてくれたそうだ。
流石モンスターというか、ほとんどの子は耐性があるみたいだ。その清掃に子供にしか見えないオリーまで参加していたと聞いた時は、本当に驚いた。
死体の処理に関しては、俺抜きで勝手にすべきではないと判断したらしく、現在は死体を一か所に集めて安置しているだけに留めているらしい。集めた結果、死体の数は百を少し超える程の数になったそうだ。死体の死因までも既に調べてくれていて、刺殺か撲殺のどちらかだった。
多くの馬の蹄の跡もあったことから村を襲ったのは、人間又は亜人だとゴブ筋は言っていた。要するに村を襲ったのは、盗賊のようだ。
警備に関しては、この村には、ボス級のモンスターが何体もいるせいか村近辺に野生のモンスターは影も形もなかったそうだ。まぁ、モンスターだって死にたくないだろうし当然だろう。
そして、小鴉の班は、空を飛べて夜目が効く仲間を率いて広範囲を調査。フェンリルのポチの班は、嗅覚が優れた仲間を率いて村に残った襲撃者の匂いを元に追跡してくれた。
空から周囲を調査した小鴉達は、ここから北東に進んだ場所で広大な森を見つけてくれた。少し調べた限りでも数多くのモンスターが生息していることが確認できたそうだ。薬学に精通している仲間によると、薬になる素材も確認できたそうだ。素材集めに重宝しそうな森だな。
盗賊を追跡したポチ達は、ここから更に北に進んだ先で全滅しているのを確認したそうだ。
全滅の原因はモンスターの襲撃、軍狼とも呼ばれてるグルッフの群体と争い全滅したみたいだ。村人らしき姿も確認されていて、連れて行かれていたところを巻き込まれて一緒に死んでいた。その死体は夜のうちにポチたち追跡班が持ち帰り、村で発見された死体と同じ場所に安置されているそうだ。
残りの襲ったと思われる盗賊の死体は、ただでさえグルッフとの戦闘で損傷が激しく、日にちが経って腐敗臭が凄かったため村人の死体のようにわざわざ運ぶのを誰もが嫌がり、結局そのまま放置してきたそうだ。
村人の死体も盗賊と同様に腐ってただろうに、わざわざ持ち帰ってくれたポチ達に礼を言って労った。
念入りに洗ったのかポチからは腐敗臭のにおいはしなかった。
ただ、死んでいたグルッフと一部証拠になるものは証拠や素材として必要だと判断して、ポチと小鴉の班が手分けして持って帰ってきてくれていた。
「これが、証拠の品です」
「……ご苦労だった小鴉。それにポチもお疲れ」
「ウォン! 」
小鴉が渡してきた、証拠として持って帰ってきたモノは、血がべったりとこびり付いた剣だった。
……何よりの証拠ではあるけどね? いや、首持ってこられるよりはよっぽど良かったけど。
見た所、剣自体の質はかなり使い込まれていてガラクタ同然と言ってもいいほどだった。
このままじゃもう使えないし、炉が使えるようになったら融かしてインゴットに戻そうかな?
そう思ったが、剣にべっとりとした血が目に止まった。
いや、こんなの捨てるか……
ひとまずは、アイテムボックスに入れておこう。
「カケル、無理しなくてもいいのよ? 」
血の付いた剣を見て少し青ざめた俺に気付いたようで、心配した天狐がそっと空いた手を握ってきた。
「え? ああ、これくらい大丈夫大丈夫」
「本当? 無理しちゃだめよ? あなたはさっき倒れたばかりなのよ」
「大丈夫だって、無理はしてないよ」
天狐を安心させるためにポンポンと頭を撫でた。
天狐の金色の髪の毛はサラサラとしていて、軽く撫でただけだが手触りがとても良かった。
「あっ……ひゃ!? カケル!! 」
「あ、ごめんごめん」
「もうっ」
狐耳に手が当たった時、過敏に反応してたけどもしかして天狐って耳が敏感?
あれ? ゲームの時は、特にそんなことはなかった気がするけど……
あ、余計なことを考えてしまっていた。
気を取り直して、次の報告を聞いた。
続いて報告してくれた頑冶の班は、荒らされた村の修繕をしてくれていた。
壊れたドアや損傷している壁、家具など、襲撃者に荒らされて破損した箇所を一軒一軒手分けして修繕してくれているようだ。道具は、廃材や村にあった既存の物など、ありあわせのものに手を加えて自作したらしい。
そう言われて周りの家を見てみると、確かに壁にあった血痕のあとも消えているし、損傷したドアや壁も傷が無い元の姿に戻っていた。
流石、頑冶。いい仕事をしてくれている。修繕した部分は、ほとんど見分けがつかない。
とは言っても、今はまだ俺が見える家ぐらいまでしか修繕は完了していないようだ。外見だけでなく家の内部もかなり荒らされているらしく、その修理に手間取っているそうだ。
あと、頑冶は一部の仲間(主に生産者)から親方と呼ばれてるらしい。
ゲームの時は、モンスターはお互いを名前でしか呼ばなかったが、異世界に飛ばされて自我が芽生えたことで、そういうちょっとしたところが変わっているようだ。
そして、最後にオリーの班だが、俺が寝ている間に薬学に精通した仲間たちで村近辺の素材集めと、村の農場の世話を村人に代わってしてくれていた。
オリーは、世界樹の化身という種族のモンスターだ。
戦闘でも主力になる程の強力な能力とステータスを有しているが、それ以上に生産面で役立つ能力を持っていてゲームの時は、村では大活躍だった。
それと、薬を作るための道具一式を頑冶が用意してくれたので、薬の方も何種類か作ってくれていた。
「はい、そんちょーお薬」
「おーありがとな。オリー助かるぞ。よしよし」
「えへへ~」
下級の解毒薬と中級のMP回復ポーション、それと睡眠薬と下剤の5種類をまとまった数、オリーから渡された。試しに【鑑定】してみたが、効能はゲームの時と変わってなかった。
オリーの能力もちゃんと反映されているらしく等級に似合わない高い効能のものもあった。
既に分かっていたことではあるけど、この世界でもモンスターの固有能力やスキルはきちんと反映されるようだ。
「あ、そうだ。オリー、丘で集めた薬草を使って他の薬もつくれるだけつくってくれるか? 」
「うん。がんばる! 」
「いい返事だな。頼んだぞ」
オリーには、追加でアイテムボックスに入れていた薬草を渡した。
自分でするつもりだったけど、回復薬は出来るだけ早くに用意して置きたいので、今回はオリー達に頼むことにした。
「えへへ~」
俺に頼まれて嬉しそうにはにかむオリーは、ゲームの時以上に可愛くなったと思う。
これで、報告は終わり――と思ってたんだけど、どうやら班以外で個人で色々やってくれた人からも報告があるらしくそっちも聞くことになった。
最初の一人は龍源だった。
龍源は、自分の腹が減っていたということで小鴉が見つけた森で色々とモンスターを狩ってきたらしい。小鴉の言っていた森に住むモンスターの種類が豊富という報告は龍源のおかげでわかったことみたいだ。
「まだ現地のモンスターとは戦わないようにってみんなに頼んどいたはずなんだけどな……」
「お、そうだったか? ワハハハッ、すまんすまん忘れておった」
「……」
まぁ俺の話をコロッと忘れたのは、この際いいとしよう。
実際、問題なかったようだし、ジト目で見るくらいにしておこう。
戦った龍源にゲームの時との違いを聞いた所、モンスターの強さはあまり変わってないらしい。
まだ調査が不十分のまま龍源の話を鵜呑みするわけにはいかないけど、その情報で一先ず安心できた。
龍源が倒したモンスターは、今は村の入り口付近に積んでいるそうだ。後でアイテムボックスに収納しておこう。
あ、今更だけど、みんなはここが前の世界、つまりゲームの世界とは、まったく別の世界と言うのは認識出来ているようだった。
次に、報告してきたのはセレナだった。
セレナは、水精女王という種族のモンスターで、契約なしで水の精霊を使役できる固有能力を所有している。
今回は、その能力を使って村を通っている新たな地下水脈を発見して、その水脈から村の井戸に綺麗な水を地上に引いてくれた。村にあった井戸は、枯れ始めてたそうなのでいい仕事をしてくれたと思う。
セレナとしては、最初からそんなつもりはあったわけではなく、ここの水の精霊たちと交流している内にそんな流れになったそうだ。結果オーライという奴である。
他にもモグが、この辺の地下を掘った際に宝石や鉱石をいくつか発見して持ってきてくれたなどみんなは、個人でも色々なことをしてくれていた。
「これでもう全員終わりか? 俺に報告することはもうないか? 」
そろそろみんな出し尽くしたかな。
と思っていたら、それまで姿を見せてなかった妖艶な美女が俺の前に進み出てきた。
美女の背中からは、黒い悪魔の羽と尻尾が生えていた。
「妖鈴? 」
「村長ぉ、起きたのね。とぉ~っても心配したのよ? 」
「心配させて悪かったな。妖鈴も何か報告があるのか? 」
露出の多い服を着たまま体を近づけてくる妖鈴に出来るだけ視線を合わせないようにしながら俺は尋ねた。
ゲームの時もそうだったが、妖鈴のような淫魔系の初期装備は、異性を魅了するという種族特性に合わせているのか、とても目のやり場に困る。
「報告ぅ? あ、そうだったわ。家の地下食料倉庫から衰弱した子供を6人見つけたわ」
「なんだってっ!? それは本当か妖鈴っ」
「本当よ。あそこの家から幼い精気が漂ってたからそれを辿ってみたら見つけたの」
「その子供達は今どこに!? 」
「ミカエルに任せたわぁ。どうも村に充満していた瘴気に当てられて衰弱してたみたいなの。今はミカエルが治療しているわ」
「場所は? 」
「あそこの家の地下よぉ」
「分かった。よく見つけてくれた妖鈴! 天狐、今すぐ行くぞ! 」
「ええ、わかったわ」
「あ、私もいくわ」
襲撃から数日が経っていることや天狐たちの報告から生存者の存在は諦めていたんだが……
子供達が生き残っていたと聞いて自分の涙腺が緩くなるのを堪えつつ、俺は足早に妖鈴が指さした家へ向かった。
それにしても、かすかな精気を感じ取って見つけるなんて流石サキュバスクイーンの名は伊達ではないな。
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