令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

84.終章⑤


 図書室で本を読んでいても落ちつかないので、ロギは食堂へ来てみた。聖堂を思わせる高窓とアーチ天井の食堂は、昼にはまだ早いためか、人が少ない。

 数少ない生徒の中に、ロギはこの時間帯にここにいるのはめずらしい人物を見つけた。
 マヨルだ。
 マヨルは窓から上位クラスの校舎棟を見つめていた。四階では、メリチェルの試験が行われているはずだ。

 もう結果は出たころだろうか……。

 落ちつかない同志がここにいたと、ロギはマヨルの席へ歩を進めた。

「めずらしいな。白制服は朝から晩までびっちり授業じゃないのか?」
「休講だ。先生が、お嬢様の試験を見てるから」
 ロギのほうを見もせずに、マヨルは答えた。

「ふーん」
「……馴れ馴れしく私の前に座るな」
「いいじゃねえかよ。メリチェルの話だと、おまえの祖国じゃ精霊使いはえらいんだろ? 俺も精霊呼び出したぞ。敬え敬え」

「姿なき精霊に姿を与える力と、ただ呼び出す力とじゃ雲泥の差だ。お嬢様は多くの精霊に姿を与えた。素晴らしい能力だ。それに引き替えおまえときたら、生まれたばかりのカロア様におかしなことを吹きこんで、わけのわからない人格にしてしまった。なんだあの恥ずかしい格好は。あれが大河の主精か――」
「俺は知らん! あれはあのド阿呆が勝手にそうなっただけだ」
「何をどうやったらあんなふうになるんだ!」
「旅費が二人分かかって金がないから、盛り場で歌でも歌って稼いでこいって言っただけだ! 華のある顔してるからいけるかなと思って……。そしたらキャーキャー騒がれて、あの精霊が調子に乗ったんだ! あとは自分で勝手に衣装揃えて……」
「やはりおまえのせいじゃないか!」
「俺は知らん! あいつが勝手に!」
「本当にろくなことをしないな、おまえは! おまえがしゃしゃり出てくるようになってから、お嬢様は――」

 マヨルはそこで一端、言葉を切った。

「おまえばかりを目で追ってるぞ」


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