令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

80.終章①

【カロア様をお呼びするための心得】
 
1、自己中心的であってはなりません。カロア様は人のために心を尽くす人間にしか力をお貸しくださいません。
2、術者としての高い能力を持たなければなりません。カロア様の実体化には技術、力量ともに高度な力が必要です。
3、美を解する心がなくてはなりません。カロア様は美意識を持たない人間の話は聞いて下さいません。


「……これはなんだ? うぐ」
 学生掲示板にでかでかと張られた張り紙である。学院側ではなく、学生が勝手に作成したものらしい。その文面を見て、ロギは口の中の蜂蜜飴をうっかり飲み込んでしまったようだ。

「読んで字のごとく、カロア様をお呼びするための注意書きなんでしょうけど……。1、2はわかるけど、3ってどうなの? ロギ」
「新しい人格が暴走して、本人がろくでもない話でもしたんだろ……。3はほっとけ」

 カロア川の精霊が、中庭で演説をぶった数日後である。

 演説をききそびれたメリチェルは、その内容をマヨルからきこうと思った。しかしマヨルは精霊に怒り狂っていて、罵詈雑言てんこ盛りで語るので、正しい内容がつかめなかったのだ。

「マヨルって怒ると冷静さがどっかいっちゃうから、ときどき困るわ」
「なんでそんなに精霊に怒ったんだ?」
「わたしとロギを追いかけようとしたら、金縛りにあって体が動かなかったんですって。カロア様のしわざに違いないって怒ってたわ。カロア様がそんなことする理由がわからないけど……。術式でマヨルを止められる生徒がいるとは思えないから、やっぱりカロア様なのかしら?」
「……レオニードかな」
「えっ、レオニード先生がどうして?」
「邪魔させないように……いやいやいや」

 ロギは言葉を濁して目をそらした。

 ごまかさないでちゃんと言ってほしいとメリチェルは思った。ロギは下宿に帰ってきてからも、落ちつかない様子でずっとそわそわしているのだ。

「ねえロギ、なんでそんなに落ちつかないの? 心ここにあらずってかんじよ」
 ついつい、きつい口調になってしまった。言ったあとに後悔したが、ロギは口調などまるで気にしない様子でこう言った。
「だって今日はおまえの編入試験だろ。受からなかったら、ソルテヴィルに帰るんだろ」

 意表を突かれた。

「――心配してくれてたの?」
「そりゃするさ。まあなんだ、その、おまえがいなくなったらさみしいし」
「……」
「合格しろよ。絶対だぞ」
「がんばるわ」
「おう」


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