令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
72.第四章 愛しさと、ぬくもりと⑨
「おい」「見ろよ」「龍だ!」「水龍が――」「わあ」「すげえ!」
あちらこちらで驚きの声が出る。
中庭の生徒たちも窓辺の生徒たちも、みな一様に空を見上げていた。
メリチェルも見上げた。
――ああ、ちがうわ。
カロア川の方向から低空を飛んでやってくるのは、見事な水の龍だった。
しかしそれは、生きてはいなかった。鋳型でつくった作り物のようだった。鋳型でつくったつくりものが、みえない糸で操られている。ゆれるたび、ざぶん、ざぶんと無様な水音を立てて。
「ふふ、どう?」
メリチェルを見下ろし、勝ち誇ったようにミラが言った。
「見事だわ」
「これでもあたしを嘘つき呼ばわりする気?」
「嘘つきじゃなかったら、ミラはなんて呼ばれたいの? 水龍づくりの達人?」
ミラが怒りに目を見開いた。今度こそ蹴られるとメリチェルは思った。
「精霊使いとお呼び――きゃああああっ!」
ミラがすごい勢いで後方にすっとんだ。
背中から、背後に控えていた取り巻きたちの中に突っ込む。そしてローザたちもろとも花壇までとんでいき、全員尻から花壇の土の上に落ちた。
唖然とするミラと取り巻きたち。
見物していた生徒は全員、中庭の真ん中に注目していた。
白い制服の生徒が片手を高く上げ、ミラの集中が切れて龍からただの水の塊と化した巨大な質量を空中で支えていた。
「貴様ら……」
白制服のマヨルは、花壇で泥だらけなっている一団を眼光鋭くにらみつけ、絞り出すような低い声で言った。
あちらこちらで驚きの声が出る。
中庭の生徒たちも窓辺の生徒たちも、みな一様に空を見上げていた。
メリチェルも見上げた。
――ああ、ちがうわ。
カロア川の方向から低空を飛んでやってくるのは、見事な水の龍だった。
しかしそれは、生きてはいなかった。鋳型でつくった作り物のようだった。鋳型でつくったつくりものが、みえない糸で操られている。ゆれるたび、ざぶん、ざぶんと無様な水音を立てて。
「ふふ、どう?」
メリチェルを見下ろし、勝ち誇ったようにミラが言った。
「見事だわ」
「これでもあたしを嘘つき呼ばわりする気?」
「嘘つきじゃなかったら、ミラはなんて呼ばれたいの? 水龍づくりの達人?」
ミラが怒りに目を見開いた。今度こそ蹴られるとメリチェルは思った。
「精霊使いとお呼び――きゃああああっ!」
ミラがすごい勢いで後方にすっとんだ。
背中から、背後に控えていた取り巻きたちの中に突っ込む。そしてローザたちもろとも花壇までとんでいき、全員尻から花壇の土の上に落ちた。
唖然とするミラと取り巻きたち。
見物していた生徒は全員、中庭の真ん中に注目していた。
白い制服の生徒が片手を高く上げ、ミラの集中が切れて龍からただの水の塊と化した巨大な質量を空中で支えていた。
「貴様ら……」
白制服のマヨルは、花壇で泥だらけなっている一団を眼光鋭くにらみつけ、絞り出すような低い声で言った。
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