令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

61.第三章 くじらちゃんを探せ⑲

 翌朝。
 ベルタがなにやらバタバタしていると思ったら、出掛けのロギに弁当の包みを渡してくれた。

「朝晩は冷えるよ。マントだけじゃ安心できないよ。厚い肌着は持ったかい?」
「まあ、いちおう……」
「学院の人に、ちゃんとあいさつは済んでるね?」
「すぐ戻るんだし」
「あいさつしてないのかい!」
「いやいや、先生には言ってある」
「よろしい」
 よろしいって。
 あんたは母ちゃんかと半分あきれてベルタを見れば、メリチェルが横でくすくす笑っている。

「お弁当づくりはメリチェルちゃんも手伝ってくれたんだよ」
 ベルタの言葉にびっくりして令嬢を見れば、「手伝いじゃなくて邪魔になっちゃったわ」ともじもじした。

 堂々としたメリチェルもいいが、恥じらうメリチェルもかわいいと思ってしまった。

(妹だ。妹として見たらだ。妹だったら妹だ!)

 ベルタはまるで母親のようで、メリチェルはまるで妹のよう。自分は培ってきた力を頼みに、妹の大切な友達を探しにいく。母親と妹に暖かく見送られて――。それはいまだかつて経験したことのない幸福な情景で、ロギは頭がくらくらした。

 幸福を完璧な形にするために、必ずやくじらちゃんを取り戻そう。
 探し出し、汚れていたら清め、傷ついていたらなおそう。
 くじらちゃんだってきっと、元気な姿でメリチェルのもとへ帰りたがっているはずだ。

(俺はくじらちゃんを探す力もあるし、清める力もなおす力もある。なんだってできるぞ。すげえな、俺)

 セロロスとベルタとメリチェルに玄関先で見送られ、澄んだ朝の空気の中、ロギはくじらちゃん探しに出立した。

 デジャンタンを出る前に、まず試してみたいと思っていることがある。

 ロギはカロア川へ足を向けた。


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