令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
54.第三章 くじらちゃんを探せ⑫
メリチェルは長椅子でぽろぽろ涙をこぼしていた。ベルタが横に座って彼女の肩を抱いている。
いつもは笑顔の令嬢は、ときおり鼻を啜りあげながら、ひっく、ひっくと泣きじゃくっていた。
「く……くじらちゃんにあいたい……」
またそれかとは言う気になれなかった。
今のメリチェルには、砂糖菓子のような笑顔も辛口な言葉もなかった。しおれた花のようにうなだれて、両手に顔をうずめてしくしく泣いている。
一体どうしてしまったんだ。
ロギはまずあわてた。それからだんだん、悲しくなってきた。
泣かないでほしい。
いつものように笑顔を見せてほしい。
うっとうしいくらい、話しかけてほしい。邪魔してもいいから。いくらでも、邪魔していいから。
「わかった。探してやる」
ロギの言葉に、メリチェルは涙でぐしょぐしょの顔をあげた。
あと二、三年したら大した美人になりそうなその顔は、まぶたが腫れて台無しだった。
メリチェルはひくっと小さくしゃっくりをした。なかなか言葉がでないようだった。
「どんなんだ? そのくじらちゃんってのは」
「白くて、丸くて、メロンくらいの大きさなの。ちっちゃなおめめに、にっこりしたおくちなの。ふわふわしてて――かわいいの」
くじらちゃんのことを思い出しているうちに悲しみが新たにこみあげてきたのか、メリチェルの口元はわななき、声はふるえにふるえた。
「かわいいの。とてもかわいいの。五歳からずっと一緒だったの。大切だったの」
ロギはメリチェルの頭にぽんと右手を置いた。
メリチェルに触れるのははじめてだった。
頭蓋骨ちっちぇえなと思った。髪がやわらけえなと思った。
本当に、まだ咲く前の弱々しい蕾なんだな……。
「探してやる」
頭に手を置いたまま、ロギはもう一度力強く言った。
メリチェルに笑顔が戻るなら、なんでもしてやろうと思った。
いつもは笑顔の令嬢は、ときおり鼻を啜りあげながら、ひっく、ひっくと泣きじゃくっていた。
「く……くじらちゃんにあいたい……」
またそれかとは言う気になれなかった。
今のメリチェルには、砂糖菓子のような笑顔も辛口な言葉もなかった。しおれた花のようにうなだれて、両手に顔をうずめてしくしく泣いている。
一体どうしてしまったんだ。
ロギはまずあわてた。それからだんだん、悲しくなってきた。
泣かないでほしい。
いつものように笑顔を見せてほしい。
うっとうしいくらい、話しかけてほしい。邪魔してもいいから。いくらでも、邪魔していいから。
「わかった。探してやる」
ロギの言葉に、メリチェルは涙でぐしょぐしょの顔をあげた。
あと二、三年したら大した美人になりそうなその顔は、まぶたが腫れて台無しだった。
メリチェルはひくっと小さくしゃっくりをした。なかなか言葉がでないようだった。
「どんなんだ? そのくじらちゃんってのは」
「白くて、丸くて、メロンくらいの大きさなの。ちっちゃなおめめに、にっこりしたおくちなの。ふわふわしてて――かわいいの」
くじらちゃんのことを思い出しているうちに悲しみが新たにこみあげてきたのか、メリチェルの口元はわななき、声はふるえにふるえた。
「かわいいの。とてもかわいいの。五歳からずっと一緒だったの。大切だったの」
ロギはメリチェルの頭にぽんと右手を置いた。
メリチェルに触れるのははじめてだった。
頭蓋骨ちっちぇえなと思った。髪がやわらけえなと思った。
本当に、まだ咲く前の弱々しい蕾なんだな……。
「探してやる」
頭に手を置いたまま、ロギはもう一度力強く言った。
メリチェルに笑顔が戻るなら、なんでもしてやろうと思った。
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