令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

47.第三章 くじらちゃんを探せ⑤

「カロア様、どうしてまた出てきてくれないのかしら……」
「出てきたら大騒動になるからじゃないのか?」
「カロア様にお礼を言いたかったのに……」

「流路を変えてくれとか言い出すやつがいたら困るから、ほいほい出てこられないんじゃないか? 河川は値のつけられない公共財だ。デジャンタンにとっては命綱とも言える。飲料用としても、水路としても」

 メリチェルははっとしたようにロギを見た。

「俺がカロア川の精霊なら、おいそれとは出てこられねえな。もしも悪い人間にとっつかまっていいように操られたら、都市存亡の危機だ」

「都市存亡……」

「昔の童話であったよな。王様が精霊を好き勝手に操ったせいで、国が滅ぶ話。あれ、実話かもな」
「……」

「メリチェル」

 ロギの呼びかけに、メリチェルが顔をあげた。
 ロギは彼女を励ましたいと思った。

 こいつは、笑ってるのが似合う。砂糖菓子みたいにふわふわ楽しげに笑っているのに、ときおりとんでもなく強気で辛口になるのが似合う。

「おまえならだいじょうぶだよ。デジャンタンを滅ぼしたりしないさ。精霊はきっとまた出てきてくれる」

「だいじょうぶじゃないわ……」
 らしくない、弱気な言葉だった。

「どうしたんだ?」
「だって、アンゼラを追いつめたのはわたしかもしれないもの」
「まさか。おまえが何やったっていうんだ」
「つい意地になって知識をひけらかして、アンゼラの自尊心を傷つけたわ……。アンゼラだって、意地になってひどい言葉を返しただけだわ。あんな言葉、レオニード先生には聞かれたくなかったはずよ」
「あれはおまえのせいじゃないだろ」
「そんなのわからないじゃない……」
「わからないことで落ち込むなよ」
「優秀な人の未来を潰したわ。アンゼラはもう学院に戻れない」

 ここにも世間知らずがいた。
 いいとこのボンボンだの貴族のご令嬢だのは、最初から高いステージにいるから、敗者復活戦になじみがないのだろう。

「おい、出かけるぞ」
「えっ?」
「おかみ、ちょっと出かけるぜ。夕飯までには戻る」
 ロギは台所へ声をかけた。ベルタも「えっ!」と声をあげる。

「ちょっと、どこ行くのつもりよロギ?」
「流れ術者の溜まり場だ」


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