令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

28.第二章 カロア川の精霊⑥


 通りかかったレオニード主幹教諭だった。注意を受けた女生徒は顔を真っ赤にし、せわしなく本を拾って、せかせかと逃げ去った。主幹教諭は追いかけてまで説教する気はないのか、ため息とともに前髪をかきあげた。

「彼女は今、少し不安定なんだ。許してやってほしい」
 去りゆく女生徒の背を見つめ、レオニードは言った。
「はい」
「あとで僕から話をしておくよ」

 レオニードはメリチェルたちにそう言い残し、次の講義へ向かった。

「……彼女に言い過ぎちゃったわ」
 レオニードを見送りながら、しょんぼりとメリチェルは言った。
「そうかあ? 国際情勢の基礎の基礎も知らないで『国を守る』とかほざくやつにはもっと言ってやっていいと思うぜ? たまにいるよな、術式ばっかり勉強してほかのことなーんにも知らないやつ。まあそういうのは、王立術士団に入っても続かないけどな」
「入ってもない人がなにを言っているの」
「あんた、俺に言い過ぎ……」

「あらあの人、本を一冊拾い忘れてる」
 メリチェルは持ち主に石畳へ叩きつけられた教科書を、そっと拾いあげた。
「名前が書いてあるわ。……アンゼラってお名前なのね、あの人。寄宿舎に持っていけばいいかしら」
「届ける気か? ほっとけよ。自分で投げ捨てたんだ」
「投げ捨てる気持ちもわかるじゃないの」
「マヨルに負けたくやしいきいきいきい!って心の声は聞こえたな。わかりやすい女だ」
「お名前と心の声がわかっちゃったら、もうほっとけないじゃないの」

「そうかあ?」
「そうよ」

「あんた変わってんなあ……。貴族の令嬢ってもっとツンケンしてるもんじゃねえの?」
「『貴族の令嬢』って分類でわたしを見ないでちょうだい。わたしは『メリチェル』よ」

 

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